昭和36年

年次世界経済報告

経済企画庁


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第1部 総  論

第3章 地域化と国際分業の進展

1. 地域化の進展とイギリスのEEC加盟申込み

1959年1月に事実上の発足をみた欧州共同市場EECは究極的には政治統合を目的とし,経済的には域内における商品,資本,労働の移動の自由化を徹底的に行なうことによって資源の最適配分をはかり,これを通じて域内諸国の経済発展を極大化しようとするもので,世界の政治経済史上画期的な試みを持つものであった。以後この方向への歩みは順調に進展しており,労働力自由移動,共通社会政策,共通通商政策その他の分野においての協同体制の基礎もかたまりつつあり,部分的にはすでに実施の段階にはいったものもある。また,共同市場一本の長期経済計画まで作成作業の段階にはいってきている。すなわち,西欧6カ国(仏,独,伊,ベネルックス3国)の地域統合は1960~61年を通じていよいよ進展しているといってよい。

本質的にはEECと性格が異なるとはいえ,これに類する地域統合あるいは地域協力への動きは他地域でも高まりつつある。すなわち共産圏のCOME CON(経済相互援助会議)を別としても,中米共同市場,中南米自由貿易地域LAFTA,東南アジア連盟ASA等の進展である。

中米共同市場は,グァテマラ,エルサルバドル,ホンジュラス,ニカラグァ,を構成国とし,1958年6月「中米の自由貿易および経済統合に関する多数国間条約」および「中米の産業統合に関する協定」の調印によって第1歩を踏み出した。これは域内貿易の拡大により産業の多角化,工業化を促進しようとするもので,域内関税の撤廃と対外共通関税の設定とにより,効力発生後10年以内に関税同盟を完成することを規定するとともに,経済的かつ競争力の強い産業を締約国が共同で育成して行くための種々の特典を規定している。この条約は1960年4月,最後にホンジュラスが批准を完了し,6月に発足した。

LAFTAは,1960年2月のモンテビデオ条約にもとづいて設立された。

構成国は,アルゼンチン,ブラジル,チリ,メキシコ,パラグァイ,ウルグァイ,ペルーの7カ国である。

この条約は,域内の関税その他の貿易障壁を漸次撤廃して条約発効後12年以内に自由貿易地域を創設することをねらいとしている。そのおもな内容は,12年間で域内関税を撤廃して域内からの輸入を完全に自由にするためのスケジュール,最惠国待遇の規定,エスケープ・クローズの規定,低開発国に対する特別の規定等からなっている。また,これは他の中南米諸国にも参加の機会を与えていて,中南米共同市場結成への布石であるとみられる。この条約は61年5月にパラグァイを除く6カ国によって批准されLAFTAは正式に発足した。その後間もなくパラグァイも批准し,さらにエクアドルとコロンビアの参加も時間の問題とみられている。

ASAはフィリピン,タイ,マラヤを構成国とする経済文化協力機構で,1961年8月に発足した。その目的は,経済,社会,文化,科学,行政の各分野で友好的な協議協力態勢を作り情報を交換し,基本的問題を研究することにおかれている。

しかしこれらの動きの中でも,究極的な単一経済圏の確立を目的とし,高度工業国間の統合であり,世界的に影響力が大きく,かつその進展が具体的かつ急速であるという諸点においてEECが最も注目すべきものであることはいうまでもない。

しかも従来,英連邦諸国の旗頭であり,自由貿易連合EFTA(イギリス,オーストリア,スイス,スカンジナビア3国,ポルトガルの7カ国,1960年7月に発足)の組織者であったイギリスが,1961年8月10日正式にEECに対し加盟を申請したことは,欧州の地域統合に一転機を画する重大なできごとであった。イギリスの加盟が実現すれば,すでに加盟を声明しているデンマーク,ノルウェーはもちろん政治的中立国であるオーストリア,スイス,スエーデンも準加盟に,またポルトガルも加盟に踏み切るものと思われる。このほかギリシャはすでに1961年7月に準加盟し,トルコの準加盟交渉も進められており,またエールもイギリスにつづいて正式加盟の申請を行なった。

このようにみてくると,従来EECとEFTAおよびその他辺境諸国の3グループに分裂していた西欧が単一の大統合地域に転化する日も遠くないとみなければならない。この地域の人口は3億を超え,工業生産は自由世界の4割近くを占め,その対域外貿易額は西欧域内を除く世界貿易の約3割を占めている。すなわち,その経済力においてアメリカに匹敵し,対外貿易においてアメリカを大きく上回る一大広域経済圏が出現することになる。

かかる西欧大統合への動きのキッカケとなったイギリスのEEC加盟申込みの決定はいかなる動機から行なわれたのであろうか。その詳細については第2部第2章に譲るとして,要するにEECへ加盟することで従来停滞的であったイギリス経済に競争の新風を吹きこみ,その体質を改善して競争力を高めるとともに,英連邦中心の貿易構造を転換して成長市場たる欧大陸へ重点を移すことによって,高度成長への有力な足がかりを得ようとするのがねらいである。

以下においては,このような工業国間の地域統合が,なぜ経済発展のための有力な基盤となるのか,またそれが外部世界に対してどのような影響を及ぼすだろうか,について考察してみることとしよう。


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