昭和56年

年次経済報告

日本経済の創造的活力を求めて

昭和56年8月14日

経済企画庁


[前節] [目次] [年次リスト]

第II部 日本経済の活力,その特徴と課題

第1章 民間部門の活力とその課題

第4節 民間部門の今後の課題

今後の日本経済をとりまく条件は厳しい。そのうち重要なものとしては,第1は,エネルギー制約の高まりである。第2は,人口の高齢化である。人口の高齢化の下で,一方では,高齢者の公的・私的扶養の必要性が増加するため生産年齢人口の負担が増大すると予想されるとともに,他方では,生産年齢人口そのものも平均年齢が上昇することにより,労働力の質の点から生産活動への影響が懸念されている。こうした厳しい条件下で,日本経済の安定的成長を確保していくためには,以上で述べた民間部門の活力を維持し,それを一層創造的に生かしていく必要がある。

こうした視点から,①競争的市場の確保,②技術革新の進行,③エネルギー制約への対応,④農業の効率化等をめぐる課題を中心に検討してみよう。

1. 競争的環境の維持

わが国経済では企業間競争が活発である。たとえば,高度経済成長は,各企業が争って新規設備を導入し,市場シェアを拡大しようとしたことによるところが大きい。また,石油危機以降,各企業が競って省エネルギー投資や合理化努力を進めたのも効率化しなければ競争に生き残れないからであった。

このような競争性の維持には,絶えず産業への新規参入が行われていることが必要である。たとえば,わが国の企業数は,40年から52年の間に年率5.3%の伸びを示しているが,アメリカは3.8%,西ドイツはほぼ横這いとなっており,わが国の産業界では新規参入が両国よりも活発に行われているとみられる( 第II-1-19図 )。企業の経営意識をみても,経営者は活発に活動範囲を拡げ,新しい分野に進出しているのみならず,今後もそうした意欲が強い。したがって市場での競争が激化すると感じているものも多い( 第II-1-20図 )。

しかし,他方,市場成長率の鈍化に伴い,需要の低迷する分野を中心として,競争のインセンティブが減少し,企業行動の協調的体質への移行等により,産業活力の面で問題の顕在化が懸念される場合もある。

また,競争性の低下は,市場成長率の鈍化等だけでなく制度的な要因によっても生じることがある。わが国の多くの産業分野において法令に基づく許認可制度による規制が存在している。

公正取引委員会によれば,政府規制に関する法令は176法令(法律174,勅令2)であり,全法律の約12%となっている。またこれらの法令により規制をうける産業は,生産額でみて産業全体の約40%であり,そのうち強い政府規制が行われている産業の生産額は総生産の20%弱となっている。

規制制度が導入されたのには,理由があってのことであるが,経済環境の変化等によっては許認可制度等による新規参入抑制,限界的企業の温存,価格の下方硬直性,生産活動の非効率化,資源配分の歪み等をもたらす可能性は否定できず,競争性を維持・向上させていくために,これらを見直していくことも重要であろう。

2. 今後の技術開発

さきに述べたように,これまでわが国産業は外国技術の導入や,それに自己開発技術を加えて改良・改善を行い,新製品の開発や大量生産技術充実・普及等,技術革新の導入を進めて,高い経済成長を達成してきた。その結果,現在ではわが国産業の技術水準は航空機,原子力機器,情報処理(ソフトウエア)等一部先端技術では世界のトップレベルとは,まだ格差があるものの,その他のほとんどの分野では欧米諸国にほぼ肩を並べる程度に達したとみられる。鉄鋼や家電,自動車等の産業では逆に世界をリードしている面もある。

また技術開発力も,技術の導入・適用,普及・改善の過程を通じて次第に高まり,とくに改良や応用,さらにシステム化の面では世界のトップレベルにあるとみられるようになった。一国の技術開発を示す指標として外国からパテント,ノウハウ,技術指導など技術提供を受け入れた場合の対価支払(技術輪入額)に対する技術輸出額の比率をとってみると,過去の大量の技術導入を反映して全体としてはアメリカはもとより,西ドイツやイギリスにも及ばないが( 第II-1-21①図 ),近年における年々の新規分についてみると,47年度以降,新規の技術貿易は出超となっている( 第II-1-21②図 )。また輸出先の内訳をみると中進国が大きな部分を占めているが,先進国のウエイトも徐々に高まってきている。

