昭和37年
年次世界経済報告
世界経済の現勢
昭和37年12月18日
経済企画庁
第1部 総論
第3章 EECを中心とする世界貿易体制の再編成
このようにみてくると,EECの発展に対する二大工業国のEEC接近措置,すなわちアメリカの通商拡大法およびイギリスのEEC加盟問題は,これを世界貿易全体の問題としてみるならば,要するに,自由貿易体制へ向かっての歩みということができるであろう。しかもその貿易の自由化はとりわけ先進工業諸国間のものであり,したがってやがて北大西洋全域にわたる自由貿易圏あるいは一大広域市場が出現する可能性も考えられる。EECをめぐる世界貿易の再編成は;制度的にいってまずこのような貿易の自由化であるといえる。それは上述してきたところからも明らかなように,重化学工業品とりわけ機械類におけるEECを中心とする先進工業国間貿易の一そうの進展を意味し,これが今後の世界貿易を拡大せしめる主因となるであろう。
EECを中心とする世界貿易は今後ともかかる水平分業をとおして発展することになるであろう。
このような世界貿易の再編成が世界経済にとってもつ意義は,それが貿易の拡大を通じて,また国際競争という刺激を通じて,先進工業諸国の経済ひいては世界経済の成長を高める一因となりうることにある。このことはとりわけ低成長国であるアメリカとイギリスについて期待されるが,EEC経済にとっても貿易の自由化は成長の刺激要因となるであろう。それにその他西欧諸国あるいは日本にしても,工業国間水平分業への参加を通じて経済成長をつづけていく道がひらかれるわけである。
しかし,このような世界貿易の再編成は,いままでたびたび指摘してきたように,他面において低開発国の輸出不振という問題をはらんで進みつつある。これは工業諸国全体の協力の下に世界的な規模で解決していかなければならない問題であるが,アメリカの通商拡大法がラテン・アメリカをはじめとする第三国の利益を顧慮していること,あるいはイギリスがEECとの交渉において英連邦の一次商品輸出国の利益を代弁していることなども,このような方向にあるものと考えられる。