昭和52年

年次経済報告

安定成長への適応を進める日本経済

昭和52年8月9日

経済企画庁


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13. 地域経済

(1) 鈍い各地の生産回復

全国を9地域に分け,46年不況及び今回の不況とその後の回復過程における鉱工業生産の動をみると,今回の不況は前回に比べて,はるかに激しい落込みを示している点が目立つ,前年同期比で前回はほとんどマイナスとならなかった生産活動は,今回は各地域とも大幅なマイナスを記録した( 第13-1図 )。

第13-1図 地域別鉱工業生産の推移(前年同期比)

今回の不況過程における生産の落込みと,その後の回復過程の動きをみると,北海道,東北,関東東海,近畿などの6地域では48年10~12月をピークに,またそれらを除く,西日本の四国,中国,九州では,やや遅れて49年1~3月をピークに,いずれもほぼ1年にわたって生産は急速度に低下した。このうちピークからの落込み幅が大きかったのは,大工業地帯のある東海(ピーク比25.1%減),関東(同23.2%減),九州(同22.4%減),近畿(同22.2%減)などであり,いずれも全国平均(同19.7%減)を上回る低下を示した。これに対して北海道(同15.4%),東北(同18.1%減),四国(同16.0%減)などでは,その落込みは相対的に小幅であった。

このように今回の不況のなかで低下した各地域の生産活動は,いずれも50年1~3月を底に上昇に転じ,その後2年にわたって回復の過程を歩み続みてきた。しかしながら四国,九州を除いて景気後退前のピーク時の水準に到達せず,52年4~6月現在において,中国(ピーク比10.1%減),北海道(同6.9%減),東海,近畿(いずれも同5.8%減)などでは,ピーク時に比べて,いぜん低い水準にとどまっている( 第13-2図 )。

第13-2図 ピーク時を基準とした鉱工業生産の推移(季節調整値)

こうした今回の不況とその後の回復過程における生産活動の中から,いくつかの特徳点をあげると次の諸点が指摘できよう。

第1は各地域とも急速に生産が低下したあと,その回復率が極めて鈍かったという共通点がみられたこと,第2は関東,北陸,九州などでは,ボトムからの上昇は比較的緩やかであるが,着実な回復過程を歩み続けていること,第3はこれに対して東北,東海,近畿では51年半ば以降生産は横ばい状態を示し続けていること,また第4は,こうしたなかで,北海道,中国などでは,51年度後半に入って生産が再び低下傾向をみせたことである。

このような地域間の生産の差異は,当然のことながらそこに存在する業種,企業の動向に左右される。今回の回復過程で,自動車・同部品,弱電・同部品,精密機械(カメラ,時計)など,輸出に支えられたそれら業種や,根強い内需に支えられている食料品などの生産増加が目立った。これとは対照的に繊維,紙・同加工品,木材・同製品,皮革製品などの軽工業や,鉄鋼,非鉄などの素材産業などではその回復力が弱く,なかには51年下期に入って実需の不振から再び減産を強化するものもあった。

51年度後半に入って生産が横ばい転じた東海,近畿などの地域では,こうした業種間の明暗が相互に打消しあい,全体として中だるみ感がみられた。また年度下期に生産の低下した北海道,中国では,それぞれ鉄鋼,紙パルプの落込みや,造船,一般機械の不振がかなり影響した。

第13-3表 地域別労働力需給の推移

(2) 労働力需給の緩和続く

このような緩やかな生産の回復の中で労働力要需の回復がさらに遅れを示しているのが,今回の景気回復局面のひとつの特徴であり,この点についてはすでに本報告第I部第2章でみたとうりである。

労働力需給を示す有効求人倍率は,全国平均で48年10~12月の2.05倍から50年1~3月(景気の谷)には0.63倍にまで低下したが,さらに51年1~3月には0.55倍へと下がっていいる。その後51年春から年末にかけて0.6倍台へと若干持ち直したものの52年1~3月には再び0.54倍へと下がり最近年では最も低い水準を記録した( 第13-3表 )。この有効求人倍率を地域別にみると,地域間にかなりの差がみられた。たとえば48年10~12月においては,東海(4.83倍),関東(3.40倍),近畿(3.00倍)などではなかり高く,逆に北海道(0.40倍),九州(0.80倍)などでは極端に低いという特徴がみれた。景気回復局面の52年1~3月においても,こうした地域別有効求人倍率には差があるが,注視されるのは,わずかに東海地域の同倍率が1.05倍と1を超えている以外は,いずれも1を大きく割っている。とくに関東(0.81倍),近畿(0.46倍)など,かつて全国的にみて高い有効求人倍率を示した地域において同倍率が著しく低下している。もっとも51年春以降これら東海,関東,近畿などの三大地域では求人数はわずかではあるが増加傾向をみせ,このためそれら地域の有効求人倍率は若干ではあるが高まったがかつてのような高率な倍率に比べてほど遠い状態にある。ウニイトの高いこれら三大地域の低い求人倍率が全国平均の有効求人倍率をいぜん低い状態のままにとどめさせている。

