昭和52年
年次経済報告
安定成長への適応を進める日本経済
昭和52年8月9日
経済企画庁
51年度の農業生産は,畜産生産が前年度に比べ4.0%増と順調な伸びを示したものの,耕種生産が前年豊作であった米が冷害等のため一転して不作となるなど総じて天候不順の影響をうけて前年度に比べ6.1%の減少となったため,農業総合としては前年度水準を3.7%下回った( 第7-1表 )。
作目別にみると,米の収穫量は,北海道,東北,北陸などで冷害による被害が大きかったことなどから,豊作であった前年に比べ10.6%減の大幅な減産となった。果実は全体で前年度比6.8%減の収穫量となったが,収穫量の多いみかん,りんごについてみると,みかんは春先の開花期以来の天候不順に加え,このところ増加していた結果樹面積が減少したことなどから前年度に比べ15.7%減少した。
一方,りんごも結果樹面積の減少から前年度を2.1%下回った。野菜は,このところ微減傾向にあった作付面積がほぼ前年度並みとなったことや,作柄も全体として前年度並みであったことから前年度比0.7%増の微増にとどまった。また,生産振興対策が実施されている麦類,大豆は,作付面積の減少と天候不良による不作のため前年度に比べ6.0%減,12.8%減とそれぞれ減少した。
一方,畜産生産は飼料価格が引続き落着いて推移したほか,畜産物価格も総じて堅調であったことなどから前年度に続き生産量が増大した。とりわけ49年5月以降「子取りめす豚頭数」の減少から回復の遅れていた豚が前年度比10.3%増と著しい回復を示したほか,ブロイラーも需要が堅調で11.2%増と大幅な増加となった。肉用牛は,52年2月には飼養頭数がこれまでの最高となるなど生産活動は回復しつつあるが,成育期間の長いことから51年度の生産指数は前年度を13.9%下回った。
51年度の農産物価格(生産者価格)は,食糧消費の伸びが停滞したこと,生産資材価格,労賃の上昇が一段と落着いてコスト上昇が小幅であったこと,畜産物等で供給が増加したことなどを反映し,農産物総合で前年度比8.3%高と落着いたものとなった( 第7-2表 )。
品目別にみると,いわゆる行政価格の対象品目のうち米は前年度の14.4%上昇(政府買入れ米価格)から51年度は6.4%上昇に,加工原料乳は前年の14.7%上昇から7.6%上昇へと小幅な上昇となった。また,市場流通を通じて価格が形成される農産物についても,耕種作物の一部で天候不順による収穫減から供給不足となりかなり大幅な価格上昇となったものもあるが,年度を平均してみると総じて落着いたものとなった。品目別には,果実はみかんの高騰(前年度比87.6%)高を主因として前年度に比べ26.6%高となった。野菜は,きゅうり,なすなどの果菜が14.4%高,きゃべつ,レタスなどの葉茎菜が15.8%高となったもののの,大根など根菜で24.3%低下したことが寄与し,全体としては9.7%高となった。また,畜産物は生産回復による供給増から価格は概ね軟調裡に推移し,全体として2.4%高と小幅上昇にとどまった。品目別には,鶏卵は2.0%高となったが,生乳は加工原料乳の保証価格が引上げ(7.6%高)られたことや市乳向け価格が値上りしたことから9.0%高となった。肉畜は肉用牛で値上りがみられたものの,肉豚が出荷頭数の増加から10.0%値下がりしたための2.3%低下となった。
このような農産物価格の推移に対し,飼料,肥料などの農業生産資材価格も前年に比べ4.2%高にどどまり,前年(5.9%高)に続き小幅な上昇となった。このため,51年度の農業の交易条件指数は103.7に回復した。
51年度の農家所得は1戸当たり358万1千円となり,前年に比べ7.1%増加したが,伸び率は大幅に鈍化した( 第7-3表 )。
特に,このところ20%以上の伸びを続けていた農業所得は,1戸当たり113万7千円となり前年比0.3%の微増にとどまった。これは,天候不順により耕種生産を中心に減産したことに加え,農産物価格の上昇も総じて大きく鈍化したことから農業粗収益が伸び悩んだ反面,畜産の生産回復など農業生産活動が上向きになる中で資材投入量が増大したため農業経営費が増加したことによるものである。また,農外所得は1戸当たり244万4千円で前年比10.6%の増加となったが,労働力需給が依然緩和基調にあることから伸び率は前年(12.1%増)をさらに下回った。なお,51年度の全国勤労者世帯の実収入の伸びは9.5%増となっており,農外収入の伸びはこれを若干上回った。農家所得に出かせぎ・被贈扶助等の収入を加えた農家総所得は,1戸当り417万8千円となり,前年比7.7%の増加となった。また,家計費は1戸当たり288万4千円で前年に比べ9.7%の増加となったが,このうち現金支出分の実質伸び率は1.3%増と近年では最低の伸びとなった。費目別には,被服費や随意的消費の性格の強い家財家具費の増加率が低かったのに対し,光熱費及び水道料,教育文化費を含む雑費の増加率が比較的大きかった。
51年の稲作は,46年以来の冷害に見舞われ,米の収穫量は,豊作であった前年を139万トン(10.6%減)下回る1,177万トンとなり,水稲の作況指数は94となった。
