昭和56年

年次経済報告

日本経済の創造的活力を求めて

昭和56年8月14日

経済企画庁


[目次] [年次リスト]

5. 交通・通信

(1) 前年並みにとどまった国内輸送

a 貨物輸送の伸びは大幅に鈍化

国内貨物輸送量は54年度にかけて順調な拡大を続けてきたが,55年度は,経済の拡大テンポの鈍化,なかでも素材産業不振の影響を受けて伸び率が鈍化し,輸送トンキロでは5年ぶりにマイナスに転じた。とくに年央以降の停滞が顕著であった。この結果,輸送トン数は59億90百万トン,前年度比0.6%増となり,輸送距離を加味した輸送トンキロでは4,397億トンキロ,前年度比0.5%減となった( 第5-1表 )。

輸送機関別にみると,国鉄は輸送トン数で前年度比10.8%減と大幅に減少し,輸送トンキロでも同様に12.6%減となった。これを品目別にみると,紙・パルプ,石油,セメント,鉄鋼の落ちこみが大きかった。

第5-1表 国内輸送機関別貨物輸送量

また,自動車もこれまでの高い伸びから一転して伸びが鈍化し,輸送トン数では前年度比1.1%増,輸送トンキロでも同3.5%増となった。このうち,営業用では,輸送トン数が前年度比2.1%増,輸送トンキロが5.4%増となっているのに対し,自家用ではそれぞれ0.7%増,0.9%増となっており,特に自家用での伸び率鈍化が著しい。

内航海運は原油製品の需要の減少等により,輸送トン数では前年度比1.8%減,輸送トンキロでも同1.3%減となった。

航空についいては,近年速いテンポで増加を続けてきたが,55年度は輸送トン数で4.3%増,輸送トンキロでも6.0%増と位い伸びにとどまった。

以上の結果,輸送機関別国内貨物輪送トンキロ分担率をみると,前年度に比ベ鉄道は,国鉄が減少したことにより1.1ポイントの大幅減少,内航海運も0.4ポイント減少する一方,自動車は1.6ポイント増加することとなった。

b 国内旅客輸送も不振

55年度の国内旅客輸送量をみると,輸送人員は517億21百万人,前年度比0.6%増,輸送距離を加味した輸送人キロは7,822億人キロ,同0.6%増となり,個人消費の低い伸びが続いたなかで,続じて不振であった( 第5-2表 )。

これを輸送機関別にみると,国鉄は輸送人員で前年度比1.5%減,輸送人キロで同0.8%減となり,減少傾向を続けている。その内訳をみると,これまで減少率の大きかった普通旅客は輸送人員が前年度比0.7%減,輸送人キロが0.6%減にとどまったが,定期旅客は逆に輸送人員が2.0%減と減少率を拡大し,輸送人キロも1.1%減と減少に転じた。他方,民鉄は,輸送人員で前年度比2.5%増,輸送人キロでも3.2%増といずれも伸び率を高めた。これらの結果,国鉄,民鉄を併せた鉄道合計では,輪送人員は前年度比0.9%増,輸送人キロは0.7%増となり,民鉄の堅調な伸びに支えられて,前年の伸びをわずかながら上回った。

次に,バスについては,輸送人員は前年度比0.6%減となったが,輸送人キロでは1.9%増と伸びを高めた。

第5-2表 国内輸送機関別旅客輸送量

乗用車旅客は53年度から54年度にかけて高い伸びを続けてきたが,55年度は個人消費停滞の影響を強く受け輸送人員で前年度比0.9%増,輸送人キロで0.4増にとどまった。このうち自家用は,輸送人員で1.5%増,輸送人キロで0.5%増と伸びが鈍化し,営業用はそれぞれ2.5%減,1.3%減となった。

また,航空も近年2ケタ台の高い伸びを示していたが,55年は一転して輸送人員で前年度比2.3%減,輸送人キロで1.8%減となった。旅客船についても,輸送人員は3.5%減,輸送人キロは4.8%減となった。

