昭和34年

年次世界経済報告

世界経済の現勢

昭和三四年九月

経済企画庁


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まえがき

昨年から本年にかけて世界経済はめまぐるしい転変を示した。まずアメリカにおいては景気の回復が予想外に急速であつた反面,輸出の大幅減少から国際収支の逆調,金の大量流出など注目すべき現象がみられた。西欧ではインフレの収束,国際収支の大幅好転など経済体質の著しい改善脈みられ,それを背景として待望の通貨交換性の回復が断行された。貿易の自由化も進展している。欧州共同市場の発足も記念さるべき出来事であつた。

先進工業諸国がいずれも景気後退から脱却して新たな拡大局面を迎えつつあるのに対して,後進諸国の経済情勢が依然としてはかばかしい回復をみせていないことも現在の世界経済における重要な問題であろう。他方,ソ連,中国など共産圏諸国の経済は注目すべき発展をみせ,それにともないいわゆる東西間の経済競争,あるいは援助競争の問題が次第に前面に押し出されてきた。

ひるがえつて日本経済の現状をみるに,昨年秋以来急速な立直りをみせ,今や順調に数量景気を謳歌しつつあるものの,いわゆる経済体質の改善はまだ十分にすすんだとはいえない。

為替・貿易の自由化と輸出競争の激化とやう世界の新しい潮流に対応して,われわれは今後ますます日本経済の国際的地立の向上と,輸出競争力の培養につとめねばならぬであろう。

本書は以上のような観点から最近における世界経済の動向を分析,解明せんとしたものである。かぎられた人員と資料の制約により本書の意図は十分に果されていないが,それでも世界経済の現勢に関して何ほどかの参考資料となりうると信ずる。

昭和三四年九月

金子 美雄

経済企画庁調査局長    


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