昭和58年

年次経済報告

持続的成長への足固め

昭和58年8月19日

経済企画庁


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むすび

わが国経済は長い景気の調整局面から脱し回復に向いつつある。二度にわたる在庫調整の終了や世界景気の回復に伴う輸出の持ち直しが先行きに明るさをもたらす根拠の一つとなっている。石油価格の低下もわが国経済の成長に好影響を与えることであろう。われわれは今回の景気回復をより確実なものとし持続的成長につなげていかなければならない。高い貯蓄率や技術開発力,さらに企業の投資意欲などからみて日本経済は依然,発展力を失っていない。持続的成長を実現するためにはこうした有利な条件を十分活かすことが必要である。

だが,わが国経済を内需中心の持続的安定成長路線に定着せしめるためには克服すべき課題の多いことも事実である。財政の構造的不均衡や土地問題,あるいは対外不均衡の問題などはその典型的な例である。これらの諸問題はいずれも従来の経済成長の過程で形成されてきた制度や慣行と深い関わりあいをもっている。日本経済はこれら内外不均衡の円滑な改善なくしては持続的安定成長を維持することは不可能である。したがって,わが国としては今後こうした諸問題を解決するため従来の制度や慣行などにも思い切ったメスを入れるとともに,経済政策のイノヴェーションを行っていくことが是非とも必要である。とくに,国内面での障害を克服していく場合には,当然に分配や再分配の問題,あるいは既得権益の見直しを必要とするか,高度成長期と異ってその推進に大きな摩擦と苦痛を伴うことは避けがたい。もしこうした制度的改革に成功せず,現在の諸障害を克服できない場合は,国内市場の行き詰まりが生じる恐れがあり,国民の欲求は未充足のままに残されることになる。その結果,対外的な摩擦も拡大するとともに日木経済の成長力自体が萎縮してゆく恐れさえ生じてこよう。

従って今後とも,わが国自身としては景気の着実な拡大を実現し,一層の市場開放に努める必要がある。この場合,わが国としては,いわれなき誤解に対しては積極的にその誤解を解く努力を行うとともに諸外国に対し主張すべき点は強く主張してゆく必要がある。とくに最近におけるアメリカの高金利はわが国の内需拡大努力を阻害し,対外不均衡拡大の原因となっている。また,世界景気が回復の過程にありながら保護貿易的風潮が高まりつつあることにも深い懸念を表明せざるを得ない。日本としては,自由貿易の原則に反するいかなる動きにも強く反対していくことが必要であるが,同時に国内市場の開放を実績として示していくことが説得力を増すためにも必要であろう。これはまた国内産業に一定の経済的,社会的摩擦を与えずには置かない。しかしこれまで示されてきた日本経済の高い弾力性と適応能力はこれを充分吸収しうるはずである。現在ほど対外的な積極性と同時に対内的な積極性が求められている時はない。十分な説得力とリーダーシップを発揮し長期的観点から各種の利害関係を調整し,必要な場合は制度の改革や既得権益の見直しを行なうことが求められているのである。


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