昭和52年

年次経済報告

安定成長への適応を進める日本経済

昭和52年8月9日

経済企画庁


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6. 建  設

51年度の建設活動は,緩やかな景気回復のなかで,名目で前年度比9.1%増と50年度7.6%増に続き着実な増加を示した。しかし,50年度に落着いていた建設物価(建設工事費デフレータ)が51年度に再び強含みに転じたことから,実質量では19兆1,000億円(45年度価格)と前年度比1.1%増の伸びにとどまった。

建設活動を部門別にみると,民間住宅投資は前年度ほどではないものの根強い需要を背景に増加し,政府投資も年度後半に種々の景気対策が打たれて公共事業が伸びたことから前年度よりわずかながら増加したが,住宅投資以外の民間建設投資は,非住宅建築が商業・サービス業を中心にかなり増加したものの,土木工事が盛り上がりを欠く民間設備投資などの影響をうけて引続き前年水準を下回ったため,前年度比微増にとどまった。

(1) 盛り上がりを欠いた建設投資

51年度の建設投資の動向を建設省「建設投資推計」でみると 第6-1表 に示すように投資総額は前年度比9.7%増と50年度に引続き回復基調にある。しかし高水準ながらも落着いた動きを示していた建設資材価格が,51年に入って再び強含みに転じたため,実質でみると,前年度比で49年度14.1%減,50年度6.6%増のあと51年度は1.1%の微増となった。

この内訳をみると民間住宅投資が前年度比実質1.8%増(増加寄与度0.6%),ついで政府投資が前年度比実質0.7%増(増加寄与度0.3%)となったのに対し,住宅を除く民間建設投資(民間非住宅建築と民間土木)は前年度比実質0.5%増(増加寄与度0.1%)の低い伸びとなった。もっとも,このうち民間非住宅建築は実質4.8%増(増加寄与度0.9%)と商業・サービス業を中心として順調に増加したが,民間土木は実質7.5%減(増加寄与度マイナス0.7%)と減少している。民間非住宅建築のなかで鉱工業の建設投資は,2年連続して大幅減のあと51年度は実質0.4%増と下げどまった。なお建築,土木別にみると,建築は50年度実質6.8%増のあと51年度0.5%増と伸び率が鈍化しており,土木も50年度実質6.3%増のあと民間部門の不振から,51年度は2.0%増にとどまった。

第6-1表 建設投資の推移

47~48年の狂乱物価時に建設資材,労務費の高騰から建設投資の名目額と実質額とはかなり乖離を示したが,その後,建設資材価格が落着きを取り戻したため,50年度には両者の乖離はほとんどみられなかった。しかし51年に入って建設資材価格は再び強含みに転じたことから,名目額と実質額とは再び乖離した。いま建設工事費デフレーター(45年度=100)の推移をみると,48年度139.7,49年度165.7,50年度167.3,51年度180.7と高まり,前年度比上昇率はそれぞれ26.4%,18.6%,1.0%,8.0%となっている。さらにこの間の推移を四半期別にみると,49年4~6月以降の年10~12月にかけて同デフレーターは160台で推移していたのが,51年1~3月に170.2と上昇したあと,52年1~3月には183.0とかなりの高水準に達した。一方,主要建設材料価格を日銀卸売物価指数でみると 第6-2図 にみるように「建設材料総合」は49年初以降やや低下傾向にあったか51年に入ると再び上昇に転じ,その後8月以降は横ばいで推移している。

第6-2図 主要建設材料卸売物価指数の推移

次に建設工事受注額(建設省「建設工事受注調査(第一次43社分)」)によって民間の建設活動をみてみよう。建設工事受注総額は6兆900億円で前年度比2.4%増と50年度7.5%減のあと2年ぶりに増加したが,比較的緩やかな伸びにとどまった( 第6-3表 )。建設デフレーターの上昇を考慮すると実質では減少となった。民間からの受注は前年度比5.9%増と3年ぶりに増加した。民間からの受注のうち製造業からの受注は,50年度41.1%減と大幅減少のあと3年ぶりに3.9%増と下げどまった。しかし業種別にみると機械(50.4%増),その他(17.2%増)が増加を示したが,繊維(36.0%減),鉄鋼(32.8%減),化学(4.6%減)などで減少するなど,業種間でかなり跛行性がみられた。

