昭和57年
年次経済報告
経済効率性を活かす道
昭和57年8月20日
経済企画庁
56年度の建設活動を「建設投資推計」でみると総額50兆7000億円であり,名目国民総支出に対して20.2%の構成(前年度は20.7%)を占めた。前年度比増減率をみると,名目では引き続き伸び率が低下し2.5%増となったが実質では,物価の安定を背景に2.3%増と増加に転じた( 第6-1表 )。
主体別にみると実質ベースでは民間投資が1.8%の伸びにとどまったのに対し,政府投資が3.1%の伸びを示しており,56年度建設投資の伸びは政府部門の寄与度が大きい。部門別の動きを実質ベースでみると,建築部門では,昨年度に続き減少となったものの減少幅はわずかであり,また,土木部門では6.5%と大幅な増加となったため全体の建設投資は増加することとなった。
建築部門の内訳をみると,住宅,非住宅とも引き続き減少した。しかし非住宅の中で民間部門は,大企業を中心として設備投資の拡大が持続したため鉱工業における建設投資は3.4%増となり,さらにウェイトの高い鉱工業以外でも,商業・サービス業,金融・保険業,不動産業等で建設活動が増加したため,建設投資は0.6%増と増加に転じた。
一方,土木部門では,公共事業は名目の伸びは昨年度並みとなったものの実質では4.8%増となり,さらに公共事業以外でも,電力投資や不動産の土地造成が増加したことにより実質8.6%増となった。
以上のように,56年度の建設投資は,建築部門のひきつづく不振と土木部門の好調さを特徴としている。
56年の建設投資は,物価の落ちつきに助けられた面が強い。建設費の動きを建設工事費デフレーターでみると,56年度は建設総合で前年度比横ばいとなった。これを四半期別前年同期比騰落率でみると55年4~6月期にピークを打った後急速に騰勢は鈍化し,56年半ばには前年並み,あるいは前年水準を下回るに至った。その後やや上昇率は高まっているが,57年1~3月期において1.0%(建設総合)の上昇であり,落ちついた推移を示している( 第6-2図 )。
建設工事費デフレーターの騰落要因を労務費と建設材料価格に分けて考えると,労務費指数は,55年度中やや上昇率が高まったものの,以降4~5%程度の水準で推移したのに対し,建設材料価格は大きく変動した。建設材料価格の推移をみると,前年同月比で55年4月にピークを打った後,急速に騰勢が鈍化し,56年2月には前年比マイナスとなった。以降も弱含みに推移し,13か月連続のマイナスを示した。これは住宅建設や中小企業設備投資といった実需が不振を続けたことが基本的な要因となっている。品目別にみると,製材,合板等建築関連品目は輸入抑制や減産が行われたものの需要不振から弱含みて推移した,また,セメント,生コン,砕石等土木関連品目も,需要不振を背景に落ち着いた動きを続けた。
新年度に入って,公共事業の前倒し発注が行われまた住宅建設も公庫融資の拡充等政策効果も現われはじめており,今後,建設資材に対する需要も上向くことが予想される。しかし,56年末にかけて積み上がった在庫がかなり高い水準となっていることから,現在までのところ市況が回復するには到っていない。
公共投資の動向を公共事業等歳出予算現額(大蔵省調ベ)でみると,当初予算前年比は55年度6.4%増のあと,56年度0.6%減となり,57年度は3.7%減と公共投資の抑制傾向が続いている。ただ,地方公共団体が独自に行なう地方単独事業については地方財政計画上,前年比で56年度8.0%増,57年度8.5%増の伸びが確保されている。
こうした予算枠の中にあっても機動的な予算執行が行われた。56年度においては,3月の経済対策閣僚会議において公共事業等の執行促進が決定され,4月の公共事業等施行対策連絡会議で決定した上半期契約率目標70.5%が達成された。下期においては,当初予算が抑制されているため契約額が減少することはまぬがれなかったが,災害復旧費の増額補正が行われたほか,特に地方公共団体に対して地方単独事業の機動的・積極的実施が要請された。そして57年度においても,4月の公共事業等施行対策連絡会議において上期の契約率目標を77.3%とすることが決定された。この促進措置により,当初予算額は前年度比マイナスとなっているものの上期の契約額は前年同期比5.7%増となることが予定される。
