昭和35年

年次世界経済報告

世界経済の現勢

昭和35年11月18日

経済企画庁


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第3部 国際貿易の構造

第3章 西欧における貿易自由化の背景とその影響

2 欧州共同市場内の地域的構造

前節に示したような生産と貿易を示すマトリックスを欧州共同市場6カ国に適用して地域間投入産出表を作る。物資としては,チーズ,綿布,人造繊維,鋼材,工作機械,乗用車をとり,このほかに,国民経済全体の地域的相互関連をみるために国民経済計算を使った地域間投入産出表を作つてみよう。第100表は1953年および1958年に関する国民経済表である。

つぎに,前節で述べたように国内総支出でその上の各項を割れば,自給度および他国に対する輸入依存度を知ることができる。

たとえば,1953年のベルギー,ルクセンブルグのそれは,

第102表 チーズ

となる。

各物資についても同様の方法で投入産出表を作り前述の係数を計算する。第101-107表はその係数表である。注1)(第101表,第102表,第103表,第104表,第105表,第106表,第107表)

以上の係数表について,商品別のそれと国民経済のそれとを比較すれば,各国が商品別にどのように特化しているかを知ることができる。

第1に,大国―独仏伊―と,小国―ベネルックス三国―とでは経済の構造が非常に違うことがわかる。

第108表は,各国の自給度の比較である。

大国は国内市場が大きいので,どの産業にとっても自国が安定市場になり得るため各部門が均等に発展している。特に工業製品についてそうである。ここでとり上げた6品目のどれもが自給度が高く,しかもその間の格差が少ない。全体としての自給度も高い。一方,小国では国内市場がせまいので,ある商品については国内産業の発展する余地がなく,輸入依存度が非常に高くなっている。BLのチーズ,乗用車,オランダの鋼材,工作機械,乗用車がその例である。その結果全体としての自給度が低くなっている。

しかしこれらの輸入代金をカバーするためには,巨額の外貨をかせぎ出す輸出産業が必要である。第101~107表から,そのような輸出産業―輸出超過率が明らかに高い―をみると,BLでは綿布,人繊,鋼材,オランダでは綿布,人繊,チーズがこれに当たる。しかし繊維は,域内各国ではいずれも自給度が高いので有力市場がなく,―独仏伊のBL,オランダに対する依存度は低い―主として域外で外貨をかせいでいる。しかも,綿布の輸出超過率は明らかに減少しつつある。域内域外を通じての典型的な輸出商品は,BLの鋼材とオランダのチーズである。これに類するものは,デンマークの酩農品,ノルウェーの海運,スイスの精密機械であろう。このようにして,いわゆる国際分業の極端な実例は小国においてのみみることができるといえるだろう。( 第101表, 第102表, 第103表, 第104表, 第105表, 第106表, 第107表)

つぎに,地理的に近いところほど相互依存度が高いことは,常識的ではあるが,見のがしてはならない。第101表から,1958年について域内他国に対する輸入依存度の順位をみると次のようになっている。

図表

工業品の競争力が最も強いドイツのシェアーがどの国でも高く,それの弱いイタリアのシェアーが概して低いことは,工業の競争力が重大な要因であることを物語つているとはいえる。しかしそれ以外に,地理的に近いということが国際分業の成立のために非常に重要であることをこの順位表は示しているといえるだろう。