このようにほぼ先進国水準に達した技術水準の下では,今後は今までのような海外からの技術導入,海外で成功した技術の国内開発における応用等を越えて,より自らの手で「新しい技術開発」を進める必要性が高まっている。

こうした面からみて,わが国の研究開発の状況はどうだろうか。わが国の研究開発費は量的には,国際的にみても低くない水準にある( 第II-1-22図 )。

研究開発費の内訳についてみると,開発研究や応用研究といった製造技術段階の研究に多くの部分が充てられているが,基礎研究費の割合も国際的にみてさほど低くはない( 第II-1-23図 )。

また国全体の研究費の公費負担率をみるとわが国は欧米に比べてかなり低いが,アメリカや西ドイツでは国防関連費等の占める割合が高く,直接的には産業技術の向上にかならずしも寄与しないものが多く含まれている。つまり,わが国は,研究費全体でみても,基礎研究費でみても,産業に寄与しうる公費研究費でみても,決してそう低い水準ではない。

また,産業別の研究費について日米比較すると,アメリカでは,航空機産業の比重が高く(研究費で24.4%),そのはか電子・通信機でも高いが,一方わが国では,化学,鉄鋼,機械,電気機械,自動車での比重が高いという相異がある( 第II-1-24表 )。航空機や原子力等については高い技術水準をもつアメリカが,自動車,家電,さらには電子機器の部門でも輸入の増大が生じているということの背景はこのあたりにもうかがえる。

わが国のこれまでの技術発展のプロセスを一言でいえば,「経済的ニーズ(必要性)を満たすための内外の既存技術の導入・応用・システム化」であったといえよう。しかもそのほとんどが民間部門を中心とする活力によって推進された。また,現在起こりつつある技術革新は,半導体応用技術を中心として成熟化した既存の技術をシステム化するというかたちで進行している。その意味ではわが国で開発した「適用・普及・改善」型の技術開発,つまり応用型の技術開発は,この新しい技術革新を進める上では,大きな力となっている。この活力は今後とも生かされるべきである。それによって内外の需要及び環境の変化に弾力的に対応しうる可能性を高めうるのである。

しかしながら,より長期的観点に立てば,次の2点,すなわち基礎的分野の研究開発と科学技術の社会的アセスメントが重要な課題である。

第1に,応用開発技術そのものが広範な基礎研究の成果の上に立つものであることはいうまでもない。今日では既存技術の成熟化が指摘されており,90年代に開花が期待される次世代産業の確立に必要な新材料技術,バイオテクノロジー,新機能素子技術,光通信技術等の基盤技術の開発が進もうとしているなかでは,より多くの人材と資源をこれらの基礎研究部門へとふりむけていく必要がある。

さらに第2として今後,技術革新が社会経済に与える影響は,ますます大きくなると予想され,したがって技術開発の波及効果についての事前評価及び社会的影響についての十分な配慮を通じて,技術が社会・経済の中に受け入れられるようにしていく必要性が高まるということである。この2点は国内のみならず,わが国の科学技術の発展やその研究開発が国際的な場に参加し受容されていくためにも不可欠と考える。

そして,以上の2点,つまり「基礎研究」や「社会的アセスメント」に際しては,従来以上に国民の「価値観」が問われることになろう。応用研究や技術導入では,既にそれが海外で発展していただけに,わが国経済や国民生活のニーズに対応して受け入れることが可能であった。しかし,欧米における科学発展の歴史は,本格的な基礎研究は「広い自由度がなければ成り立たないこと」を示しているし,また社会的アセスメントは,国民が「本当に何を求めているかを厳しく問い直すこと」を意味するものである。

3. 省エネルギーの一層の推進と代替エネルギー開発

長期的にみると石油制約は持続的性格のものであり,省エネルギー,省石油の努力は一層強化されなければならない。しかし,主な省エネルギー投資の目標回収期間が第2次石油危機後やや長期化し,投資効率が低下しつつあり,とくに鉄鋼,紙・パルプ,化学,窯業・土石等で著しい( 第II-1-25図 )。その理由は,操業方法の改善や設備の変更による省エネルギー化には限界があり,一層省エネルギー化を進めるためには,技術開発や原燃料転換等の生産設備の更新や新設を伴う大型投資が必要となっているからである。

