昭和54年

年次経済報告

すぐれた適応力と新たな出発

昭和54年8月10日

経済企画庁


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第2部 活力ある安定した発展をめざして

第3章 雇用安定への課題

第2節 雇用情勢の評価

以上のような諸要因によってもたらされた石油危機後の雇用動向はどのように評価されるのだろうか。

1. 緩やかになった賃金上昇

(緩やかになった賃金上昇)

54年の春季賃上げ率は6.0%と53年の5.9%とほとんど変わらない結果となった(労働省調べ,民間主要企業)。

日本の賃上げの主要要因の第1は労働需給である。48年度の有効求人倍率は1.74倍と極めて高かったが,53年度は0.59倍と1をかなり下回る労働供給過剰状態にある。それが48年の20.1%という大幅賃上げから最近の5~6%賃上げへのアップ率の低下の主因になった( 第II-3-12図 )。なお,49年には賃上げ率が32.9%とさらに高くなっていたが,これは二桁インフレによる物価要因があったわけで,最近の消費者物価の落着きも賃上げ率を低くする要因になっている。これが第2の要因である。

こうして賃金コストが低下し,それが物価安定に寄与するとともに企業収益改善の一因にもなった。しかし,名目賃金の上昇率の低下は物価安定によって労働者の実質的生活水準の向上度を引下げることにはならなかった。すなわち,53年度の現金給与総額の前年度比上昇率は5.9%で52年度の8.1%より下がったが,実質賃金は2.4%上昇し,52年度の1.3%より高い伸びとなった。

(賃金格差は安定)

54年の春季賃上げの分散係数((第3・四分位数-第1・四分位数)/2×中位数)は0.10と前年の0.20より縮小した。この0.1という値は51年と同じであり,42~49年度は0.1を切っていたことからみると大きいが,41年以前は0.1以上であった。労働需給の緩和期にはこのような格差指標は拡大する場合もあるが,54年において労働需給がなお緩和しているにもかかわらずこれが縮小したのは,業種間の経営格差が縮まったこと,高業績産業が一般の環境が厳しいなかでの将来の見通し難もあって比較的穏やかな賃上げにとどまったことなどによろう。

規模別賃金格差も最近とくに拡大したとみられない( 第II-3-13表 )。48年ごろと比較すると53年は拡大しているが,これは大企業で年齢構成が高くなり,中小企業で若くなるとともに女子の増加がみられるなど,労働者構成の差によるもので,個々の労働者の賃金率格差が拡大したわけではない。

これは,石油危機後労働分配率がかなり高まっており(国民所得統計,雇用者所得比率)でみると,47年57.8%,52年67.8%),一般的に労働需給が緩んでいるなかで,好業績企業でも人件費に対して厳しい態度で臨んでいるためとみられわる。

2. 雇用の安定性の評価

石油危機後,あるいは50年以降の雇用の特徴は製造業で減り,第三次産業で増え,女子,臨時・日雇,自営業主,家族従業者,中小企業といったところで増えている点にある。これらは,一見「不安定」あるいは「不完全」就業的なものが増えているようにみえる。はたして実体もそうかどうかを検討してみよう。なお,第三次産業の雇用の問題は節を改めて検討する。

(1) 労働力の層による需給の不適合

雇用動向の流れのなかに労働力の層による需給の不適合という大きな特徴があり,それが全体として労働需給が緩んでいるなかで一面では現在の厳しい雇用情勢を生みだしているが,他面ではある層の雇用は増加するという現象もみられている。

「層による不適合」という際の「層」の例としては,雇用形態別(常用雇用とパート・臨時・日雇の別)と,中高年と若年の別とがあげられる。

すなわち,製造業男子,ことにその中高年齢層が雇用調整によって離職すると,他企業で再雇用する需要が十分にないために相当部分が失業状態になり,あるいはあきらめて非労働力化するという現象が生じている。かといって労働需要の増加がないかというと実はかなりの増加があるのであり,それは調整コストの低い女子中心のパートタイマーや臨時・日雇に向かっていて,そういう層の雇用は相当の増加をみている。しかし,これらの層も不足状態が現出しているというほどではない。さらに,若年層についは,製造業で新規採用を抑制しているといっても相対的には多く雇用されており,第三次産業も雇用しているので男子を含めて不足状態にある。前掲 第II-3-8表 でみたように,53年においても19歳以下の層の有効求人倍率は2倍以上である。

