昭和33年
年次世界経済報告
世界経済の現勢
経済企画庁
第十二章 戦後ブームは終つたか
五三年以来の欧州好況,五四年以来の米国活況のかなり大きな原因が延期需要の発動にあったことはすでに述べた。それではこれらの延期需要は現在すでに充足されてしまつたであろうか。
米国のばあいは,自動車その他の耐久消費財に対する延期需要は一応充足されたとみることができる。しかし,道路,学校等の社会的設備に対する需要はまだかなり大きいようである。住宅需要は相当充足されたようであるけれども,まだある程度残つているとみることができよう。設備投資については戦時中の軍事技術の平和利用という意味での技術革新投資はほぼ一巡したように思われる。一方,いわゆる研究・開発投資の増加に含意される戦後の技術革新1はまだ開花期を迎えるまでにいたっていない。その意味で現在は一種の中間期にあるとみられ,過剰設備の圧迫もあつて,米国の設備投資は今後当分の間増加が期待されない(最近のマックグローヒル社の調査では,設備投資は一九六一年まで減少するという結果が出ている)。
米国にくらべると,欧州では耐久消費財に対する需要はまだ大きいし,住宅建築に対ずる需要もまだ充足されていないようた。設備投資も米国などにくらべれば合理化,近代化のための投資需要が残つこいるようエ思われお。道路どや学校などに対する潜在的な投資需要も大きい。
ごく大ざつぱないい方をすれば,消費水準と生産性の点で世界の頂点に立つ米国では,消費需要も投資需要もかなり飽和点に近づいているのに対し,欧州や後進地域では米国の生活水準と生産性に追いつこうとする意欲がつよいのではないか。欧州ではそれが自動車やその他の耐久消費財に対する根づよい需要と合理化投資となって現われ,後進諸国では経済開発への意欲となって現われているとみて大過ないようである。
米国における潜在需要の大きさについては後述するとして,ここではとりあえず欧州の需要の見通しを主としてO EECの調査によって述べてみたい。