昭和33年

年次世界経済報告

世界経済の現勢

経済企画庁


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第六章 一九五七~五八年のソ連経済と新長期計画

一九五七年は,ソ連経済の動向に一つの転機をもたらした画期的な年であつた。経済成長から見ても,管理体制から見ても,この年のソ連経済は目立つた変貌を遂げた。第一に,ソ連経済の計画成長率は過去のそれに比べてかなり鈍化し,一九五六年から始まった第六次五カ年計画は棚上げになつた。一九五七年度計画でソ連の経済成長率は従来見られなかつたほどの低さに引下げられたばかりでなく,第六次五カ年計画そのものにも再検討が加えられ,結局この五カ年計画は今年で打切られ,来年から始まる新長期計画,一九五九~一九六五年の七カ年計画に切換えられることになったのである。

一九五七年のソ連経済において,もう一つ注目すべき点は,工業と建設の管理機構が根本的に改組されたことである。それは,ソ連の大規模な経済建設と本格的な工業化が始まつて以来のもつとも重要な機構上の改革であって,今後の経済運営に大きな影響を及ぼすものである。この機構改革がどのような効果を発揮するかは,新長期計画下における経済成長いかんの問題とも関連して,きわめて注日に値するところである。

一九五八年に入つてからも,ソ連経済は一面では前年と同様な動きを示している。一九五七年の経済計画は前年の経済発展の行過ぎに対する一種の「経済調整」を企図したものといえるが,その実績では多くの指標について超過達成されたにもかかわらず,一九五八年の計画でも経済成長率はほぼ前年の計画と同じ水準に抑えられている。このことは今年も前年に引続いて「経済調整」が行われようとしていること,したがつてまたこの「経済調整」を必要とした状況が解消していないことを意味する。

このような状況のもとで,今年三月末には,昨年の工業および建設管理機構の改革にも比すべきエム・テー・エスの改組が決定された。この改組はコルホーズ体制が発足して以来の根体的な機構改革であって,経済運営に関する一部の権限を中央から下部機関に移譲し,現場の自主性を発揮させようとする点で,工業および建設の管理機構の改革と共通するものをふくんでいる。このようにして,昨年から今年にかけて工業と農業の二つの部門,見方をかえれば国営企業と協同組合経営の二つの部面において広い意味では同じ方向を目指した根本的な機構改革が行われているのである。

一九五八年は,経済の計画的運営と経済機構改革の面で一九五七年の延長とも見られる反面,同時にこの年は新長期計画への過渡期でもある。来るべき八カ年計画は今年の七月一日までに原案が作成されることになつているが,この新長期計画によってどの程度の経済成長が予定されるかは,目下のところ明らかでない。ただ,昨年一一月の革命四〇周年記念祭の演説のなかでフルシチョフが発表した,一五年後における主要物資の生産水準から大体の目安をつけるほかに途はない。新長期計画の目標はこの水準へ到達する一里塚に当つているわけである。この新長期計画の原案は完成に近く,遠からず発表されることと思われるが,ここで注目すべきことは,すでに一九五八年度経済計画において七カ年計画の重点とみられる部門への投資が著しく増していることである。すなわち鉄鋼,化学,石油の各工業および運輸などに対する投資は前年に比べて大幅に増えている。このように,一九五八年の計画は一面では前年の「経済調整」を続けると同時に,新長期計画への橋渡しともなっている。さらに注目されることは,最近の化学工業振興方策の発表である。それは,列国に比べて立後れているプラステック,化繊,合成ゴムなどの合成物資の増産を図ろうとするものであるが,すでに実施されつつある畜産の振興と相まつて,消費財の増産にも寄与するところが少なくないとされている。この化学工業振興は来るべき七カ年計画の一つの重点を示すものとして注視されなければなるまい。ここでは,以上に述べた諸点に触れながら一九五七~五八年のソ連経済の動向を概観して見よう。


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