さらに,製造業のエネルギー需要の大きな部分を占める素材型産業のエネルギー消費は,その用途に元来原材料的性格が強く,エネルギー原単位の向上や石炭,LNG等の代替エネルギー転換が進むにせよ,これからはそのテンポも従来ほど速くはできない可能性も強い。

したがって,経済全体としては,省エネルギー化のテンポが鈍化してくる可能性なしとしない。

このため,従来レベルのものと異なる新規抜本的な省エネルギー技術開発や生産プロセスの変更等を伴う省エネルギー投資の推進に取り組むとともに,他方で,環境保全に留意しつつ石炭やLNG等へのエネルギー転換や原子力をはじめとする石油代替エネルギーの開発を進め,エネルギー制約の緩和を図っていかなければならない。この面では現在,原子力利用技術,石炭化,太陽,地熱等石油代替エネルギー技術等の研究開発が進められている。このうち石炭については安定供給の確保,流通コストの低減及び利用技術・施設の整備費用,環境保全技術の開発等種々の問題がある。まだ,原子力には,立地,核燃料サイクルの確立,等多くの課題があるが,供給の安定性,経済性や燃料備蓄面等でも有利であり,技術的発展の可能性も高い。しかし,原子力発電を中心とする原子力の研究開発利用は,基礎的研究段階から実用化まで長期間を要し,民間部門のみならず国全体としての取組みが必要となる。

さらに,原子力の利用に当っては,まず安全性の確保が大前提である。原子力発電所の立地は,近年きわめて困難となっているが,国民に受け入れられていくためにも安全性の確保の努力は一層強化されなければならない。

このほか,近年核不拡散の強化を目的として,核燃料の利用にあたっては種々の国際的制約が課せられるようになってきているが,わが国は現在のところ核燃料の供給を全面的にアメリカ及びカナダ等に依存しているため,このような国際的動向をふまえ,積極的に対応していく必要がある。

さらに,原子力発電所等において発生する低レベルの放射性廃棄物の最終処分については海洋処分と陸地処分をあわせて行うこととしており,国内外の理解を得るための努力が行われている。

このように原子力の利用を巡る環境は厳しいものがあるが,原子力発電の拡大と定着を図っていくためには,関係者が今後とも地道な努力を重ねて安全性をより完全なものとし,内外の受容性を高めていく必要がある。

4. 農業の効率化

(農業の効率化の必要性)

わが国経済は,製造業部門を中心に高い生産性を達成してきた。しかし,農業部門については,高度経済成長期に生産性は向上したものの,近年は伸び悩んでいる。したがって,今後において日本経済の活力を維持していくためには,農業部門についても絶えず生産性の向上を図っていく努力が必要である。

すなわち,わが国の農業は米等土地生産性の高いものもあるが,その経営規模の零細性等からして,労働生産性は低く,したがって品目によっては国際価格との乖離が大きなものとなっている。また,わが国の食用農産物の総合自給率は35年度の90%から,54年度の72%まで傾向的に低下してきている。農業については,食料自給力の維持強化といった経済安全保障の面からの視点が必要であるが,一方国内財政面からみるならば,財政制約が厳しくなる中で,農業に対する財政支出の抑制が求められている。また消費者にとっては,農産物価格に対して国際的にみて割高感がある。

以上のような状況下において,農業の当面するかかる隘路を打開していくためには,農業構造の改善を推進し,その生産性を向上していくことが最大の課題である。

(農業の現状)

わが国の農業には,長期的にみて二つの問題がある。一つは,農産物需要の伸びが近年鈍化しつつあるなかで,米,果実,畜産等の主要農産物においては,生産過剰ないし需給緩和基調が続いていることである。供給過剰を解消するための基本的手段としては,供給の調整や価格の安定化を図って,需給バランスを確保していくことが最も適切である。現実に農業では,量的な面では,水田利用再編対策による転作の推進のほか,その他の農畜産物についても自主的生産調整が行われている。一方,価格の面では米の政府買入価格が53,54年には実質的に据え置かれ,55年にも前年比2.3%の引き上げにとどめられる等の措置がとられてきている。また豚肉や牛乳についでも,価格は50年以降年々の上下はあるものの,傾向としては横這い気味に推移している。このほか,畜産や施設園芸では輸入飼料原料や石油等への依存度が高くなっており,体質が外的ショックに影響されやすくなっているため,世界的な異常気象や石油危機に伴う資材価格の上昇等が農業所得に対しては抑制的影響を与えることとなった。