(2) 女子の雇用増

(企業の女子雇用選好度高まる)

50年以降の女子就業者の増加は著しいが,これを,①元来女子を雇っていた産業の雇用が増えたものと(産業構造要因),②同一産業で従来以上に女子の比率を高めたもの(女子比率要因)に分けてみると 第II-3-14表① のようになる。すなわち,50年から53年の間に女子就業者は130万人増えたが,うち約70万人は産業構造要因であり,約60万人は女子比率要因であり,後者が相当に高いことが注目される。これは,従来男子を雇用していた部分に女子をつけるという傾向がでてきているという意味にもなり,調整コストの高い雇用に慎重という企業の態度が現われたものと考えられる。その背景には,単に男子のあとに女子をもってくるということではなく,女子に労働可能なような技術的変更を伴ったであろう。

産業別にみると,女子比率要因が圧倒的に高いのが製造業である。

同じ考えを職業に適用してみると( 同図② ),女子比率要因が高いのは技能工・生産工程従事者や事務職である。

(「仕事が従な者」の増加)

以上のように,女子の職場進出はこのところ目覚ましいものがあるが,その内容はどのようなものであろうか。

就業構造基本調査(以下「就調」という)によれば,49年から52年の間に女子有業者は128万人増えているが,そのうち102万人は「仕事が従な者」である。すなわち,労働供給者の意識として職業が中心にはなっていないものが圧倒的に多い。このことは,前述の有配偶女子の労働供給増の事情と対応している。とくに製造業では,「仕事が主な者」は15万人の減少に対して,「従な者」が33万人の増で全体として18万人の増となっている。50年以降の製造業の女子就業者の増加は,このような性格のものであり,企業側の調整コストの低い労働力を雇用したいという需要とマッチしていたように考えられる。また,同調査で,女子自営業主は11万人増えているが,農業で10万人減っているので非農業では21万人増えたことになる。そのうち,製造業の増加10万人(すべて内職者の増加),サービス業で7万人の増加,卸・小売業で4万人とそれぞれ増加しておりそのほとんどが「仕事が従な者」である。雇用者についてみると,84万人の増のうち31万人が「仕事が主な者」であって,53万人が「従な者」となっている。

第II-3-15図 女子短時間雇用の動向(非農林業)

第II-3-16図 世帯主の定期給与五分位段階別妻の収入

かくして,女子雇用者の増加のうち短時間従業者の増加が目立っている( 第II-3-15図 )。

そこで,このような特徴をもつ女子の雇用増が生活の困窮状態から家計補助の必要に迫られているかどうかという点が関心を呼ぶが,これを時系的に検討することは難しい。

いま,52,53年の世帯主の定期収入階層別に妻の収入をみると( 第II-3-16図 ),第2五分位,第3五分位で妻の収入がこのところ相対的に増えていることがわかる。他方,最も所得の低い第1五分位では目立って妻の収入が増えている(就業が増えている)とはみられず,必らずしも家計の逼迫から女子の就業が増加しているのではないようである。このことは有配偶の女子の失業率が低いこと(前述)からもいえよう。もっとも失業者ではない(求職をする程ではない)が就業を希望する者は増えている。従って近年の住宅需要のすそ野の拡がりなどを背景とする契約貯蓄率の上昇や教育費用の上昇などをまかなうための家計補助の必要性は高まりをみているであろう。