51年の天候は,春以降各地で観測開始以来の最低気温を記録するなど極めて不順であった。このため,北日本では,主として8月に入ってからの冷温,日照不足により出穂期が遅れたことから登熟期が秋冷期にずれ込んで登熟不良を招く遅延型冷害となった。
また,早場米地帯の一部(千葉県)などでは,幼穂形成期の一時的低温が作柄を悪化させ障害型冷害となった( 第7-4表 )。
51年冷害をめぐり,品種選定,機械移植,肥培管理,水管理等稲作技術面からの検討が広範になされているところであるが,立地条件に十分配慮した適正品種の選定,健苗の育成,適期移植,稲の成育状況に合った肥培・水管理など基本的技術の励行により被害を最小限に食い止めた例がみられた。近年の豊作のなかでともすれば忘れられ勝ちであった基本技術に忠実な米づくりが改めて重視され,51年の冷害の教訓となった。
それではこうした冷害による減産が米の需給にどのような影響を与えているかをみてみよう。51年産米の生産調整計画は,潜在生産量を1,300万トン,総需要量を1,210万トンと見込んで,水田総合利用対策による調整数量を90万トンとし,生産予定量を1,210万トンとする単年度需給均衡をめざすものであった。51年産米の収穫量は前述のとおり1,177万トンと生産予定量を下回るものであったが,総需要量が見通しをかなり下回るものと見込まれ,52年10月末の政府古米持越は,冷害にもかかわらず前年10月末の260万トンにさらに上積みし320万~330万トン程度になると予想され,備蓄目標の200万トンを大幅に上回る見込みである。
農家世帯員のうち主として農業に従事する者と「あとつぎ」を中心とした新規学卒就業動向をみると,農業を主としていた者の他産業への流出は,49年以降急減しており,51年の流出者数は10万4千人で48年の42%となっている。一方,他産業からの帰農者数も減少しており労働力需給の緩和の中で,農業者の職業移動は沈滞化してきている。このことは「出かせぎ」についてもみられる。また,農家子弟の新規学卒者の就農状況についてみても,51年には就農者数が前年並みの1万人となり,就農者率では前年をわずかに上回った。特に「あとつぎ」の就農者数が前年を上回ったことが注目される。本報告でも触れたとおり,このような農業者の就業動向は,農地流出の鈍化などとも相まって農業生産の増大を期待させるものであるが,一方で農外での所得稼得を困難にするものであり,生産性の一層の向上を伴なった農業総生産の増大が必要となっている( 第7-5表 )。
51年の木材(用材)需要量は,48年以来3年ぶりに前年の需要量を8.0%上回って1億400万m^3となり再び1億m^3台に回復した。しかし,これまでのピークである48年の需要量に比較すると,なお11.5%下回っておりいぜんとして低水準にある( 第7-6図 )。
用途別の動向をみると,建設需要を主とする製材用材,合板用材は住宅新設着工戸数が金融緩和や宅地価格,建築費の安定化などから前年比12.4%増の152万戸となったことに伴なう需要増を主因として,それぞれ前年に比べ6.4%,15.8%増加した。また,前年大幅に落込んだパルプ用材は,景気の回復につれて紙・パルプの需要が回復に向かい前年比8.6%の増加となった。
一方,供給についてみると,国産材が3,576万m^3,外材が6,832万m^3となり,前年に比べそれぞれ3.4%,10.6%増加した。国産材の供給量が前年を上回ったのは42年以来のことであるが,外材の伸びもそれ以上に大きかったことから輸入材率はさらに高まり史上最高の65.6%となった。
このように輸入依存度が高まる中で木材の安定的供給を確保するためには,国内森林資源の保続・培養や生産基盤の整備,生産流通体制の強化を進めることにより国産材の持続的供給増大を図るとともに秩序ある安定的な輸入に努めることが必要である。
51年から最近に至る木材価格の動向をみると,丸太,製材,合板とも主として住宅用需要の増減を反映してほぼ同じような動きを示した。すなわち,51年初めから7月にかけて新設住宅着工戸数が前年同月水準を上回って推移したことなどから,木材価格は次第に上昇気味に推移し,夏頃に一段高となったが,その後横這いとなり,ついで11月から年末にかけ住宅用需要の減少に伴ない,緩やかな下降傾向で推移している。その後52年に入り,南洋材を中心とした輸入量の減少,合板の生産調整カルテルの実施などから一時反騰し,さらに3月以降再び下落しはじめている( 第7-7図 )。
わが国の合板工業は,高度経済成長期を通じ国内需要の急増を背景として急成長をとげた。
普通合板についてみると,生産量はピーク時の48年には40年に比べ3.3倍となっている。しかし,49年以降,不況の中で合板需要も急激に減少し,著しい供給過剰となり価格も大幅に下落したため業況が極度に悪化した。このため,「中小企業団体の組織に関する法律」にもとづいて生産調整を内容とした安定事業(以下,生産調整カルテルという)が50年1月から実施された。その後52年6月まで断続的に生産調整カルテルが実施されてきているが,景気回復テンポが緩慢なものであったことから合板需要もはかばかしい回復がみられず合板工業の業況改善は遅々として進んでいない。