非製造業からの受注は,49年度8.9%減,50年度減7.3%となったあと,51年度には6.5%増と回復に転じたが,48年度の水準に対して10.1%下回り石油ショック前のピークに達していない。もっとも製造業からの受注もピーク時(48年度)に対して42%減という水準にとどまっているのと比較すれば非製造業からの受注の落ち込みは小さい点が特徴的である。非製造業を業種別にみると,電力(18.7%増),商業・サービス・保険業(11.8%増)が増加しているが,農林漁業(4.3%減),鉱業(0.3%減),運輸(7.7%減),不動産(5.5%減)は減少した。なお,石油ンョック後の建設受注の不振に伴い急増していた海外工事受注額は,51年度には3,411億円,前年度比7.0%の増加となった。

第6-3表 建設工事受注の動向

さらに,建築着工床面積の動向をみると, 第6-4表 に示すように,総計で前年度比7.4%の増加となった。建築主別にみると公共が4.1%減と4年連続して減少したのに対し,会社等は,設備投資が下げどまった関係もあって17.6%増と3年ぶりに上昇に転じ,個人建築も住宅建設が比較的堅調なことから4.9%増となった。構造別には鉄骨鉄筋コンクリート造が38.9%増と大幅増となったのが特徴的である。用途別には居住専用が順調に増加しており,鉱工業用は3年ぶりに増加に転じ,また商業用,サービス業用も個人消費支出がゆるやかながら増加していることから比較的順調に増加した。

第6-4表 建設着工床面積の推移

(2) 緩やかな伸びとなった公共事業

51年度の公共事業を前記「建設投資推計」でみると,政府建設投資は実質0.7%増と50年度に比し伸び率が大幅に鈍化した。このような事情を主な要因についてみると,まず51年度当初予算(国)の一般会計公共事業関係費は,前年度当初予算比21.2%増,財政投融資は前年度当初計画比14.1%増と大幅な増加となったが,50年度は補正予算等によりかなりの追加が行われたため,51年度当初の50年度補正後に対する増加率は公共事業関係費6.4%増,財政投融資0.8%増となった。こうした状況に加え,国鉄,電々公社においては,運賃,および料金の値上げが遅れたため工事費削減という措置がとられた。

第6-5表 公共工事着工の動向

このような状況において51年11月には,景気の着実な回復を図るため,①公共事業等の執行促進,②国鉄,電々の工事費削減分の一部復活,③住宅金融公庫の個人住宅貸付戸数の追加等の措置を中心とした7項目の景気対策が決定された。また52年2月には2,638億円の公共事業関係費の追加を中心とする一般会計補正予算(合計3,542億円)が成立した。この結果51年度末の公共事業等予算現額は50年度末予算現額を5.0%上回った。

このような公共事業の動きを,「公共工事着工統計」でみると,51年度の公共工事総評価額は前年度比6.1%増と50年度(7.2%増)より低い伸びとなった( 第6-5表 )。発注者別には,国が微減(0.1%)し,政府企業も6.2%減と,いずれも前年度を下回ったが,都道府県,市区町村では,それぞれ11.2%増,10.9%増とかなりの増加となった。このような地方公共団体の公共事業の増加は,49年度後半から悪化していた地方財政が,51年度には地方税収の好転により改善に向ったこと,さらに加えて国が種々の地方財政対策をとり,国の補正措置に伴う地方負担の増について地方債による財源措置を講じたことなどが好影響を及ぼした。工事種類別にみると,電信,電話,郵便,庁舎等が前年度を下回ったものの,農林水産,道路など産業関連のほか下水道,公園,教育,病院などの生活関連投資や,17号台風に関連した災害復旧投資の増加寄与度が大きかった。

(3) 増勢一服の住宅建設

51年度の住宅投資は,実質で1.3%増と50年度14.2%増に対し増加率は低くなった。このため住宅投資の景気へのインパクトはそれほど大きくはなかった。

新設住宅着工戸数でみると,51年度は153万戸で前年度比7.2%増となった( 第6-6表 )。資金別にみると,民間資金によるものは113万戸,前年度比13.1%増とかなり高い水準となった。51年に入ってからの動きをみると,前期比で51年1~3月8.7%増,4~6月5.2%増と,51年々初から年央にかけ高い伸びを示し,その後は7~9月2.8%減,10~12月1.6%減,1~3月2.1%増と弱含み横ばいで推移した。これに対し公的資金によるものは,39万9千戸で前年度比6.7%減となった。年度前半の不振とは対称的に,年度後半には前期比で51年10~12月14.6%増,52年1~3月20.9%増と増加に転じ,尻上りに増加した点は注目される。

第6-6表 新設住宅着工戸数の動向

第6-7図 新設住宅着工戸数の推移(民間資金分・季節調整済)

