昭和54年
年次経済報告
すぐれた適応力と新たな出発
昭和54年8月10日
経済企画庁
昭和53年度の日本経済は,成長率が5.5%と3年続きの5%台にとどまったが,その中味は,石油危機後5年目にして初めて内需主導型となり,年度後半には民需による自律回復がようやく始まりかけたという意味で力強さを感じさせるものとなった。企業収益も顕著な改善をみせ,業種間の跛行性もかなりの程度縮小し,自律回復の主体的条件も整いつつあるようにみえる。こうした中で,年度後半には遅れていた雇用情勢にも改善の動きがみられるようになった。
大幅な黒字が続いていた経常収支も年度後半には目立って減少し,54年3月以降は赤字(季節調整値)にすらなっている。物価情勢も,年度全体としてみれば,卸売物価,消費者物価とも戦後稀にみる安定した状況となった。
以上のように,53年度の日本経済は内外ともにほぼ均衡がもたらされた姿になっており,その程度はともかくとしてここまで良好なパーフォーマンスを示してきたことは多くの人の予想をこえるものであったといえよう。
このような状況は,日本経済が石油危機前後の戦後最大の内外経済環境激変に対する適応をほぼ終えたことを示している。しかし,それは日本経済にとって解決を要する問題がなくなったことを意味するものでは勿論ない。おそらく,われわれは新しい発展の出発点に立っているのであろう。その時点における雇用情勢は,改善の動きがみられ始めているとはいえなお厳しい。石油危機後の調整過程を経た経済の自律回復力の確からしさ,経済循環のパーフォーマンスの良好さなどについてはなお定かでない。さらに,国際的な調和を保ちつつバランスのとれた国民生活の充実を図っていく要請もある。要するに,多くの重要な課題と未知なるものを前方に控えた出発点である。
そうしたところへ,54年に入って,イラン革命を契機とする石油供給の不安定性と価格の急騰という事態が生じた。これは我が国経済の新しい成長軌道に対して,短期的,長期的両側面から,複雑かつ強力な影響を及ぼそうとしているかにみえる。
本報告は,このような多面的な意味を持つ昭和53年度経済の分析を通じて今後の成長軌道の諸問題をさぐることを目的とするものである。第1部は,主として短期的視点から,経済の推移と特徴を明らかにし,芽生え始めた自律回復力の確からしさを検討するとともに,マクロ的なバランス指標として重要な国際収支,物価の諸問題を取扱う。第2部は,やや長期的視点から日本経済にとって重要と考えられる問題として,第1に,ダイナミックな経済活動を支える重要な主体としての企業行動を,第2に,日本経済の構造的脆弱性を克服するために重要な分野として技術革新及びエネルギー問題と低生産性部門を,最後に,減速経済の下でその安定確保が重要な課題となっている雇用をとりあげる。