昭和56年

年次経済報告

日本経済の創造的活力を求めて

昭和56年8月14日

経済企画庁


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8. 財  政

(1) 昭和55年度の財政政策とその背景

昭和55年度の我が国経済をみると,54年初から続いた第2次石油危機の影響は決して小さなものではなかったが,我が国経済は国際収支,物価,景気等においてそれほど深刻な悪化に陥らず,比較的良好なパフォーマンスを示してきた。しかし,55年春以降,石油価格上昇のデフレ効果のため,経済拡大の鈍化,いわゆる「景気のかげり」が現われ設備投資,輸出の堅調さの反面,個人消費や住宅建設の停滞,在庫調整の進行などが見られた。

こうした中で55年度の財政金融政策は,当初は物価の安定を最重要課題として抑制的な運営が行われたが,「景気のかげり」が顕在化するに伴い,しだいに景気の維持・拡大に重点を置く政策運営へと転換された。

第8-1表 昭和55年度における財政関係主要事項

(2) 昭和55年度当初予算

54年度後半の我が国経済は,原油価格上昇等の要因から,物価はその先行きについて警戒を要する状況にあり,また景気の先行きについても予断を許さないものがあった。また,財政事情は,50年度以降,特例公債を含む巨額の公債発行に依存するという状況にあり,このような財政赤字を積み重ねることは,財政本来の機能を十分に果たせないことになるばかりでなく,経済の安定を阻害するおそれもあった。このような状況の下で,55年度予算は,公債発行額をできる限り圧縮して財政再建の第一歩を踏み出すとともに,経済の着実な発展に配意することを基本として編成された。このため,一般会計予算については経費の節減合理化に努め,特に一般歳出(国債費及び地方交付税交付金以外の歳出)の増加額は極力圧縮が図られた。この結果,一般会計予算の規模は42兆5,888億円となり,前年度比10.3%という伸び率は34年度(8.4%)以来の低いものとなった。また,一般歳出の規模は30兆7,332億円となり,前年度比5.1%の増加となっている( 第8-2表 )。主要経費別にみると,エネルギーの安定供給を確保するためエネルギー対策費の伸び率が31.9%と高い反面,公共事業関係費は1.7%と微増にとどまっている。このほか国債費,経済協力費も高い伸びとなっている。一方,歳入については,財政の公債依存体質を改善するため,公債発行予定額を前年度当初予算より1兆円減額することとし,14兆2,700億円としている。この結果,公債依存度は33.5%となり,前年度当初予算の39.6%から6.1ポイント低下した。

(3) 昭和55年度の財政政策

① 公共事業等の執行方針

55年度における財政政策の推移をみると,55年3月19日に決定された第3次総合物価対策での,物価動向に細心の配慮を払い,公共事業等の抑制的な施行を図るという方針に基づいて,4月8日の閣議で55年度上半期の公共事業等契約率を60%程度にとどめることが決定された。55年度予算において公共事業関係費の伸びが極めて低く抑えられたこともあって,55年度の財政運営は,予算規模,執行方針の両面で物価抑制型のものとしてスタートした。こうした政策運営態度は,年度上半期の公共事業等契約率にも反映している( 第8-3図 )。

第8-2表 財政規模の推移

52年度,53年度には公共事業等の前倒し,完全執行の方針がとられたため,上半期の契約率(当初予算比)は,52年度国75.1%,都道府県71.1%,53年度国76.0%,都道府県74.2%に達した。これに対して,「自然体」の執行方針がとられた54年度には,上半期の契約率は国66.7%,都道府県65.8%に低下した。55年度の上半期契約率は,これよりもさらに低い国59.6%,都道府県61.4%と低い水準にとどまった。

このような財政運営は,金融面からの強力な引締めと相まって,物価の安定に大きく寄与し,卸売物価は4月をピークに5月以降,消費者物価は秋口以降落ち着きの方向に向かった。しかし,その反面で石油価格上昇に伴うデフレ効果に加えて,冷夏による消費の鈍化等もあって「景気のかげり」が現われてきたため,財政政策にも手直しが行われた。8月20日に公定歩合が9%から8.25%に引き下げられたのに続き,9月5日の経済対策閣僚会議において経済対策(「経済の現状と経済運営の基本方針」)を決定した。この経済対策では,55年度下期の公共事業等の執行については前年度に比し相当程度の伸び率を確保することとし,当面第3四半期における契約目標額を対前年同期比30%増程度とすることが決められた。

その後も景気は急速には上昇せず,経済の拡大テンポの鈍化が続いたため,56年3月17日に経済対策閣僚会議において新たな経済対策(「当面の経済情勢と経済運営について」)が決定された。この中で,56年度予算成立後の公共事業等については促進的な執行を図るものとし,上半期の契約率目標は70%以上とすることとされた。4月以降はこの方針に基づき,公共事業等の着実な執行が図られている。

