昭和57年
年次経済報告
経済効率性を活かす道
昭和57年8月20日
経済企画庁
第I部 鈍い景気の動きとその背景
第3章 内需回復と政策過程
財政再建という厳しい制約の中で56年度の一般会計の公共事業予算(当初)は前年度比横這いに抑えられた。しかし,執行方針については,景気のかげりに対処して55年度下期に執行促進に転じたあと,56年度も昨年3月17日の経済対策閣僚会議において上半期の目標契約率は70%以上(前年度同60%程度)に決定され,こうした政府の方針に平仄を合わせるかたちで地方公共団体においてもほぼ同様の執行促進措置がとられた(56年9月末の契約率は中央政府70.5%,都道府県70.7%と上記目標を達成)。
この結果,55年度下期から56年度上期にかけて公共事業の発注は高水準を続け,つれて公定固定資本形成が前年比で55年10~12月期以降プラスに転じるなど,民間内需の回復力が乏しい中で景気下支えの役割を果した。
もっとも,公共事業前倒し発注の建設財等関連資材の生産・出荷に対するインパクトはそれほど大きくはなかったといえよう。すなわち,建設財の出荷は55年初をピークに大幅な落ち込みをみせたあと,56年度に入ってから漸く底入れしたが,その後の回復テンポは緩やかである( 第I-3-21図 )。これは,政府部門の需要は増大したものの,住宅建設や中小企業の設備投資を中心とする民間建設需要の不振の中にやや埋没したという側面がみられたほか,54年度から55年度前半に積み上った建設財の流通・ユーザー在庫の調整が尾を引いたためではないかと推察される。また,建設財メーカーでは,55年後半以降増加した製品在庫の調整を図るため,生産抑制を余儀なくされ,結果的に公共事業の波及効果は盛上りを欠くものとなった。
56年度下期に入ると,上期前倒し発注の反動が懸念されたことから,政府は56年10月2日の経済対策閣僚会議において,公共事業等について年度内実施を目標とすることを決定するとともに,地方公共団体に対して,地方単独事業の機動的,積極的な実施を図るよう要請した。しかしながら,結果として56年度下期の公共事業の発注は前年水準割れとなり,公的固定資本形成は景気に対して中立的ないしは若干足を引っ張るかたちとなった。この点は,過去の景気回復局面においては,景気がボトムを打ったあとも公共投資が比較的高い伸びを示し,景気回復を促進したのとは対照的である( 第I-3-22図 )。
こうした状況下,本年4月9日の経済対策閣僚会議で昭和57年度上半期の公共事業等の目標契約率を75%として積極的施行促進を図ることが決定され,これを受けて4月26日の公共事業等施行対策連絡会議で57年度上期の公共事業については,目標契約率77.3%と契約促進を図ることが決定された。
56年度予算は,財政再建の観点を一段と鮮明にしたものであった。すなわち,56年度当初予算では,公共事業関係費を前年度比横這いとするなど歳出の伸びは9.9%増と一桁に抑えられ,また現行税制の枠内での相当規模の増収措置がとられた。この結果,国債発行額は2兆円減額され,公債依存度は26.2%と52年度以来4年振りに30%ラインを下回った。続く,57年度予算(当初)では,概算要求の段階で一律ゼロシーリングの枠を課すなど歳出の伸びが6.2%増とさらに厳しく抑制され,公債依存度の一層の引下げ(57年度予算べース21.0%)が図られた。
しかしながら,56年度下期に入ってから税収の伸び悩みが表面化し,財政運営は厳しさを増した。このため,56年度補正予算では,税収不足に加え,災害復旧費の追加等もあり国債発行が6,300億円増額された(公債依存度27.4%)。その後も税収の伸びは捗々しくなく,56年度では補正予算に対し約2兆9000億円の税収不足が生ずることとなった(歳出不用額や税外収入を勘案すると,決算上の歳入不足額は2兆5000億円前後となる見込み)。
こうした税収不足の発生には,第1章でみたように名目成長率の鈍化が大きく響いている。何故なら,租税収入の大宗を占める所得税,法人税は景気動向に感応的とみられるからである。
すなわち,過去における税収と名目成長率の関係を振り返ってみると,高度成長期には名目成長率が実質成長率の上振れを主因に当初見通しを上回る年度が多かったことが特徴的であり,その場合当初見通しを上回る税収が確保された。これに対して,50年代に入ってからは,名目成長率が当初見通しを下回る傾向がみられる。これを,実質成長率と物価上昇率(GNPデフレーターの前年度比上昇率)に分けてみると,前者は当初見通しに比べ常に下振れしているわけではなく,51年度,55年度のように上振れる年度もみられたが,後者は一貫して下振れしていることがわかる。このため,在庫評価益が大きく,法人税が好伸した54年度を除くと,税収の伸び率は当初見通しとほぼ同じかかなり下回っている。特に,56年度の場合は,名目成長率の下振れは4%弱と50年度以降では最も大きい。これには物価の落ち着きもさることながら,実質成長率の鈍化が大きく響いている。以上の点を総合的に勘案すると,こうした名目成長率の急速な鈍化が税収の伸び悩みにつながったといえよう( 第I-3-23図 )。
こうした歳入欠陥の発生は,現在進められている財政再建に影響を与えている。税収不足をどうファイナンスするかという現実的問題に迫られているからである。
56年度の決算上の歳出歳入不足額については,現行制度の下で,国債整理基金からの繰入れを含む決算調整資金からの組入れによって処理された。
今後景気がある程度回復するとしても高い成長率は期待できない。従って,今後の歳入歳出についてもそうした前提条件をもとにして判断していくべきものである。
今後の対応を考える場合,現在の財政赤字には,第1章でみたように構造的側面が大きいということは見逃せない。すなわち,租税収入等経常収入は石油危機後伸び率が下方屈折したのに対し,経常支出は社会保障関係費等その時々の景況にかかわらず増加するという性格を有しており,しかも両者の乖離が大きいということである( 第I-3-24表 )。先にみたように,55年度以降59年度における赤字公債の脱却を目指して,国債発行の減額が行われてきたが,これは歳出の抑制・削減に加え,税の自然増収等にも依存したものであった。
このように考えてくると,中期的にみて,財政再建を軌道に乗せるためには,歳出削減や現行税制の見直しを含め,現在の歳入・歳出構造のアンバランスを是正していくこどが不可欠といえよう。