昭和55年

年次経済報告

先進国日本の試練と課題

昭和55年8月15日

経済企画庁


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第II部 経済発展への新しい課題

日本経済は,第二次大戦後大きく発展した。

いまわが国は,国土は全世界の面積のうち0.3%と狭いが,その国土の上に全世界の2.7%に当たる約1億2千万人の人間が住み,全世界の約10%のGNPを生み出している。国民1人当たり所得水準も,主要国首脳会議参加7か国のうち,アメリカ,西ドイツ,カナダ,フランスに次ぎ,イギリス,イタリアを上回る。しかもこうした国際的地位の向上は,これら主要国はもちろん,世界の多くの国との相互依存関係を深めつつ達成された。

振り返れば,戦後の経済発展には,いくつかの好条件が存在した。国際的には,平和,自由な経済交流そして資源の量と価格双方での安定的供給が存在した。また,国内でも,経済的には競争的市場,企業の高い投資意欲,国民の高い貯蓄率等の好ましい要因と,社会的には国民の勤勉性,高い知識水準,それに問題解決能力の高さ等の良き要因が存在した。

しかし,1970年代以降世界は政治・経済両面で激動期に入り,日本自身も巨大化,先進国化し,労働力構造の変化,大衆社会化が進行してきた。

今後の日本経済は,これらの変化に対応して新しい経済発展の道を求めていかねばならない。

しかしその場合,次の2つの認識が基本的に重要だと思われる。

第1は,欧米先進国へのキャッチングアップをほぼ達成した日本経済は,今後においては,一層自らの自主性と責任において課題解決に取り組まなければならないということである。日本経済が大きくなるに伴い,わが国に対し国際的役割を求める声は強まっている。国際環境はわが国にとって「与件」でなく「働きかけねばならない。より正確には働きかけを求められている条件」となった。

第2は,経済発展が安全保障にもつながるということである。国際経済社会の動揺に伴い,わが国の安全保障の重要性が一層増大しつつある。しかし,基本的に重要なことは,わが国の経済社会が,国民はもちろん,海外の人々からも評価されることである。

国民生活は経済の繁栄によって支えられる。したがって繁栄する経済であってこそ,国民はそれを大切にする。また,繁栄する経済であってこそ,発展途上国の人々の生活向上に協力もでき,世界経済基盤の充実に対して役割を果たすことができる。

以上の基本認識に立ちつつ,これからのわが国の経済発展のための新しい課題として,次の諸点があげられよう。

第1は,国際環境変化に関する対応である。なかでも「石油制約への対応」,「国際経済摩擦への対応」は極めて重要な課題といえよう。

第2は,経済発展の原動力である民間経済の活力を生かすことである。とりわけ,先進国化したわが国は「技術の進歩」,「国民の高い貯蓄率」を生かさねばならない。

第3は経済社会変化への対応である。

特に「労働力構造」の面では,高齢化,高学歴化,女性の職場進出が進んでおり,日本的雇用慣行の見直しが必要となっている。

また,財政の健全化は重要な課題である。民間の活力を維持し,財政の健全化を図るためにも公共部門の効率化を進めなければならない。さらに,大衆社会化の進行に対応して「問題解決能力のある経済社会の形成」も重要である。

しかし,すべての課題に共通して重要なことは,日本経済の現状をよく認識することである。特に,国際的相互依存の深まった今日では,一国の国内問題は同時に他国の国内問題と深くつながる。自国の国際的地位の認識なしに,国際的役割は自覚できず,また国内問題の解決も期しがたい。

第II部ではこうした観点からまず日本経済の国際的地位に関する認識を糸口としつつ,以上の課題をめぐって経済の実状がいかなる状況にあるかを検討したい。


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