第3章 転換期にある日本的経済システム

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戦後50年,日本経済は,生産性を向上させ,様々な危機を乗り越えることで飛躍的な経済発展を遂げたが,その根底には,「日本的経済システム」と呼ばれる独自の制度的枠組み,あるいは慣行があった。すなわち,①メインバンク,固定的な主幹事証券を中心とした金融仲介システム,②年功賃金,長期雇用に代表される雇用システム,③「系列」,株式持合いにみられる企業グループの存在,④経済の様々な分野におけるきめ細かい公的規制等,長期的・継続的な取引関係と安定が重視されるいわゆる「日本的経済システム」が,戦後の経済発展にかなりの程度有効に機能したと考えられている。しかし,昨今の急速な外的環境の変化の中で,我が国はかつて経験しなかった低成長を余儀なくされており,ここにきて,単に産業構造の調整だけではなく,我が国経済のフレームワークというべきこれらのシステムが根本的に問われている。具体的には,①情報通信技術の発達に伴うボーダーレス化,世界経済の一体化の中で,②円高,「大競争」といった国際環境の変化が加わり,さらに国内においても,③人口の高齢化,④人々の価値観の変化等が,従来のようなシステムの有効性を低下させたり,ときには経済発展の阻害要因となっている可能性があるからである。

もちろん,日本における既存の経済システムがここにきてすべて不合理なものとなるわけではなく,また,「日本的」と呼ばれている従来からのシステムに対する誤解も少なくない。しかし,これらのシステムは互いに「制度的補完性」を有していることから,外的環境等の変化によって部分的にせよ従来のシステムの維持が困難になる場合,システム全体が有効に機能しなくなる。したがって,今後とも日本経済が中長期的にダイナミズムを維持し,かつ分配面にゆがみを持たせないためには,「日本的経済システム」の実態がいかなるものなのか,外的環境の変化に柔軟に対応できるシステムなのかどうかを十分考察してみる必要があろう。

そこで本章では,金融仲介システム,雇用システム,企業間システム,公的部門についてそれぞれ検討し,我が国経済のダイナミズムがどのような形で展望できるかを考えてみる。

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