こうしてみると,50年頃からみられるパート,あるいは自営業といった形を含む女子の就業増は,形態的には臨時的,不安定的雇用の増大のようにみえるが,実体的には労働需要側,供給側双方の意図がマッチした結果であるという面が多いと考えられる。ただ,女子の失業者数の推移をみると,「かたわらにする仕事を希望」する者は50年以降ほとんど変わっていないが,「主にする仕事を希望」する者の増加が目立つ( 第II-3-17図 )。これは,女子の就業意識等が変化していることもあるが,企業が女子に対してもフルタイムの恒常的勤務者を好まないという態度が現われているとみられ,いったん雇用調整された女子の再就職が容易でないことを示している。従って,女子の就業についても楽観を許さない面がある。

(3) 男子自営業主の滞留

50年度から53年度まで非農林業の自営業主は48万人増えたが,うち女子は21万人であり,製造業男子はほとんど不変であるので,非農林業男子自営業主の増加は大部分非製造業ということになる。

第II-3-18表 非農林業・自営業主,家族従業者の推移

その流動状況を就調によってみると( 第II-3-18表 ),49年と52年の間に入職超過数は大差はないが,転入も離職も減り,新規入職のみが増えるという形になってきている。これは,後継ぎ(新規入職)は入ってくるが,他の就業形態からの流入は減り,法人成りや雇用者への転出も減るということで,流動性が低下してきているといえる。

いわゆる脱サラなどにより,小回りのきく経営形態でアイデアを生かして高収益をあげ得るということもあるし,あるいは医療などのような高度の専門サービスを個人営業形態で行うという意味で,自営業の増加に積極性を認めることもできる。事実,就調によれば,男子自営業主の増加が大きい卸売・小売業で(49~52年で15万人,9.5%増),雇用者との相対所得が若干改善し(49年の1.31倍から1.32倍へ),サービス業(10万人,13.6%増)はより大きい改善をみている(1.54倍から1.59倍へ)。

しかし,そうはいっても所得の改善の程度はわずかであるし,上のような流動状況からは,他に行き場所もなく,滞留しているケースもあるであろうことがうかがわれ,総体としての男子自営業主の動向には楽観をゆるさない面がある。

(4) 農業就業人口の減少止まる

このような雇用の流動状況から問題の深刻性が際立っているのは農業である。

「労働力調査」による農業就業者は年々数%の減少を示してきたが,石油危機後減少のテンポは逓減し,52年度は0.3%減ののち,53年度は逆に0.2%増加した。これを年齢別にみると青壮年層は減少率は鈍っているものの依然として減少傾向にあるのに対して,50歳以上の高年齢層は増加傾向にあり,これが全体の動きに大きく寄与している。また季節的には冬期間の農業の就業者が増加傾向にあり,これも出稼ぎ数の減少と相まって他産業における労働需要減の影響を強く受けたことを示している。

(5) 転職希望率の上昇

男子自営業主も農業就業者も移動が少なくなったことを指摘したが,雇用者についても近時異動率が顕著に下がっている( 第II-3-19図 )。これは,それぞれにおいて新規入職が減っているということもあるが,定年や解雇等の会社都合のような場合でなく,労働条件に不満で自己都合で離職するケースが減っていることが大きい。それは,労働需給が緩んでいるために,自己都合でやめても再就職が困難なことがわかっているためである。いわば,職業移動が少なく,流動性の低い社会になりつつあるともいえる。そして,賃金や所得格差もとくに変動はしていない。

しかし,現在の労働条件に満足しているかというとそうでもない層が増えている。転職希望率の上昇がそれである( 第II-3-20図 )。この傾向は雇用者だけでなく自営業層にもみられる。

以上,雇用変動の不安定にみえる部分を扱ってきたがそれ以外の側面もある。日本経済は石油危機後それまでの重化学工業中心型と異なって第三次産業や中小企業も独立的に発展するパターンも現われてきた。それらに関連する雇用増加はある程度着実なものといえよう。また不安定にみえる女子の雇用増も実は失業増に直接結びつく程の所得増加欲求からではなさそうなことも既にみてきた。しかし,転職希望率の上昇や非求職の就業希望者の増加に示される雇用変動の方向は,今後,留意していくべき問題である。

3. 失業の増加

(失業増加の内容)