もう一つは,これまでの農業全体の生産性向上の大きな要因のひとつであった農業就業人口の減少(35~50年度平均で年率4.6%の減少)が他産業での雇用情勢の悪化を反映して,50年代前半には鈍化してきたことである(50~54年度平均で年率2.0%の減少)。このような就業者の減少の鈍化と生産の伸びの鈍化が重なって,農業全体の労働生産性の伸び率は,35~50年度平均の6.8%から,50~54年度平均の3.6%へと低下してきた( 第II-1-26表 )。

35~50年度にかけての農業の労働生産性の上昇は,着実な生産の増加と就業人口の減少,それを可能とした農業技術の向上や農業機械の普及等によるものであった。その後も,生産性上昇率が下ったとはいえ,35~54年度間で年率6.1%の伸びを示している。しかしながら,製造業との比較でみると,54年度の農業就業者1人当りの純生産額は,製造業の27.2%となっており,相対的な生産性はかなり低い。国際比較をしてみても,わが国の水準は決して高いものではない。ただし,作目別にみると,鶏卵やブロイラー等施設型農業では労働生産性はアメリカと比べても遜色のないレベルに達している。

こうした晨業の労働生産性の低さの背景にある基本的要因は,経営規模の拡大が進みにくい土地利用型農業の構造にあったと考えられる。経営耕地規模別の農家戸数をみると,0.5ha未満の零細なものは都府県で42.2%を占めるが,そのほとんどは第2種兼業農家である( 第II-1-27図 )。

高度成長期を通じて他産業での雇用機会が増えるとともに,一方で農業機械が普及し,それゆえ農業生産にあてる労働時間が短縮できるようになったことは急速に兼業化を可能とする条件を拡大した。また,地価の継続的上昇を背景に農地の資産的保有動機が強まったことも,これら小規模の階層を農業に引きとめる要因となった。これらに加え米の政府買入れ価格が農業所得への配慮から他の農産物に比べて高水準に維持され,収益性の面で有利であったこと等から,比較的小規模層は米作への特化傾向を強めた。こうした結果これらの階層でも農外所得への依存度の高い第2種兼業農家として農業経営を続けることが可能となった。こうした過程を経て,55年では第2種兼業農家は,総農家数の65%に達している。そしてその兼業的性格の内容をみると,他産業への恒常的勤務の割合が50年の61%から55年には67%へと増加するなど,兼業の深化が続いている。

もっとも,兼業の進行や深化がこうした農家の所得を高める役割を果たしたことは評価しなければならない。しかし,そのことは同時に,これら兼業農家では農外所得で家計費を十分賄えるものも増え,それに伴って,農業自体の生産性の向上等農業経営に対する意欲を薄め,さらに耕地や機械,施設の有効利用等の面でも問題を残すこととなった。

以上のような問題を専兼業別の差だけからとらえるのは必ずしも十分でないかも知れない。そこでさらに60歳未満の男子農業専従者のいる農家を農業生産の中核的な「担い手農家」として,その他の農家と比較してみると,労働生産性は,担い手農家ではその他の農家に比し,54年度で1.4倍で,しかもその生産性格差は逐年拡大する傾向にある( 第II-1-28図 )。とくに担い手農家の中でも青年男子労働力が中心となっているものでは,さらに生産性が高いという特徴がある。このような生産性格差の理由として,担い手農家では資本装備を高め,経営作目の転換や耕地の借入による規模拡大等によって生産性を高めているのに対して,その他の農家ではほとんど生産性の上昇はみられず,実質的には低下しているということが大きい。すなわち,担い手農家は55年で総農家数の22%を占めるにすぎないのにかかわらず,農業生産額では59%を占め,とくに施設型部門では養豚78%,施設野菜90%等,生産の中核を担っているのである。これに対し,米作においては,担い手農家の生産性は,その他農家の生産性の1.3倍であるにもかかわらず,生産額の比重は担い手農家が33%であり,生産の大部分が第2種兼業農家等の生産性の低い階層によって担われており,それが農業全体の生産性向上を妨げる要因となっている。

