昭和54年

年次経済報告

すぐれた適応力と新たな出発

昭和54年8月10日

経済企画庁


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第2部 活力ある安定した発展をめざして

第3章 雇用安定への課題

第4節 雇用安定確保の方途

50年以降景気回復過程のなかで,所定外労働時間の増加や有効求人倍率の上昇といった雇用の先駆的な指標は改善をみせ始めていた。そして,53年度後半からは失業率の低下という本格的改善の動きも始まった。しかし,有効求人倍率の水準はなお低く失業率もなお高く,さらに企業の慎重な雇用態度とあいまって,雇用情勢の改善は急テンポには進みそうもない。経済政策の重要な目標である完全雇用の確保は依然として楽観を許さない状況にある。

雇用の安定のためには,第1に,総需要の拡大がある。企業の雇用態度も期待成長率に強く規定されるとみられるので安定的な成長軌道の維持は重要な課題である。しかし,中高年齢層の有効求人倍率が極めて低く,これを1に近づけるほど成長率を高めることは不可能に近いし,仮にそのような成長を試みるとすれば若年層の労働力不足が生じ,初任給→賃金一般の上昇→インフレにつながる可能性を生む。従って,経済成長が雇用確保のための前提であることは当然であるが,これだけで雇用問題の解決を求めるのは無理である。しかも,石油の供給制約が予見されるようになり経済成長率を高めることに対する制約が生じてきている。

そこで,その他の手段が必要になる。すなわち,第2は,労働時間の短縮である。一定の仕事量をより多い人数で分けあわなければならない。そのためには,週休二日制の普及を含む所定内労働時間の短縮が必要であるし,夏季の長期休暇の一般化や所定外労働時間の抑制ということも考える余地があろう。なお,労働時間短縮には賃金コストを上昇させない形のものとしてすすめることも重要である。

第3は,定年制の延長である。中高年齢層はいったん離職すると再就職は容易でない。そして,長らく就業していたことによって得た職業能力を離職によって失うことは個人的にも社会的にも大きな損失である。求職活動や,新たな職場への適応過程などはコストとみざるを得ないからである。まず失業を出さないようにする必要がある。定年制の延長はこれに対する一つの方途であろうが,その際にも,賃金面の伸縮性がなければ現実性がないのであって,年功的な賃金体系のみなおしが必要になってくる。

第4は,雇用吸収が期待される分野の第三次産業の発展を助長するとともにそこへの就業を容易ならしめる職業情報,資格制度,教育訓練の整備,充実である。

第5は,その時々の雇用,失業情勢に応じて,機動的な雇用,失業対策を行うことである。今回の石油危機後の雇用情勢深刻化の過程で,雇用調整給付金や中高年齢者雇用開発給付金制度などが設けられた。これらは,特定の条件を満たす業種や企業,労働者について適用される機動的選択的な政策であり,個人的にも社会的にも有効なものであったと考えられる。

第6は,65歳以上といった高齢者がもし欲するならば職業から引退できるような条件を整備することで,年金制度の充実など所得の確保と社会奉仕活動への従事など社会参加の道を開くことである。

以上のような諸方策により,減速経済の下で失業という大きな社会的損失を招かないような社会が連帯的に対処していく必要がある。


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