昭和33年

年次世界経済報告

世界経済の現勢

経済企画庁


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第二章 景気後退下の米国経済

一九五四年秋以来繁栄をつづけていた米国経済は昨年秋ごろから戦後三回目の景気後退に見舞われている。経済活動水準を示す主要指標の多くは昨年八月ごろをピークとして低下しはじめ,五七年末から五八年はじめにかけてはかなり急速な低下をつづけた。本年三,四月ごろからは景気下降のテンポは緩慢化しているが,今回の後退は設備過剰による設備投資の減退を中心とするものであるだけに,後退の深さも,期間も,戦後としては最大の景気後退になりそうである。国民総生産や鉱工業生産の低下率はすでに一九四八~四九年や五三~五四年の後退期のそれを上回つているし,製造工業受注の動きも下降期間が前回よりも長びく可能性が大きいことを示している。とくに耐久財製造工業の生産指数(季節調整ずみ)が前回の後退期における最低点を下回るに至つているのは注目される。

今回の景気後退は,それが戦後としてはもつとも本格的な景気後退であるだけに,経済構造の変化や経済政策の進歩によつて米国経済の不況に対する抵抗力が果してどれだけ高まつているかを明らかにする重大な試金石だと考えられる。また世界各地で経済がいつせいに拡大の鈍化ないし停滞の傾向を示しているだけに,その世界経済に与える影響もとくに憂慮されている。

さらに,今回の後退が,戦後一二年間つづいた米国経済繁栄の終末を意味するのか,それとも後退が短期間に克服され,ふたたび急速た成長が再開されるのかという点も問題になつている。

ここではまず今回の後退の性格を理解ずることに重点をおいて五四年秋以降の米国経済の歩みをあとずけ,昨年秋以来の下降局面と最近の情勢を概観し,つぎに今回の後退に際して政府当局がとつている景気対策の特色を指摘することにする。そののち,今回の景気後退のもつとも大きな原因と考えられる設備投資の減退などについて分析し,最後に今回の後退からの回復をもたらす要因がどこにあるかを検討する。


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