昭和37年

年次世界経済報告

世界経済の現勢

昭和37年12月18日

経済企画庁


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第1部 総論

第5章 国際流動性増強をめぐる国際協力

1. 国際流動性増強の必要性

われわれは第2章で主要国際通貨たるドルとポンドの基礎の弱いことが米英両国の経済成長を制約していることを指摘した。

世界貿易に大きな比重を占める米英の成長率が低いことは世界貿易全体の発展を抑制するばかりでなく,キー・カレンシーたるドルとポンドに対する不安の発生は外国為替市場を混乱させることで,世界の経済や貿易に攪乱的な影響をおよぼすのである。

そこでドルやポンドの基礎を固め,ドル不安やポンド不安の発生しないようにすることが,世界経済の成長をいっそう高めるために必要となってくる。

そのためにはドル不安やポンド不安の根源であるこの両国の基礎的国際収支の慢性的な不均衡を是正するとともに,思惑的な短資移動や金価格の高騰を未然に防止しなければならない。

とりわけドルは今日の国際決済体制の基礎であり,その動揺が世界の経済と貿易にあたえる影響の大きいところから,ドル防衛のための努力はアメリカのみならず世界全体に課せられた重要な責務といえよう。

このようにキー・カレンシーに対する信認の維持ということが当面の世界経済の重要な課題であるが,それと関連して次の問題を指摘せねばならない。それは世界貿易の拡大にともない全体としての国際流動性をふやしていかねばならぬという問題である。現在国際流動性が世界的に不足しているか否かについては各種の意見があり,ヤコブソン専務理事や欧大陸諸国の中央銀行筋は当分の間,現状で十分であるという見解をとっている。かりにそうであるとしても,将来世界貿易の発展にともない国際流動性をふやしていく必要があることは論をまたぬところであろう。

以上のようにみてくると,国際流動性増強の問題は当面はキー・カレンシーの信認維持ということに帰着するけれども,長期的な問題としては,なんらかの形で国際通貨体制の安定を維持しながらしかも国際流動性の量をふやしていけるような仕組みをつくり出さねばならぬという問題がある。

このような観点から過去1年間を振りかえってみると,国際流動性増強のための国際協力が著しく進展したことが認められる。ただしそれは主としてドル不安の除去,すなわちドルの信認維持のための協力措置であって,長期的な国際流動性増強の問題については一,二の注目すべき対策が提案されたけれども,現在のところまだ専門家や関係機関の間で検討中の段階にとどまっている。

そこで以下においては,過去1年間にみられた国際流動性増強のための協力措置または提案を簡単に紹介することにしたい。なお,国際流動性問題の一環として低開発諸国の国際流動性不足の問題があるが,これは前述したキー・カレンシーの信認維持や長期的な国際流動性増強の問題とは次元を異にし,低開発諸国の経済構造に根ざすものであり,その国際的な解決方法としては結局のところ広い意味での援助の増強よりほかはないであろう。


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