昭和57年
年次経済報告
経済効率性を活かす道
昭和57年8月20日
経済企画庁
第I部 鈍い景気の動きとその背景
第2章 内需の回復は何故遅れたか
56年に入ってからの雇用情勢は,改善傾向に足踏みがみられた。所定外労働時間は55年初から頭うちとなり,有効求人倍率も55年4~6月期の0.78倍から57年1~3月期には0.67倍,さらに5月の0.58倍へと低下し失業率も上昇した。一方雇用者数は56年度平均1.3%増とかなり堅調に推移したが,53,54年度の2%を超える増加率よりは相対的に小幅化した( 第I-2-42図 )。
労働力需給は56年度中緩和気味に推移した。有効求人倍率の動きをみると,55年1~3月期の0.78倍から徐々に低下を続け,56年4~6月期には0.67倍まで低下した。その後,7~9月期には0.68倍と改善するかにみえだが,10~12月期以降再び緩和傾向が強まり,57年4~6月期にかけて弱含みの動きが目立っている。
まず,需要面について新規求人の動きをみると,55年7~9月期から前年同期比減少に転じた後,期を追って減少幅を拡大した。その後56年後半には減少幅の縮小がみられたが,57年1~3月期には再び拡大している。これを産業別にみると,①ウエイトの高い製造業は,全体の動きとほぼ同様の動きを示したが,②建設業は前年同期比への寄与度でみると2%前後のマイナスの寄与が続いており,③卸売業や運輸・通信業も若干の不規則変動を伴ないながら減少傾向を示している。これに対し,サービス業は小幅ではあるが,前年水準を上回っているのが特徴的である( 第I-2-43図 )。
さらに,ウェイトの大きい製造業について部門別にみると,その動きには跛行性がみられる。まず,食料,繊維,衣服・木材などの消費住宅関連産業は,消費住宅需要の低調さから55年以降その動きは鈍くなっている。また,鉄鋼,化学などの素材型産業でも,55年に入ってからの減少が目立っており,56年後半にやや戻し気味となったものの,57年1~3月期には再び減少している。これらの産業に対して加工型産業は,53~54年度にかけて大幅な伸びを示したあと,55年度にかけて若干減少するが,56年も高水準を持続した。しかし,57年1~3月期以降は生産動向を反映して急激に低下している( 第I-2-44図 )。これには,加工型産業の輸出減少に伴なう生産減が,かなりの程度影響している。
一方,求職者は,55年度に入って新規求職者が前年同期を上回るようになり,ついで有効求職者も増加に転じた。こうした増勢は,56年4~6月期頃まで続いたが,その後の新規求職者は増勢鈍化し,有効求職者もほぼ同様の動きを示した。57年に入ると,新規求職者は再び増加しはじめるなど微妙な変化もみられる( 第I-2-45図 )。
上記の動きを男女別にみても,それほど大きな違いはみられない。しかし,第1次石油危機後構成比が高まっている45歳以上層では,全体の伸びよりもやや高い増加率で推移してきたが,56年7~9月期以降は全体の伸びとほぼ同程度となった。なお,離職に伴なう雇用保険受給者については,求職者全体と同様最近でも前年水準を上回っている。
以上のように,労働力需給は年度後半において緩和傾向を強めることとなった。
労働力需給が緩和するなかで,雇用の増勢も鈍化していった。非農林業雇用者の動きをみると,55年から56年前半にかけては比較的堅調であったが,56年後半からは増勢に鈍化がみられた。
こうした動きの生じた背景を男女別及び産業別にみると,次のような特徴がみられる。すなわち,男女別には,女子が着実な増加を示したのに対し,男子は増勢が鈍化した( 第I-2-46図① )。また産業別にみると,56年7~9月期,10~12月期と男子製造業雇用者は前年比マイナスを示しているのに対し,女子はこの間も増加を続けた( 第I-2-46図② )。これには最近,主婦の非農林就業者が増加し,まだその就業形態も週35時間未満の短時間労働が選好されていることと,企業側のこうした労働に対する需要の増加が一致している面も作用しているものとみられる。