48年度から53年度のまでの失業の推移をみると( 第II-3-21表 ),失業総数は68万人から122万人に54万人増加したが,50年度までの増加が大きく,その後はテンポが落ちたが引続き増えている。男子は35万人,女子は19万人の増で男子の方が深刻である。男子について年齢別にみると,25歳以上の層でかなりの増加を示しているが,増加率という点では40歳以上のいわゆる中高年齢層が2倍以上で大きい。これらの層では51年度以降もある程度の増加が続いているという点でも問題である。男子の世帯の地位別には世帯主の増加が犬きく,これも51年度以降もさして増勢が衰えていない。女子の51年度以降の増加は主として「主にする仕事を希望」する者である。男女共通して51年度以降は調整コストの大きいものが失業として現われていることがわかる。

失業の期間も著しく長期化している( 第II-3-22表 )。47年当時と比較して,1か月未満の求職期間の者の数は変化ないが,増加分はすべて1か月以上であり,増加率からいうと期間の長いものほど高く,1年以上の者は2.4倍に達している。男女別には男子の長期化が目立つ。

(失業増加の要因)

失業増加の要因を求職理由によってみると( 第II-3-23表 ),男子の場合,53年では離職によるものが全体の7割を占め,そのうち広義の会社都合によるもの(「人員整理,会社倒産」,「事業不振,先行き不安」,「その他勤め先,事業の都合],「定年等」の合計)が40万人で49年の11万人から激増しているこどがわかる。すなわち,男子の場合は自己都合でない離職によって失業が増えている。女子については,離職は49年より減っており,「収入を得る必要」という労働供給主体の意識によるものが53年で15万人いることが目立つ。しかし,広義の会社都合によるものが49年の4万人から53年は8万人と増加率では倍増していることも注目される。

次に,48年から53年までの失業の増加を供給側と需要側の要因にわけてみよう。いま,労働供給が増加し,労働需要も同じだけ増加したとすると失業は不変である。43年から48年はほぼこうした状態にあった。従って48~53年で労働供給,需要とも直前の5年間と同じ速度で増加すれば失業増はほぼゼロのはずである。しかるに供給増が加速し,需要が減速したとすれば失業は増加する。こうした「加速」や「減速」に注目して「失業増」の要因分解をしよう。すなわち,48~53年の増加を43~48年の増加と比較し,供給側での加速は失業増要因,需要側での加速は失業減要因とするものである( 第II-3-24表 )。

まず男子について労働供給面をみると,43~48年の間に労働力人口が197万人増えたのに対し,48~53年の間には127万人しか増えておらず,70万人の失業減少要因であった。これは15~24歳層を中心とする労働力率の低下による部分の95万人減に依存するところが大きい。人口の方は25~54歳層を中心に20万人の増加要因になっている。65歳以上も増加に寄与している。他方,需要面は,製造業での155万人の失業増と農林業での105万人の失業減が目立ち,全体で102万人の失業増となる。卸・小売業も若干の失業減に寄与している。かくして,差引き約30万人の失業増となった。

女子については,労働供給面において,25~39歳層の労働力率上昇を主因に47万人の失業増加要因が生じた。需要面では産業別には男子とほぼ同じ傾向であるが,製造業の失業増加要因が男子より少なく,サービス業が失業減少要因として加わり,全体で30万人の失業減となり,供給と差引きして約20万人の失業増加要因が生じた。

このような需給両面にわたる特徴は既に述べてきた雇用動向の特徴や要因が集約して現われたものといえる。すなわち,①女子の既婚者の労働力化,②製造業の雇用減,③第三次産業の雇用増,④農林業における流出の減少がそれである。

(離職後の状況)

男子中高年齢者の失業が増えていることがとくに注目され,失業の長期化もみられるところであるので,男子労働者の離職後の状況をみてみよう。

失業期間の長期化は,労働需要が少ないことが原因しているが,再就職の際の賃金が低いことも一因になっている。 第II-3-25図 は,離職前の賃金と,中途採用者の賃金を製造業の男子中卒生産労働者について年齢別にモデル化して示したものである。すなわち,離職前の賃金が高く,再就職賃金に相当する中途採用者賃金はそれよりかなり低いところにある。とくにその差は40歳以上の中高年齢層で大きい。