次に民間資金分を利用形態別にみるとかなり跛行性がみられる( 第6-7図 )。すなわち持家は前年度比0.7%減,年度間の推移をみると前期比で51年4~6月には2.9%増となったが,7~9月5.6%減,10~12月6.7%減,1~3月0.7%減と減少傾向をたどった。こうした持家の減少は,51年度初めの建設戸数がすでに48年度の水準近くまで回復していたうえに所得の伸び悩みや住宅価格が再び強含みになったことから持家取得能力の伸びが小さくなったためとみられる。一方貸家は前年度比25.2%増と大幅に増加した。49年10~12月にはピーク比69.0%減と大幅に減少した貸家は,その後1年半にわたって増加し,特に51年1~3月に対前期比14.4%増,4~6月同11.6%増と大幅に増加した。もっとも51年々央以降再び貸家建設は減少に転じているが,これには貸家需要そのものが伸び悩んでいるほか,家賃率の上昇や金利の低下がいずれも頭打ち傾向となったことが貸家建築主の意欲を弱めたためと考えられる。このような貸家とは対称的に分譲住宅は49年10~12月以降一貫して増加傾向をたどり,49年度の16万戸から50年度には19万戸,ついで51年度は前年度比34.4%増の26万戸へと著増した。とくに東京,大阪などの大都市におけるマンションの売れ行きは好調な伸びを示した。これには供給側が販売価格を極力抑制したり,住宅ニーズに合致した住宅を供給することによってその需要を喚起したことによるところが大きかったためとみられる。

他方,公的資金による住宅建設をみると,ウェイトの大きい住宅金融公庫分が前年度比1.8%減となった。これには50年度に景気対策の一環として50年10月に7万1千戸と大幅な追加が行なわれ,そのため51年度当初計画が50年度追加後のものより低かったこと,さらに52年1月に追加された(2万戸追加,3万戸は52年度貸付の繰上げ募集)の着工が51年年度内に本格化していないことなどが影響した( 第6-8表 )。

(4) 今回の景気回復局面における特徴

以上みたように,51年度の建設活動は,日本経済のジグザグ型の緩やかな回復テンポを反映してやや増加傾向を示したものの,その伸びは低いものにとどまった。いま民間建設工事受注と住宅建設について,今回の景気回復局面の動きと過去の同局面とを対比してみるとつぎのような特徴があげられる。

まず民間からの建設工事受注(第一次43社分)をみると,40年,46年不況の景気の谷からの回復過程では約半年間にわたって低迷していたが,その後急速に回復している。これに対して今回は景気が底(50年1~3月)を打った後も減少し,景気の谷からほぼ一年経過した51年度以降ようやく回復傾向をみせはじめたが,その回復テンポは非常に緩慢である。受注の落込みが大きかったことから52年3月の受注水準は過去のピーク時に比べ21%減という状態にとどまっている。こうした緩慢な受注の回復といぜん低い受注水準には大幅な需給ギャップの存在と企業収益の回復の遅れなどに加え,企業の設備投資行動が需要追随型に変質していること,さらには当面,技術革新が望めないことなどの要因が強く働き,民間設備投資に盛り上がりが欠けていることが原因となっている。たとえば製造業からの建設工事受注をみると前回,前々回の場合,いずれも景気が底を打つと同時に受注は急速に回復を示したが,今回は,景気が底を打った(50年3月)後も減少し,50年10月には景気底入れ期の50.6%の水準まで減少した。その後,ゆるやかながら回復しているものの52年3月で景気底入れ期の水準に比し14.9%減(過去の受注ピーク比41.8%減)と低水準にある。一方非製造業からの受注をみると,前回,前々回ともに景気の谷以降約半年間にわたって低迷したあと,受注は急テンポで回復を示したが,今回は逆に景気の谷のあと,2ヵ月後に底を打ちその後ジグザグ型を示しながらも回復傾向をたどり,52年3月には過去のピーク時の83.5%(ボトム(50年5月)比29.1%増)まで回復した。

第6-8表 住宅金融公庫個人住宅融資状況

住宅建設は住宅需要の構造的変化を反映して経済的要因に左右される度合が強まったことから,景気が谷を打った後,今回も前回とまったく同様に急速に回復した。しかし前回の場合,その回復がそのまま住宅ブームへとつながっていったのに対し,今回は景気の谷以降ゆるやかな増加を続け,51年度に入って,伸び悩んだことが特徴的であり,52年3月の水準はボトム(50年2月)比24.0%増となったものの,ピーク比(48年2月)比28.3%減の水準にある。資金別にみると民間資金分は,総戸数とほぼ同様な推移をしており,この結果52年3月にはボトム(50年1月)比24.5%増,ピーク(48年2月)比33.6%減の水準にある。さらに公的資金分のうちウェイトの大きい公庫住宅が,景気対策の重要な手段となってきたことが特徴的である。このため公的資金分による住宅着工戸数は年度間を通じてかなり変動が大きくなってきた。


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