以上の結果,55年度の輸送機関別国内旅客輸送人キロ分担率は,前年度に比べて国鉄が0.3ポイント減,乗用車が0.1ポイント減,航空が0.1ポイント減となる一方,民鉄が0.3ポイント増,バスが0.2ポイント増となった。

c 「国鉄再建法」の成立

国鉄の財政状況は,39年に単年度収支が赤字となって以降悪化を続け,50年度以降は毎年1兆円前後の純損失が発生している。

第5-3表 日本国有鉄道の事業収支

このように危機的状況にある国鉄経営を立て直し,今後ともわが国の基幹的輸送機関としての機能を維持していくことを可能とするため,政府は,54年12月29日,「日本国有鉄道の再建について」の閣議了解を行った,ここでは,国及び国鉄が当面緊急に実施すべき対策として,国鉄の経営改善計画の作成及び実施,地方交通線対策の推進,これらを前提とした国の助成措置が定められており,この閣議了解を実施するための法的措置として55年11月,「日本国有鉄道経営再建促進特別措置法」が成立した。

同法に基づき,56年5月に経営改善計画が定められ,①都市間・大都市圏旅客輸送及び大量・定型貨物輸送といった鉄道特性を発揮し得る分野に経常を重点化し,地方交通線等鉄道特性を発揮し難い分野については徹底した合理化を行うとともに,業務運営全般にわたる能率化を進めることにより昭和60年度職員「35万人体制」とする。②適時適切な運賃改定,関連事業の増収,資産処分等により収入の確保を図る。③設備投資を抑制する。④労使関係の改善を図る。⑤以上の施策を確実に実施することにより,行財政上の措置とあいまって,昭和60年度には健全経営の基盤を確保するとともに,昭和61年度以降については,可及的速やかに収支均衡の実現を図ることとしている。

55年度の国鉄事業収支をみると運賃・料金改定(旅客運賃,貨物運賃をそれぞれ4.5%,8.9%改定し,55年4月20日より実施)の効果もあり旅客収入は増加したが,国鉄貨物輪送の大幅減少により貨物収入が減少したため収入増は小幅となった。他方で,支出総額に占めるウエイトの高い人件費の伸びが高まったことなどから支出が増加し,赤字額(純損益)は1兆円をこえることとなった。

(2) 国際輸送は総じて伸び悩み

a 我が国商船隊輸迭量は輸入において減少

55年の輸出入の動向をトン・べースでみると,輸出は7,649万トン,前年比0.6%増,輸入は60,564万トン,同2.1%減となった( 第5-4表 )。

このうち,我が国商船隊(外国用船を含む)の輸送量は,輸出は我が国商船隊の積取比率の高い自動車の貿易量の増加等から前年比5.1%増となったものの,輸入が原油等海上貿易量の減少などから3.9%減となった。

第5-4表 輸出入貨物と積取比較

以上の結果,我が国商船隊の積取比率は,輸出においては54.7%と前年に比べて2.4ポイントの増加,輸入においては71.6%と1.4ポイントの減少となった。

さらに,日本船,外国用船に分けてみると,日本船の輸送量は,輸出が1.0%減,輸入が5.5%減となったため,日本船の積取比率は,輸出においては20.5%と前年に比べて0.3ポイントの減少,輸入においても37.4%と1.4ポイントの減少となった。一方,外国用船の輸送量については,輸出が9.1%増,輸入が2.0%減となったため,外国用船の積取比率は輸出においては34.2%と前年に比べて2.7ポイントの増加,輸入においては34.2%と前年並みとなった。

