昭和33年

年次世界経済報告

世界経済の現勢

経済企画庁


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第五章 外貨危機に悩むフランス経済

戦後二回の景気後退(一九四九~五〇年および一九五二~五三年)を経験した後,一九五四~五五年にいわゆる「インフレなき経済拡大」を謳歌したフランス経済も,一九五六年以降は貿易赤字の増大による金および外国為替準備の激減がもたらした外貨危機の深化,尨大な財政赤字,物価のインフレ的高騰などの否定的諸要因のために,一面においてはいぜんとして高率の生産上昇を続けながらも今や破局的様相を示していることは周知の通りである。本年五月初旬,大蔵省当局は国民会計委員会に一九五四~五七年の国民会計と一九五八年の国民会計(予想)とに関する報告を提出したが,前者,すなわち一九五四~五七年におけるフランス経済の推移を要約した総括的報告はフランス経済のプラスの面とマイナスの面とをあらわす若干の要因をはつきり示している。

第5-1表でみると,一九五四~五七年に国内総生産(不変価格で算出された数量指数による)が一八%増大しているが,同じ期間に国内総支出は二二%の増加を示している。個人消費は一九%,政府・公共機関消費は二四%の増加であって(政府消費の増加は主としてアルジェリア軍事行動のためである),その増加率は生産の増加率よりも高く,物価上昇の圧力となつていることは否めない。投資(固定資本形成)の増加率はさらに高く,一九五四~五七年に三二%の増加となつており,設備の改善,近代化の進捗,したがって生産性の向上を察知させる。輸出入をみると,一九五四~五七年の四カ年間に輸入が三六%増加しているのに輸出は八%しか増加していない。

われわれは一九五四~五七年のフランス経済の推移について,第5-1表から右のようないくつかの事実を知ることができるが,そのうち,固定資本形成および個人消費ならびに政府消費の増加,その結果としての国内総生産の増加は一九五四~五七年におけるフランス経済の拡大を支えてきた要因であり,これに反して,政府消費と個人消費とのアンバランス,輸出入のアンバランス,思惑的買溜による在庫の増加,および第5-1表には示されていないが物価の高騰などは過去四年間フランス経済の否定面の集約的表現である。

以上のことを念頭におきつつ最近のフランス経済の動向を,生産,貿易,財政,物価などを中心としてみてみよう。


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