このような点から賃金の面からみた需給の不適合もうかがえる。また,長崎公共職業安定所の調査によれば,離職後約1年以上経過した時点で,失業者は3分の1が就職し,3分の1が求職中で,3分の1が労働市場から引退している。これは造船不況をまともにかぶった企業城下町的な場所での例であるから一般化するには問題があるが,注目されるのはかなりの引退者があることであり,それは60歳以上の高齢層にみられる。

(失業の現状)

53年度の完全失業者数122万人というのは終戦直後の一時期を除けば戦後最高水準であり,失業率2.2%も高度成長過程に入ってからはかつてない高さである。女子の「仕事を従とする者」の労働力化が進んでいること,労働異動率の高い第三次産業(前掲 第II-3-19図 )のウエイトが高まっていること,あるいはそもそも景気変動の影響を受けやすい雇用者のウエイトが高まっていることなどは,いわば摩擦的失業を増やし,失業率の底を若干上げることになっているかもしれない(「かたわらにする仕事を希望」する女子の失業者は50年以降は安定しているが,それ以前よりは一段と水準が高まっている。前掲 第II-3-17図 )。しかし,石油危機後の過程で増加した失業の多くは,男子中高年齢層であり,世帯主であり,「主にする仕事を希望」する女子であって,現在の失業情勢が厳しいものであることは否定すべくもない。

4. 最近における雇用改善の動き

ところで,雇用情勢を示す各種の指標は,52年を中心にかなりの悪化を一時みたものの,50年以降を通観してみれげ徐々に改善の動きをみせてきた。ことに,非農林非製造業は既に雇用増に転じていたのであるが,53年に入って製造業の新規求人も増え始め,次第に増勢を強めており,また男子常用の求人数も上昇してきている( 第II-3-26図 )。それはまた製造業の規模30人以上の事業所の常用雇用を増やすところまではいっていないが,減少テンポは52年10~12月期の前期比0.8%(季節調整値)から漸減し,53年10~12月期と54年1~3月期は0.4%になっている。改善の遅れていた失業率も53年7~9月期の2.33%(季節凋整値)をピークに下がり始め,54年1~3月期は2.01%になっている。また,それまで増加していた有効求職者が53年10~12月期以降減少し始め,45歳以上でも減少の気配がみえることは注目される( 第II-3-27図 )。

その後失業の追加要因である新規求職者数や雇用保険初回受給者が減り始め,これまで労働需給緩和の主因であった製造業で求人が増え始め,また一般に男子常用雇用の求人が増えてきているとすれば,基調的に失茉率は徐々に改善の方向に入ったとみられる。

このように,53年度後半からそれまでとやや性格を異にする雇用改善の動きがみられ始めたのはどうしてであろうか。

それは,前節第2項でみたような製造業の雇用調整が最終局面に入ったためと考えられる。もちろん,かなり早くから製造業の所定外労働時間は増え始めていたとはいえ,まだその水準は過去の不況期である40年や47年当時よりも低い( 第II-3-28図 ,生産の変動に直接関係するものとして男子生産労働者に注目)。従って,生産増に対してはなお労働時間増で対応する余地がある。ただし,54年1~3月期の所定外労働時間は繊維,衣服,家具,電気機械などの諸産業においては48年4~6月期の水準をこえているので,産業によっては雇用増の必要がみられ始めているものもある。また,企業の期待成長率が下方屈折しているので,仮に雇用調整が終ったとしてもかってのように積極的に男子常用雇用を増やし始めることは期待できない。

従って,雇用改善が急テンポで進むとは考えられないが,着実な経済拡大が今後も続くとすれば,これまでの製造業におけるマイナス部分が減るかなくなるだけでも,全体としての雇用情勢が徐々に明るくなっていくことは期待できよう。