(3) 消費および物価の落着き

地域別の個人消費の動きを総理府統計局調べ「家計調査報告」(全国,全世帯)でみると, 第13-4図 に示すように,51年度の地域別消費支出は北陸,東海,近海近畿,四国では年央以降やや伸びを高めたが,これとは逆に北海道,東北,関東,中国,九州では伸び悩んだ。前者では鉱工業生産の回復が比較的早い東海,近畿などでは勤労者世帯の収入の回復と,業主を含む一般世帯の収入が堅調な動きを示したことが影響した。また後者では東日本の冷害,西日本の風水害などや農外所得の減少などから農家世帯の収入減が,それら地域の消費動向に影響をおよぼした。

第13-4図 地域別消費支出,百貨店販売額の推移(前年同期比)

こうした家計消費支出の動きに対して,他方百貨店販売額の地域別動向をみてみると,同じく 第13-4図 に示すように,かつては百貨店販売額の変化は家計消費支出の変化に比べると,先行的に,しかもかなり高い伸びを示し続けてきた。百貨店販売額は売場面積の動きや競合するスーパー・ストア,専門店などの動きにも関係するが,51年度においては東海,四国などの一部を除いて家計消費支出の変化とかなり同じような動きを示し,家計消費支出の増勢鈍化がそのまま百貨店販売額の伸び率鈍化に反映している。

一方,地域別消費者物価指数の動きをみると, 第13-5図 に示すように,48,49年に急騰した消費者物価は,その後,各地域とし急速度に鈍化した。51年において東北,中国などでは年央以降騰勢をやや強めたが,総じてみれば,各地域の消費者物価は高水準ながらも騰勢は鈍化の方向をたどった。

第13-5図 地域別消費者物価の推移(前年同期比)

(4) 設備投資の低迷と住宅着工の回復

緩やかな景気回復と低い稼動率のもとで民間設備投資は49年,50年に引続いて51年度も低迷状態を続けた。民間設備投資の地域別動向を,日銀調べ「企業短期経済観測調査」(全国)でみると 第13-6表 に示すように前年度比プラスとなったのは49年度においては中国の製造業,近畿の非製造業,50年度においては,北海道の製造業,中国の製造業,非製造業および四国の非製造業であり,それ以外はいずれも前年度と下回った。ついで51年度に増加となったのは東北の製造業,関東,北陸,中部の各製造業・非製造業と九州の非製造業であった。51年度において増加を示した関東,北陸,中部などでも52年度計画では再び減少に転ずるなど,各地域の設備投資は低迷を続けている。

第13-6表 地域別民間設備投資動向(前年度比増減率)

こうした設備投資の不振は,鉱工業部門の建築着工の動きにもみられる( 第13-7図 )。東北,北陸をはじめ各地域とも今回の不況のなかでその落込みは著しいが,比較的比重の大きい関東地域では51年々間を通じて鉱工業部門の着工が前年同期比を引続き下回ったのが目立った。

他方こうした鉱工業部門の着工の動きに対して住宅着工は,今回の景気回復局面でかなり先行的な動きを示した。しかもその落込み幅は北海道,近畿などを除いて比較的小幅であった。

第13-7図 地域別建築着工の推移(前年同期比)

最近年における全国の人口移動数および同移動率(総人口に対する自府県内移動数と他府県からの転入数の合計)をみると,49年以降,絶対数,移動率は急速度に低下している( 第13-8表 )。人口移動の面でも日本経済がいまや高速成長から安定成長への移行期に入ったことがうかがえるが,各地域の住宅建設の回復には,こうした人口移動の面よりも,すでに本報告にみたように所得水準の向上にともなう質的側面が強く働き,それに加えて金融緩和を反映した民間住宅ローンあるいは住宅金融公庫を中心とする公的資金の貸付け増加や建設資材価格の安定化などが,当該地域の住宅投資の復調をうながしているものとみられる。

50年および51年の地域別新設住宅着工戸数の特徴をみると, 第13-9表 のごとく,総戸数の前年比伸び率は50年の3.1%増から51年には12.4%増と伸びを高めたが,51年において伸びの大きかったのは,四国,北海道,近畿,中国,関東などであった。各地域とも貸家,分譲住宅の伸び率が高く,資金別には,民間資金によるものが高いが,住宅金融公庫融資住宅は,近畿,四国,中国などが高い伸びを示した。

第13-8表 人口移動率の推移

(5) 跛行性をみせる各地域の景気回復

以上,鉱工業生産,労働力需給,個人消費,設備投資,住宅などの動きを51年度を中心について地域別にみてきたが,地域景気動向指数によって最近年の景気動向をみると 第13-9表 のようになっている。今回の景気循環局面において,東海,中国が,相対的に早く景気の山をむかえている。景気の山から谷の期間は近畿,九州などではかなり短かく,北海道,東海,中国などでは景気後退期間は,相対的にみてやや長かった。その後の景気上昇期において,各地域の景気回復は,かなりジグザグの動きを示した。

第13-9表 地域別新設住宅着工戸数

第13-10図 地域別景気動向指数の動き


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