昭和57年

年次経済報告

経済効率性を活かす道

昭和57年8月20日

経済企画庁


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第II部 政策選択のための構造的基礎条件

むすび

以上,第I部及び第II部を通じて,日本経済が当面している政策課題とその構造的基礎条件について検討してきた。特に第II部では,かなりの国際比較を交えながら,日本経済の構造的特質とそれらがもつ政策対応への意味づけを行った。

「既に国際比較の時代ではない」といわれるようになって久しいが,こうしてみるとやはり日本経済が自分自身の姿をよくみつめるためには,国際的な場に自分を置いてみる意味は依然大きいように思われる。ただし,その国際比較の意味は以前のように他の先進諸国の姿をモデル化し,何とかしてそれに一歩でも近づこうとした時代のものとは大きく異なっている。日本経済の相対的有利性をできるだけ生かしながら,他の経験から棄却すべきことは棄却し,採るべきところは採り,同時にそれを基盤にして,より独創的な活動を発展させていかねばならない。

ところで,以上の検討から結論づけうる主要な点は,日本の経済・社会には,なお他の先進国に比して,弾力性と効率性が大きく残されていることである。こうした優位性を今後も維持し,内外の適応力を高めていくことが重要なことはいうまでもない。しかし個人の生き方の追求が弱いために社会的柔軟性が維持されているということであってはならないし,また,弾力性や効率性を維持することによって,どういう社会目標を実現し,どういう個人の生き方を追求するのかが真剣に問い直される必要があろう。

しかし他面,日本の経済・社会にも幾つかの制度的硬直化要因が増大してきていることは否定できない。国民のニーズに合った国内需要の拡大という目的を迫求するにしても,そこに幾つかの大きな制度的制約が生じていることは先にみた通りである。わが国の潜在成長力はなお強いとしても,単純に過去の方式で量的拡大を追求することはできなくなっている。日本経済は40年代の終りに,一度景的拡大の行き詰まりを経験した。今後二度目の行き詰まりを生じさせないためには,その弾力性と効率性を生かして,既存の制度や権益の不合理な部分を修正する能力と勇気を発揮しなければなるまい。

さらに,従来わが国では,他国の経験のうち,既に安全性の検証されたリスクの小さい部分を導入して活用することが多かった。しかしこうした方式にも行き詰まりが生じつつあることは明らかである。やはり「日本人はこんなことまで追求しているのか」と思われる独創的な活動が経済・社会や科学技術の多くの分野で展開されるようにならないと,日本国民に対する真の尊敬をかちとることはできないであろう。


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