昭和61年

年次経済報告

国際的調和をめざす日本経済

昭和61年8月15日

経済企画庁


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昭和61年度年次経済報告(経済白書)公表に当たって

  本年度の経済白書は,昭和60年度及び昭和61年度初めの我が国経済について分析しております。

  昭和60年から今年にかけては,それまで長く世界経済にゆがみをもたらしていた三つの要因,ドル高,原油高,高金利の是正という画期的な動きが進展しました。これらの変化は決して一時的なものではなく,世界経済は新しい局面に突入したと考えられるのであります。

  当然,こうした変化はわが国経済にも深刻な影響を及ぼしております。

  特に急速な円高が輸出に関連する産業,企業等に大きな困難をもたらしており,これに対しては適切な政策的配慮が必要であります。しかしわが国経済に求められている当面の重要課題が,対外不均衡の是正であることを考えれば,円高に伴う産業構造の調整は苦しいものではありますが,どうしても避けて通れない道であります。

  他方,円高は交易条件の改善を通じて国内の実質所得を高めるというプラスの効果を持っております。また原油価格低下も同様な効果を持っものであります。こうした効果が十分に発揮されれば,国内の消費と投資が刺激され内需中心の成長が着実に進められ,我が国の経済構造を国際協調型に転換することもそれだけ容易になるのであります。しかしこのためには,円高差益を十分に還元することが極めて重要であり,同時に内需の拡大を図るための政策努力が政府において,もとより必要であります。これとともに企業の創意工夫と努力によって消費者の求める新しい商品と国内市場の積極的な開発が進められなければなりません。

  内需の拡大のためにも,また国民生活の一層の充実のためにも,住宅,社会資本をはじめとするストックを充実させる事が要請されています。現在は我が国の人口構成が比較的若く,高い貯蓄率を保っているのでありますから,投資余力のあるうちに住宅,社会資本など良質のストックを蓄積し,高齢化の進む次の時代に残すという視点が重要であります。とくに住宅投資の推進は民間活力による内需拡大政策の要と考えられますので,そのための適切な措置と周辺環境整備を積極的に行う必要があります。

  今我が国経済は大きな歴史的転換期に立っております。経済構造の転換にはかなりの摩擦と負担が当然伴うのですが,国民の優れた素質と近年著しく向上した国力をもってすれば,それは必ず可能なのであります。必要な変革を恐れることなく,積極的かつ着実に新しい改革の課題に取り組む姿勢こそが,今私たちに強く求められているのであります。

  こうした観点から,本年度の年次経済報告の副題は「国際的調和をめざす日本経済」と致しました。こうした我が国経済の課題を解決する上で,本報告が寄与することができれば幸いであります。

昭和61年8月15日

近藤 鉄雄

経済企画庁長官


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