なお,55年3月末の公共事業等の契約実績は,国95.6%,都道府県96.6%となり,それぞれ54年度末の93.6%,94.9%を上回った。また,一般会計の公共事業関係費及び道路整備,治水,港湾整備,特定土地改良の各特別会計の対民間支払額の合計である公共事業関係費支払額の前年度比でみても,54年度の4.7%増に対し,55年度は12.8%増となっている。

第8-3図 公共事業等の年度上半期契約率

② 昭和55年度補正予算

昭和55年度補正予算は56年2月13日に成立した。この補正予算は,歳出面においては農業保険費(1,480億円),災害復旧等事業費(871億円)等,当初予算作成後に生じた事由に基づき,特に緊要となった事項等について措置を講じるとともに,歳入面においては租税及び印紙収入の増収(7,340億円)等を見込むことを内容とするものである。なお,公債については「4条公債」を1,700億円増額し,「特例公債」を1,700億円減額している。

以上により,55年度一般会計補正後予算の総額は,歳入歳出とも当初予算に対して1兆925億円増加して43兆6,814億円となった。公債依存度は32.7%となっている。

(4) 財政資金対民間収支の動向

55年度の財政資金対民間収支は2兆8,603億円の散超となり,前年度の9,370億円の散超に対し1兆9,233億円の散超増となった( 第8-4表 )。その内訳をみると,一般会計では公共事業費,交付金,社会保障費等の支出が予算の規模増により増加したが,租税収入が伸びたため,前年度を5,238億円上回る揚超となっている。特別会計等では,食管,運用部の散超減などから前年度を2兆1,595億円下回る11兆885億円の散超となった。一方,外為資金では,54年度の円安傾向を反映した大幅な揚超から,55年度は円高傾向による1兆3,141億円の散超となり,前年度より4兆4,376億円という大幅な散超増となった。この外為資金での散超増が,55年度の対民間収支の散超増の主因となっている。

(5) 昭和56年度予算,財政投融費計画及び地方財政計画

① 昭和56年度子算

昭和56年度予算は56年1月26日に国会に提出され3月7日に衆議院で可決され4月2日に参議院で可決され成立した。56年度予算は,前年度予算で第一歩を踏み出した財政再建をさらに一段と進めて,本格的な軌道に乗せることを基本として編成された。その特色としては,公債発行額を前年度当初予算より2兆円減額することを基本方針とし,そのために歳出面において思い切った節減合理化を進める一方,歳入面においても徹底的な見直しを行い,特殊法人からの国庫納伸等を実施して税外収入の増収を図るとともに,現行税制の基本的枠組みの中で税率の引上げ等により相当規模の増収措置を講じたことである。

第8-4表 財政資金対民間収支の推移

この結果,56年度一般会計予算総額は46兆7,881億円となり,55年度当初予算に対し9.9%増となった。前年度比伸び率が1桁にとどまったのは,34年度以来22年ぶりのことである。また,一般会計予算総額から国債費及び地方交付税交付金を除いた一般歳出では前年度比4.3%増と,31年度以未25年ぶりの低い伸びとなった( 第8-5表 )。

第8-5表 一般会計歳出予算の主要経費別分類

(ア) 歳入予算

一般会計歳入のうち租税及び印紙収入は,前年度当初予算比5兆8,730億円(22.2%)増の32兆2,840意円と大幅な増収が見込まれている。56年度の税制改正では,財政体質の改善に資するため,法人税,酒税,物品税,印紙税及び有価証券取引税について税率の引上げ等を行うとともに,租税特別措置の整理合理化等を行うほか,エネルギ-対策の促進に資するため所要の税制上の措置を講じることとしている。法人税の改正についてみると,税率が一律2%引き上げられ普通法人では留保分の税率が40%から42%に,配当分の税率が30%から32%へと引き上げられた。

第8-6表 一般会計公債発行額の推移

56年度の公債発行額は,前年度当初発行予定額の14兆2,700億円より2兆円減額し,12兆2,700億円となった。2兆円の減額は,すべて特例公債によって行うため,特例公債発行予定額は5兆4,850億円となり,建設公債発行予定額は前年度当初予定額と同額の6兆7,850億円となった。この結果,56年度の公債依存度は26.2%(55年度は当初予算で33.5%,実績で32.6%)となった( 第8-6表 )。

(イ) 歳出予算

歳出予算については全体としての歳出規模を厳しく抑制する中で,長期的視野から充実を図るべき施策には重点的に配意されている。エネルギー対策費(17.3%増),経済協力費(11.2%増),防衛関係費(7.6%増),社会保障関係費(7.6%増),科学技術振興費(6.4%増)などが重点的な配分を受けている。歳出の重点化を増加額の内訳でみると,社会保障関係費が一般歳出の増加額1兆3,172,億円の5割近い6,245億円を占め,これに恩給関係費を加えると全体の約6割という比率になる。これにさらに文教及び科学振興費,防衛関係費,エネルギー対策費,経済協力費を加えると,全体の98%を占め,その他の経費の増加分は2%にすぎない。