第5-5表 我が国航空企業の国際線輸送実績

以上のように,日本船の積取比率が位下したのは,日本船の積取比率の大きい油類の貿易量が大幅に減少したこと等が影響したものとみられる。

b 伸び率鈍化のみられた国際旅客航空輸送

我が国の国際航空輸送は,貨物,旅客とも高い伸びを続けてきたが,55年度は旅客を中心に伸び率が鈍化した( 第5-5表 )。

旅客輸送をみると,輸送人員が前年度比3.3%増となり,人キロ・べースでも2.1%増ととどまった。

第5-6表 引受郵便物数

第5-7表 郵便事業財政

一方,貨物輸送は重量ベースで6.9%増,キロトン・ベースで15.5%増と依然堅調な伸びを持続しているが,前年に比べると伸び率は鈍化した。

(3) 内・外通信の動向

a 郵便物数

通常郵便物は56年1月20日に,小包郵便物は55年10月1日にそれぞれ料金改定を実施したが,55度年度の内国郵便物引受総数は前年度比では3.1%増加した。また,内国,外国合わせた55年度の総引受郵便物数は,約158億通(個),前年度比では3.1%増加した( 第5-6表 )。

郵便物数の主な動きを種類別にみると,第一種郵便物(封書など)は前年度比5.0%増と比較的高い伸びを示したのに対し,第二種郵便物(はがき)は2.6%増と低い伸びにとどまった。

また,小包郵便物は,料金改定の影響もあって,前年度比7.7%減少し,選挙郵便物も54年度に衆議院議員総選挙や統一地方選挙の施行により大幅に増加したため,55年度は前年度比53.0%減となった。

郵便事業財政は昭和54年度末で2,124億円の累積赤字を抱え,非常にひっ迫した状況におかれていたが,56年1月20日から5年ぶりに通常郵便物の料金改定を行い,財政再建の端緒が開かれた。

第5-8表 電信,電話サービス状況

昭和55年度の事業財政は,当初24億円の黒字と見込んでいたが,料金改定の実施時期が遅れたことなどにより371億円の赤字となり,49年度以降の累積欠損金は55年度末で2,495億円となった( 第5-7表 )。

b 国内公衆電気通信

55年度における国内の電信電話サービィスの状況をみると,加入電話等総数は129万増加し,3,905万加入となった。この結果,人口100人当たりの加入電話等普及状況は33,3加入となり,10年前の約3倍に達した。また,公衆電話数も3万個増加して88万個となり,公衆電話普及率は人口1,000人当たり,7.5個となった( 第5-8表 )。

一方,電報通数は,38年度の9,461万通をピークとして,その後大幅な減少を続けできたが,52年度以降横ばいの傾向にあって55年度には4,104万通(国民一人当たり0.35通)となっている。

第5-9表 主要国際通信発着数

c 国際電気通信

かつて国際通信の主役であった国際電報は45年度の国際加入電信の自動化実施,通信の利用構造の変化の影響を受けて減少傾向にある。

こうした中で,国際電話,国際テレックスの発着数は,国際化の進展,利用可能地域の範囲の拡大,通信設備の近代化,サービィス水準の向上等により高い伸びが続いている( 第5-9表 )。

d 新しい通信メデイアの普及

我が国では,近年,社会経済活動の進展に伴う多種多様な新しい通信に対する需要に応じうる画像通信,データ通信等の高度かつ多様な新しい情報通信メディアが目覚しい発展をみせている。

任意の画像を伝送することのできるファクシミリは,47年度に1,000台であったものが,50年度末には1万台を超え,54年度末には10万台に達した。

また,国内データ通信システムの設置状況をみると,46年度末の308システムから54年度末には4,668システムに拡大した。中でも自営データ通信システムの発展が著しく,データ通信導入に先導的な役割を果たした金融,保険業に加え,最近では商業,製造業,建設業などの分野でも広く利用されるようになってきている。

さらに,インテルサットをはじめとする衛星通信システムが,国際間のグローバルなネットワークを構成する核としての役割を果たすに至っている。

これら新しい情報通信分野の発展は,今後の社会経済活動の変革と発展を促す鍵となるものと期待されている。


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