昭和37年

年次世界経済報告

世界経済の現勢

昭和37年12月18日

経済企画庁


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第1部 総論

第4章 低開発国の輸出停滞と経済開発の方向

4. 援助における国際協力

国内に開発資金が不足しているだけでなく,恒常的に国際流動性不足に悩む低開発国が工業化を推進してゆくにあたっては,低開発国自らの開発努力とともに先進国の援助が不可欠の要件であることはあらためてのべるまでもない。しかも現段階においては,低開発国援助は先進国と低開発国間の所得の格差を是正するという積極的な意味を持つと考えられるようになってきた。世界経済の真の発展は低開発国の経済成長率を高めることなしにはありえないという認識の深まりである。

低開発国援助は近年金額が次第に増大している。たとえば経済協力開発機構(OECD)の下部機関である開発援助委員会(DAC)の諸国の援助額をみても,1961年には87億ドルと前年より17%増加している。日本の援助額は同じ期間に2.6億ドルから3.8億ドルヘ45%と大幅に増加し,1962年の第1回年次審査委員会において,その努力が高く評価された。

このように援助の金額が増加すると同時に,最近では国際的な協調の動きが強まっている点が特に注目される。その中でも顕著なものとして,DACと,国連における「開発10年」の動きをあげることができる。

DACは,アメリカの提唱で創設された開発援助グループ(DAG)が昨年9月にOECDに組み入れられて新たに発足したものであるが,その創設の動機は,西欧や日本の資金を動員して低開発国援助の額を増大せしめることにあった。DACの活動は次第に活発となり,1962年の第1回年次審査会議では,各国の援助の実態を審査し,各国の経済力に応じた援助が実施されているかどうかが検討されるまでになった。そして今後の援助方式として,低開発国の必要とする資金を加盟国が分担し合うという,いわゆるコンソルシャム方式が検討されている点が注目される。

国連の「開発10年」に関する決議は1961年の第16回国連総会において満場一致で採択された。これはケネディ大統領の提唱した案を骨子としたもので,その狙いは,従来国連の各機関がそれぞれの立場でやってきた事業を共通の目標のもとに調整し,国連の諸活動を一そう拡充しようとするところにあるが,低開発国の経済成長率の引き上げが,特にその中心課題となっている。

1962年の第34回経済社会理事会(ECOSOC)においても「開発10年」に討議の焦点が合わされ,国連貿易開発会議の開催に関する決議が採択された。そしてガットとの関係を十分考慮しながら,今後準備委員会を設けて,会議開催の準備を進めることになった。この貿易会議では,貿易問題だけではなく,開発計画や開発援助の問題も取りあげられることになっている。したがっでここでは,低開発国の経済問題が世界的視野の下で検討され,経済援助が国連を通じて強化されようとしているわけで,援助の国際協力は国連の場でも広がりつつあるといえるだろう。

また低開発国に対する援助の問題を単に資金や技術の分野だけに限って考えるのでは,十分とはいえないのであって,先進国が低開発国の一次商品や工業製品をそれが商業ベースにのっているばあいには,積極的に輸入してやり,またこれらの商品に対する輸入制限はこれを緩和ないし撤廃するように努力することも,広い意味での援助といえるだろう。最近では低開発国の側にも「援助より貿易を」の考え方が強まってきている。

そのような観点からみて62年10月に発効した綿製品に関する長期取極めは極めて注目に値する。すなわち,綿製品の輸入国は,今後5年間にわたって輸入量の増加を約束するとともに,低開発国の輸出問題を特に考慮することが,この長期取極めの中で確認されたのである。もちろん,市場を攪乱されるおそれがあるばあいには輸入国側に輸入制限を課しうる権利が保留されているとはいえ,そのような協定が成立したことは,不十分ながらも貿易面における国際協力が一歩前進したことを意味するとみてよく,かかる貿易を通しての広い意味での低開発国援助が今後ますます拡充されることが望まれる。


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