昭和33年
年次世界経済報告
世界経済の現勢
経済企画庁
第十章 インド経済の実態分析
インドの最近の経済情勢はきわめて憂慮すべき状態にある。一九五七年第二・四半期以降,東南アジア諸国のおかれている全般的な危機については別の項で詳細にのべたが,地域内諸国のうちでもインドの経済は最も大きな困難に逢着していると見られる。その困難の第一は,貿易収支の極度の悪化により,外貨のはなはだしい涸渇が現われているこどである。インドの貿易は戦後継続的な入超に転じ,朝鮮ブトムで地域内のほとんどの国が出超だった一九五一年でも入超だつたが,それが経済開発計画の実施につれてますます増加し,一九五六年には四億四,二〇〇万ドルもの入超を記録し,一九五七年はさらに六億四,九〇〇万ドルと増加した。このために外貨準備は急速度の減少を示し,一九五五年末,中央銀行の外貨保有額は一七億九,一〇〇万ドルだつたのが本年五月には八億三,五〇〇万ドルと激減している。このために一昨年四月から実施しつつある第二次五カ年計画を縮小せざるをえなくなり,本年五月四日国家開発審議会の発表によると,当初の計画を修正し建設項目を二種類に分けて,逐次完成することにした。また二月二八日に発表された一九五八~五九年度予算案でも資本予算の支出を前年度予算より三億三,五五〇万ルピー縮小している。
インドはこのような諸困難に当面しているのであるが,しかし経済全般の成長率は比較的高く,工業生産は一九五一年を一〇〇として一九五六年に一三三,五七年第三・四半期は一四一となつており,農業生産も一九四九~五〇年を一〇〇として一九五六~五七年に一二三であつたし,実質国民所得の成長率も一九四八~四九年から,五五~五六年までの七年間の算術平均では年平均三%となつている。もちろん人口の自然増加率が年一・五%と想定されているので,一人者りの国民所得の成長率はそれよりはるかに低いわけであるが,しかし,それにしても着実に発展をとげつつあることが知られる。
このような現在おかれている経済の現実面における諸困難と,経済の発展テンボにおける比較的順調な成長から見てもわがるように,インドの当面している経済的諸困難は,過大な規模の開発計画を無理おしに実施しつつあるところからもたらされるものであることは明らかである。