こうした予算執行状況を反映して公共工事請負金額の推移をみると,56年4~6月期,7~9月期と年度上期は増加したものの,下期は減少することとなり,年度全体としては前年度比2.0%増となった。
一方,進捗ベースの公共事業を示す公的固定資本形成の推移をみると,56年7~9月期までは実質増となり景気を下支えすることとなった。これは予算の抑制から名目公的固定資本形成の伸びは小さかったものの公的固定資形成デレーターは56年中ほぼ前年並みという落ちつきを示したためである。しかし,56年10~12月期から57年1~3月期にかけては予算執行額の減少をうけて公的固定資本形成も減少することとなった。
また,公共事業の受注状況を受注者の資本金階級別請負金額でみると56年度上期においては各階層とも増加したが,10~12月期にはJ・V(ジョイント・ベンチャー)を除いて減少している。そして57年1~3月期には好調を維持してきたJ・Vも減少するに到った。新年度に入り受注総額が増加するなかで,5,000億円以上10億円未満の中堅企業とJ・Vが好調な受注増を示している。
建築着工統計により,56年度の建築着工床面積の動向をみると,総床面積2.0億m2のうち85%にあたる1.7億m2を民間部門が占めているが,全体で前年度比6.4%減と昨年に引き続き低調に推移した。これを建築主別にみると,財政支出抑制という状況のもとで,国,都道府県,市町村を建築主とする着工床面積が総じて前年度比で大幅に減少する一方,民間建築主による着工床面積も住宅建設の不振,中小企業による建築関係設備投資の停滞などから,昨年度に引き続き前年度比マイナスとなった。これを構造別にみると,木造,非木造とも減少しいてる。また,用途別では,居住専用建築物及び居住産業併用建築物は低迷しているものの減少幅は縮小した。非居住用建築物では,国内需要の停滞を背景に,鉱工業用,商業用はなお低迷しているものの娯楽業等のサービス業用や,公益事業用建築物は減少幅を縮小した。また,公務・文教用は学校施設を中心に昨年度をさらに下回る大幅減となった。
一方,民間土木工事の動きを民間土木着工統計でみると,製造業・鉱業・建設業と運輸業・通信業が昨年度に引き続き前年水準を下回ったほか,昨年度好調だった電気・ガス業も今年は前年度比マイナスとなった。しかしウェストの大きい不動産業が宅地造成事業の堅調に支えられて,前年度比65.6%増と大幅に伸びたため,全体では前年度比15.2%増となった( 第6-4表 )。
次に,民間からの建設工事受注額を大手43社の受注分でみると,製造業からの受注は,鉄鋼業が前年度比で大幅に伸びたほかは微増にとどまったため前年度比5.4%増となった。一方,非製造業は商業・サービス業・金融保険業や,不動産業を中心に前年度比10.8%と大幅に増加した。このため,全体としての伸び率は,55年度11.4%増から56年度9.5%増へと若干鈍化した( 第6-5表 )。
大手83社に.ついて民間からの建設工事受注額をみると,56年度は各四半期を通じて前年同期比6%程度で安定的な拡大を示した。しかし,中小465社について民間からの建設工事受注額(元請のみ)をみると,56年度に入って一応の回復を示したものの,57年1~3月期には前年同期比23.0%減と大きく落ち込んた。この結果,56年度は大手83社の前年度比8.8%増に対し中小465社は同3.4%増にとどまっている。このように大手の受注が安定的に拡大する一方で中小の受注が比較的伸び悩んでいる背景には,住宅,消費といった中小企業に結びつきの強い最終需要が低調だったことなどがある。
