昭和35年

年次世界経済報告

世界経済の現勢

昭和35年11月18日

経済企画庁


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はじめに

第15回の国連総会の議場には新たに17本の国旗が掲げられた。そのほとんどがアフリカに誕生した新しい独立国の象徴であった。世界の低開発地域が,久しい間の植民地支配を離れて次々に独立を獲得したことは,戦後の犬きな特色であったが,いまそれが満開の花を咲かせたかの感があった。たしかにこれは世界史の上に一転機を画すべきことであったが,このような動きはいずれ世界経済の動きにも大きな影響を与えずにはおくまいと思われるものの,むろん,それはいま少しの時をかさなければ的確な見通しはたてられない。

ひるがえつて,1959年から60年にかけての世界経済の動きを大観すると,全体として好況のうちに推移したといえよう。今回の上昇過程においては,まずアメリカ経済が58年第1四半期を底に急速に立直りをみせたのにつづいて,西欧および日本が秋ごろから回復過程に入り,つづいて低開発国の輸出も増勢に転じた。しかし,60年初頭以来,アメリカの生産活動は停滞を示し,他の工業国のそれも漸次増勢が鈍化しはじめた。そして,低開発国の輸出も次第に伸び悩み傾向を示すに至った。

この景気循環の過程をみると,結果的にはアメリカの変動が早く,西欧,低開発国の順にそれが波及しつつあるかとみえ,表面的にはアメリカが世界景気の起動力となって循環しているかにみえる。

しかし,この間,各地域とくに工業国においては,その経済活動の動きが各国独自の要因によって支配される要素がますます大きくなってきていることも見のがせない。すなわち,流動性の増大に応じて上昇過程では相互の波及効果はかえつて大きくなってきていることは否めないが,下降期における各地域の独自の抵抗力が増大し,いわゆる[アメリカがくしやみをすればヨーロッパが肺炎になる」という比喩は実質的にはほとんどあてはまらなくなってきている。

しかし,同時に世界経済の動きを通じて,いろいろと複雑な問題が起こつてきたことも事実である。ひと昔前は,すべての問題はドル不足という一点に集中的に反映されていたともいえたのであるが,今日では問題はさらに多面的になってきた。

いま,その中からわれわれは

(1)景気変動の型の変化と弾力的景気調整政策

(2)西欧および日本におけるドル不足の改善とアメリカ国際収支の悪化

(3)物価の安定

という3つの特徴をとりあげたい。

これらの特徴はいずれも今日の景気変動の過程で表面化してきた現象的な問題であるが,その間,それと平行していくつかの構造的,政策的な変化が起こりつつあることも見落としてはならない。すなわち,

(1)貿易,為替の自由化

(2)経済統合等,いわゆる地域化

(3)工業国間の格差の縮小と“金”の問題

(4)非工業国の工業化に対する工業国の寄与

(5)共産圏経済と自由世界経済との交流の増大

等である。

これらはいずれも前述の現象的な問題と密接な関係があり,したがってこれらの問題の意味するところをさらに解明するためには,過去幾年もの長期にわたる世界経済の流れを観察,分析し,いわゆる世界経済の潮流を見きわめる必要がある。

本報告において,われわれはその姿を明らかにしようとずるものであるが,それを3部にわけて記述している。第1部は総論,第2部が地域別の各論,しかして第3部では特別課題として国際貿易の構造に関する計量的な解析を試みてみた。


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