主要な経費についてみると,社会保障関係費は8兆8,369億円(前年度当初比7.6%増)が計上されている。給付の重点化を図る観点から,老齢福祉年金及び児童手当については所得制限を強化する一方,障害福祉年金等については所得制限を緩和することとしている。また生活扶助基準を8.7%引き上げ,生活保護の改善が図られている。健康保険については,家族の保険給付割合の引上げ,本人自己負担の引上げ,高額医療費の低所得者の自己負担限度額の引下げ,保険料率の引上げ等を行い,政府管掌健康保険の赤字の解消を図ることとしている。

地方財政対策としては,地方交付税交付金として国税三税収入の32%に相当する額8兆835億円を計上するほか,56年度の特例措置として臨時地方特例交付金1,306億円を計上し,これに資金運用部からの借入金等及び55年度の地方交付税交付金の未払金を加え,地方団体に交付すべき地方交付税交付金として,8兆7,166億円(前年度当初比7.9%増)を確保することとしている。

公共事業関係費については,厳しい財政事情から55年度に引き続き,その規模を極力圧縮することとし,総額を55年度と同額の6兆6,554億円にとどめている。この中で,国民生活充実の基盤となる社会資本の整備に配意し,公営住宅建設事業に対する補助,住宅宅地関連公共施設整備促進事業の拡充等のための住宅対策費7,613億円などを計上している。なお,海岸,港湾,空港,住宅,下水道,廃棄物処理施設,公園及び交通安全施設整備の8事業については,現行の長期計画が55年度で期限切れとなるので,新経済社会7ヵ年計画のフォローアップと整合性をとりつつ,56年度を初年度とする新たな長期計画を策定することとしている。

経済協力費については,無償援助及び技術協力の充実のための予算に増額が図られており,エネルギー対策費については,石油の安定的輸入,省エネルギー対策の推進,石油代替エネルギーの開発・導入の推進等に重点が置かれている。

② 昭和56年度財政投融資計画

昭和56年度財政投融資計画の規模は19兆4,897億円であり,55年度計画額の18兆1,799億円に対し7.2%増となっている。原資事情が限られたものとなっている中で,財政投融資対象機関の事業内容,融資対象等を見直すことによって規模の抑制を図り,必要度の高い施策に重点的・効率的に資金配分をすることとしている( 第8-7表 )。

資金配分に当たっては,エネルギー問題の重要性からエネルギー関係事業について特に重点的に配慮するほか,住宅建設の促進,中小企業金融の円滑化,道路整備等の国民生活の向上とその基盤整備に資する分野に重点的に配意することとしている。

56年度財政投融資の原資としては,55年度計画額に対し11.2%増の22兆9,897億円を計上している。このうち19兆4,897億円を56年度財政投融資計画の原資に充て,3兆5,000億円を56年度において新たに発行される国債の引受けに充てることとしている。

③ 昭和56年度地方財政計画

56年度の地方財政計画は,引き続く厳しい財政状況にかんがみ,財政の健全化を促進することを目途として,おおむね国と同一の基調により策定されている。歳入面においては,住民負担の適正合理化にも配慮しつつ地方税源の充実を図るとともに,受益者負担の適正化等による収入の確保を図るほか,引き続き見込まれる巨額の財源不足額(1兆300億円)については,地方交付税の増額(3,400億円)及び地方債の増発(6,900億円)によって完全に補てんすることにより地方財源の確保を図ることとしている。歳出面においては,経費全般について徹底した節減合理化を行うという抑制的基調の下で,住民生活に直結した社会資本の整備を図るために必要な地方単独事業の規模の確保に配意するなど,限られた財源の重点的配分と経費支出の効率化に徹し,節度ある財政運営を行うことを基本として策定された。この結果,56年度地方財政計画の総額は44兆5,509億円となり,前年度(41兆6,426億円)に比べ7.0%の増加となっている( 第8-8表 )。

第8-7表 財政投融資計画の使途別分類

第8-8表 地方財政計画

56年度の地方財源不足額(1兆300億円)は,前年度より縮小したが,これは,歳出全般について抑制的基調を貫いたこと,税制改正により,地方税,地方交付税の増収が見込まれたこと,昭和55年度補正措置に係る地方交付税増加額の大部分を昭和56年度に繰り越したこと等によるものである。この財源不足については,(イ)一般会計から交付税及び譲与税配付金特別会計への臨時地方特例交付金の繰入れ(ロ)同特別会計の資金運用部からの借入金の償還方法の変更,(ハ)同特別会計における資金運用部資金からの借入れによる地方交付税の増額及び建設地方債の増発(財源対策債)によって補てん措置が講じられている。なお,財源対策債は,財政再建の見地から前年度に引き続き縮減されている。

(付注)景気・物価対策としての財政・金融政策の概要


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