「建設投資推計」により,56年度の民間建設投資(名目)全体の動きをみると,住宅や中小企業部門の設備投資の不振を反映して,前年度比1.4%増にとどまった。
56年度の住宅建設の動向を新設住宅着工戸数でみると,総戸数は114万2732戸と14年ぶりの低水準となり,前年度を5.9%下回った。
これを利用関係別にみると,貸家は,相対価格(貸家建築費/家賃)の好転を主因として56年中頃から比較的堅調な動きを示しており,56年度は前年度比3.7%増となった。また,持家は前年度比4.4%減となったが建築費の低下等のほか,金融緩和基調下での都市銀行住宅ローン金利の引き下げの影響もあって,56年に入って次第に対前年減少幅を縮小してきている。一方,分譲住宅は,前年度比17.3%減と振わず,全体を引き下げる形になっている( 第6-6図 )。特に一戸建,長屋建の分譲住宅は前年度比28.3%減と不振であった。なお,共同分譲住宅は,56年度の前年度比4.9%減と小幅の減少にとどまったものの4~6月期に大幅に増加した後,7~9月期は急落し,以後停迷を続けており,在庫率も高い水準にあることから,今後もしばらくは調整局面が続くものと思われる。
次に資金別にみると,民間資金住宅は前年度比9.8%減と依然低水準なのに対して,公的資金住宅は,年度後半から,次第に回復に向かい,56年度は前年度比1.0%減とほぼ横ばいとなった( 第6-7表 )。
住宅金融の動向を住宅ローン新規貸出額の前年同期比増減率でみると,54年後半から55年前半にかけて,新規貸出額は増加したが,その内訳をみると,住宅金融専門会社と住宅金融公庫が大幅に伸びて住宅ローン貸出残高に占める割合を高めたのに対し,全国銀行+相互銀行は前年水準を下回った。55年後半には,全体に前年比マイナスに転じた後,56年半ばに至って新規貸出額も増加に転じたが,住宅建設の不振を皮映して56年中の新規貸出額は全体として緩やかな伸びにとどまった。住宅ローン貸出残高に占める住宅金融公庫と住宅金融専門会社の割合の増加基調が続いている( 第6-8表 )。
最近の住宅地価格の動きをみると,その対前年上昇率は55年12.3%,56年11.4%,57年8.3%と鈍化傾向を強めつつある(国土庁「地価公示」)。このため,持家建設費の年収倍率は国際的にみても高水準で推移しており,住宅取得をなお困難なものとする一因となっている。住宅地価格の上昇の要因としては,根強い住宅地需要がありながら,これに対応する宅地の供給が円滑に行われていないことが考えられるが新市街地における宅地供給量の推移をみると,47年度に14,500haのピークに達した後減少して,55年度には8,200haとなった。供給主体別には民間供給の落ち込みが大きい。
市街化区域内において宅地として利用されていない主な土地としては,市街化区域内農地等が考えられるがこのうち市街化区域内農地は全国の市街化区域面積の15.9%(56年1月現在)を占めている。市街化区域内農地の宅地化が進まない理由は,大都市近郊の農家における兼業化の進展等により,土地売却の動機となる資金需要が弱くなっているためである。また,宅地開発事業については素地価格の高さ,関連公共公益施設整備に伴う開発者負担,事業の長期化に伴う金利負担の増大等により,採算見通しの悪化が続いている。
このような宅地供給の減少とそれに伴う地価の上昇に対応して,新設住宅敷地面積の狭小化,大都市圏における分譲マンションの比率の増加等が進んでいるが,潜在的な住宅需要を掘り起こすためには,宅地供給のための施策の一層の強化が望まれる。宅地供給を促進するために,①公的機関による討画的宅地開発の推進と民間の優良な宅地開発の推進②市街化区域内農地の宅地化の推進③関連公共公益施設の整備の推進等が行われており,建設省の宅地需給長期見通しによれば,既成市街地・新市街地あわせて全国で56~60年度に62,500ha(年間12,500ha)61~65年度に60,700ha(年間12,140ha)の宅地供給が期待されている。