製造業の雇用については,さきに新規求人についてみたのと同様,部門間で差がみられた。この点をみるため,製造業雇用者(30人以上規模事業所)について雇用変動の季節パターンの変化を年ごとに追ってみよう( 第I-2-47図 )。これは各年3月を100としたその後1年の雇用水準の推移を各年について描いている。新規学卒者の採用月である4月に大幅な雇用増がみられることは,全体でも,各産業でも共通しているが,その後は産業間で相違がみられる。
すなわち,消費・住宅産業や素材型産業では,離職に伴いその水準が下がり,年明け後から当初の3月水準を下回るという動きが,54~56年度まで続いてきた。これに対し,加工型産業においては,5月以降の減少の程度は,54~55年度についてはほとんどなく,4月に達した水準がおおむね維持されてきた。しかし,56年度については12月以降,まだ水準は高いものの低下がみられる。
製造業の求人,雇用は,生産動向と密接に結びついている。まず求人活動が生産に先行し,それにやや遅れて労働投入量が変化する( 第I-2-48図① )。労働投入量は労働時間と雇用とによって決まるが,労働投入の手段としては労働時間が先行する( 第I-2-48図② )。したがって,新規求人は生産停滞の影響を敏感に反映して動いているが,雇用へのそれは遅れることとなった。
こうした関係から生産活動をみると,消費・住宅関連産業,素材型産業の生産が低調であるのに対し,加工型産業の生産は56年10~12月期まで,かなりのテンポで拡大した。しかし,57年1~3月期に入ると輸出の減少を主因に加工型産業の生産も減少に転じた。このことは,生産が順調に拡大している時期には雇用量の増大と賃金コストの低下が達成されることになり,企業収益にとってもプラスとなるが,逆の現象が生じた時は,雇用関連指標に微妙な影響を与えることになる。57年1~3月期以降,それまで好調であった加工型産業の生産が減少に転じたことは,今後の雇用動向にとっても見逃すことのできない要因である。特に,加工型産業は,素材型産業よりも労働集約的であり,雇用吸収力も大きい。それだけに今後の生産,雇用動向には注目する必要があろう。
以上のように雇用者は,56年度後半に製造業では前年比増加率が著るしく低下したが,非製造業では相対的に高い伸びを維持した。したがって,年度後半の雇用増は主として非製造業によってもたらされたといってよい。しかしながら,非製造業においても雇用者の増加率は縮小してきている( 第I-2-49図 )。
以上のような状勢から,完全失業率は上昇した。55年1~3月期の1.92%から56年4~6月期には2.31%と高い水準に達した。その後若干低下したが,57年1~3月期には2.25%まで上昇した(前掲 第I-2-42図 )。この背景には既にのべたように,基本的には男子雇用需要が停滞したことが影響している。もっとも,56年前半までは,非農林雇用者は2%前後の増加を続け,その後1%前後に低下したが,低水準ながら増加を維持している。
そこで,企業側の雇用人員判断と業況判断をみたのが 第I-2-50図 である。第1次石油危機後の50~52年は業況判断も悪く,雇用人員判断も大幅な過剰感が存在した。53年は景気回復の初期の段階であったことや先行き自信感も乏しかったため,両者とも悪化ないし過剰感が存在したが,54年以降は明らかに状況は異なってきた。すなわち,54~55年と業況判断が好転するなかで,雇用過剰感は急速に薄れてきた。56年から57年初めにかけては,さすがに業況判断もやや悪化するが,雇用過剰感は軽微にとどまっている。このことは,第1次石油危機後の徹底した減量経営が,企業体質を強化させ,常に適正人員配置を計画している証左ともいえよう。こうした面も考慮すると企業による大幅な雇用者の解雇を伴いながらの雇用調整が行われる可能性は当面は小さいといえる。しかし,57年度の前半においては,生産調整が主に雇用吸収力の高い加工型産業で行われるということもあって,中途採用の手控えや,離職者の再就職の困難性が増すなど,一般労働市場への圧迫はかなり強まることが懸念される。