(高生産性農業への道)

わが国農業の現状,とくに以上でみたような土地利用型農業については,多くの問題点がある。しかし,改善のための条件も徐々ながら整備され進行しつつあるとみられる。第1に,土地利用型農業においては,生産性の向上のために経営耕地規模の拡大が必須の条件であるが,高水準の地価の下で農地の購入は困難化しつつあるものの,借地経営は農用地利用増進事業による利用権の設定を中心に近年増加しつつあることが指摘できる。とくに経営面積の大きな層ほど借入面積の増加率は高まっており,さらに農作業受託も増加し,2.0ha以上の上層農家での実質的な経営規模拡大が進行している。こうした動きの背景には,米価の上昇が鈍化するなかで,経営規模間の収益格差が拡大しているという要因がある。

もっとも,借り入れ面積は耕地面積の5.6%と現在ではまだ小さなものにすぎない。しかし,米の生産過剰基調やその実質価格の上昇が見込めない背景の下で,小規模層と大規模層との間の生産力格差の拡大傾向は,規模間の収益格差の一層の拡大,大規模耕作者の地代負担力の相対的強化をもたらし,それに農用地利用増進事業の活用等が相まって,農地の流動化の進行が期待される。

第2に,この傾向を支える条件がある。その一つは,兼業の深化に伴って,第2種兼業農家では,既に農外所得のみで十分生計を営みうる可能性が強まり,資産としての農地保有傾向等を別とすれば,不利な条件での農業経営を行う意欲の鈍化は避け難いと考えられることである。またもう一つとして,農業労働力の高齢化が急速に進行していることがあげられる。農業就業者を全体としてみると,60歳以上の者の割合は,50年の32%から55年の36%へと高まっている。兼業農家における労働力の高齢化は,担い手農家による借地経営等の拡大可能性につながるとみられる。

なお,兼業農家の労働力不足や技術不足を補い,農業機械等の資本の過剰投資を防ぎ,土地の有効利用を図っていくためには,農作業の受委託や,農業機械,施設の共同利用等の生産の組織化が有効である。生産の組織化は,専業的農家を核として,兼業農家との機能分担を進めることにより,兼業農家も農業にとどまることができるため,比較的現実的な方式といえる。

第3には,このような経営規模の拡大による生産性の向上のためには,人材の育成と農業技術の改善が不可欠である。

まず,新規学卒者の就農は減少しつつあるが,今後とも経営規模間の収益性格差が拡大する中で,競争原理が働くような環境を保ち,今後の農業技術の発展にも対応できる良質の人材が農業へ就業する誘因を作り出していくことが必要であろう。また,研修教育の充実,青年農業者の自主的な集団活動や研究活動等の組織化を通じて,農業に生きる人材に対し,農業の魅力を高め,育成していくことが何よりも重要ではなかろうか。

さらに農業技術面の課題としては,水田転作の定着化のための技術,生態系を重視した高度安定多収技術及び省エネルギー化等が必要であろう。

需要動向に弾力的対応を図り水田転作の定着化を図るためには,水田の汎用化を可能とする土地基盤整備を行うとともに品種改良,栽培技術体系の確立を図ることが重要である。これらにより土地の高度利用や単作による経営の不安定さからの脱却を行うことができる。

また,現在の農業は,耕種農業においては化学肥料の増投と堆きゅう肥の施用の減少により,地力の低下が指摘されており,畜産においては,糞尿の処理が大きな問題とされている。したがって,複合経営や地域複合等の地域の農業生産体系の整備を進めることにより,一方で有機質肥料による地力の回復を図り,他方で畜産公害を防ぐことが一つの方途として考えられる。

さらに,施設型農業においては,石油を中心とするエネルギー依存度を低めて,体質の強化を図る必要がある。このためには,現在進められている自然エネルギーの利用や耐低温品種の研究開発等の成果が期待される。