ここで,50年1月に始まる生産調整カルテル実施の効果を生産量,在庫量,価格の推移からみてみると,生産量そのものはカルテル期間中必ずしも減少していないが,需要の伸びを下回るほどに抑制されており,このため在庫量は各カルテル期間の終期には始期の水準を下回っている。また,価格はこうした在庫量の減少を反映してカルテル期間中若干持直している( 第7-8図 )。
第7-8図 合板工業における不況カルテル実施の効果(斜線はカルテル期間)
このような推移からこれまでのところ,カルテルによる市況回復効果はあがったものの,長期にわたるカルテル実施に伴ない,企業の資金繰りの悪化,カルテルに参加しなかったいわゆるアウトサイダーとの問題等から操短による減産率は傾向的に低下してきている。このため,52年7月,8月について「合板調整規則」を制定し,農林大臣の事業活動規制命令により,アウトサイダーを含め生産調整を実施することとなった。
今次合板不況は,需要の急激な大幅減少を直接的な要因とするものであるが,財務体質等企業体質の脆弱さが需要減への対応力を弱いものとしている。今後,安定成長へ移行する中で合板の需要もこれまでの発展期のような高い伸びを見込めないものとみられることから,企業集約化,新商品・新技術の開発促進等引続き構造改善を進めることが必要となっている。
わが国の漁業・養殖業の総生産量は,40年代初め以降遠洋漁業の急伸と沖合漁業の順調な伸びから増加を続け,49年には1,081万トンと過去の最高を記録したが,50年には遠洋漁業の減産等から減少した。51年の生産量は,遠洋漁業が前年に引続き減少したものの,沖合漁業ほかで増加したことからほぼ前年並みの1,064万トンとなった(本報告 第II-4-13図 )。
51年の生産量について漁業部門別にみると,遠洋漁業は北洋海域における底びき網の「すけとうだら」の漁獲減などから前年に比べ7%の減少となり49年以降減少傾向が続いている。沖合漁業は近年順調に伸びてきているが,51年も,あぐり網,沖合底びき網等で漁獲量が増大したことから前年に比べ4%増加し,過去最高の464万トンを記録した。また,沿岸漁業も船びき網,採貝等の増加により,前年比4%増となった。
一方,養殖業等については,海面養殖業では,かき,のり,わかめ等の生育状況が前年に比べ良好で収獲量は増加した。また,内水面漁業・養殖業もうなぎなどの養殖業の増加から近年最高の20万トンとなった。
以上のようにわが国の漁獲量は50年以降停滞的であり,また今後国際的にいわゆる「200海里時代」入りするのに伴ない漁獲量がさらに減少するものと懸念されることから水産物輸入が注目されてきている。水産物輸入への推移をみると,輸入金額は48年に前年比57.7%増と大幅に増加したあと,49年(7.7%増),50年(19.3%増)と伸びが鈍化していたが,51年には再び前年比46.2%増と急増した。輸入水産物の国内漁業生産に対する割合は,50年には数量で約10%,金額で約20%に相当するとみられている。51年の水産物輸入の品目別構成は,生鮮・冷凍品としてのえび(51年輸入金額構成比39.6%),かつお・まぐろ・かじき類(同,8.2%),いか(同7.1%),たこ(同,6.4%)等のほか塩干品としての魚卵類(塩かずのこ,すじこ,たらこ等。9.0%)等となっている。これらの品目は,近年の魚の消費形態の変化(天ぷら,フライ類,さしみなどでの消費増)に対応し,また魚卵類については特に国内生産の低下を反映し輸入が増大してきているものであるが,近年水産物輸入の品目別構成には大きな変化はない。「200海里時代」入りに伴ない漁獲減が予想される魚種の輸入は,51年にはまだ顕著な動きはみられなかった。
なお,水産物輸入価格は同じ食料品である農産物の輸入価格に比べ50年までは比較的落着いた動きを示していたが,51年には水産物平均で前年に比べ29.1%高となっており,とくに生鮮・冷凍水産物については,33.9%の大幅上昇となった( 第7-9表 )。
51年の水産物価格を産地市場卸売価格でみると,前年に比べ水揚量が大幅に減少したさんま・あじ・さば・いわしなどの多獲性魚(前年比52.5%高),すけとうだらなどの底もの(同,25.7%高)がいずれも大幅に値上がりしたことから,生鮮品全体で前年比(18.0%高)となった( 第7-10表 )。
また,消費者価格は,このような産地高を反映し生鮮魚介で16.1%上昇となったが,塩干魚介は5.4%上昇にとどまった。その後,52年に入ってからも生鮮魚介の消費者価格は前年をかなり大幅に上回って推移している。今後水産物の安定的供給を確保するためには,本報告でも指摘したように,わが国200海里水域までの漁場の確保・開発を進めるとともに魚資源活用のため消費・流通上の諸問題の解決に努める一方,秩序ある輸入の確立を図ることが必要となっている。