昭和52年
年次経済報告
安定成長への適応を進める日本経済
昭和52年8月9日
経済企画庁
第I部 昭和51年度の日本経済―推移と特色―
第3章 落ち着き傾向のみられる物価情勢
50年末以降,年率7,8%程度のやや速いテンポで上昇してきた卸売物価は,51年度後半にはいると,全体としての上昇テンポは落ち着いたものとなった。前年同月比で卸売物価の推移をみると,50年8月の0.7%上昇を底にその後騰勢を強め,51年9月には6.8%の上昇となっている。しかし秋口以降騰勢は弱まり,特に52年にはいってから前年同月比の上昇率は月を追って低下を続け,6月には2.6%の上昇となっている。
このように51年度の卸売物価は,年度前半はややテンポの速い上昇が続き,後半には落ち着き基調に転じたが,この間の価格動向を用途別にみると( 第I-3-1表 ),生産財関連品目の推移に依拠するところが大きい。すなわち,年度前半は,悪化した市況を立て直すため,特に素材メーカーを中心に減産体制を続けたことと,需要の回復とが重なったことから,製品原材料,建設材料などの多くの品目で需給バランスの改善をみたほか,一部海外相場の強調から,素原材料,動力,燃料などでも上昇した。しかし年度後半にはいると,景気回復テンポが再び鈍化し,特に繊維,平電炉,合板等のいわゆる構造的不況業種関連品目の市況は,需給バランスの悪化から極端に低迷するなど,市況全般が停滞しはじめた。また,海外市況の軟化や円高相場の影響もあり,生産財関連品目の価格は下落するものが多くなり,全体としても上昇傾向は鎮まった。主要生産財関連品目についてこの間の価格騰落率をみると,普通鋼鋼材(年度前半9.5%上昇から後半2.5%下落),伸銅品(同14.0%上昇から7.9%下落),紙・板紙(同10.0%上昇から7.3%下落),加工板材(同16.0%上昇から0.1%下落),飼料(同11.9%上昇から2.4%上昇),林産物(同13.3%上昇から2.3%下落)などとなっており,年度前半に比べて後半は,様変わりの状況となっている点が目立つ。
48年度,49年度と急騰した消費者物価は50年度に入ってからは急速に騰勢が鈍化し,50年度末には前年同月比で8.6%の上昇と政府目標であった1桁台上昇率を達成したが,51年度に入ってからは,基調としては安定化傾向をたどったものの,政府の年度末見通し(8.6%程度)の実現には至らなかった。
品目の特性によって分類した特殊分類別に年度中の動きをみると,商品が後半に至り緩やかながら騰勢を次第に弱めていったのに対し,サービスが期を追って騰勢を強め商品価格とサービス価格のかい離は拡大した。商品の中では天候状況により大きく変動する季節商品が,年度前半には天候不順の影響から,また年度後半には寒波の影響から,かなりの上昇となったが,工業製品や,出版物は生産コストの落ち着きと需給の緩和から総じて落ち着いた動きで推移した。これに対し,サービス料金が騰勢を強めたのは,公共料金の改定が重なりまた個人サービス,外食が年度前半にはかなりの上昇を続けたからである。しかし,個人サービス,外食は年度後半には上昇率が鈍化した。( 第I-3-2表 )
このように,51年度の消費者物価がやや高い上昇となったのは,季節商品と公共料金の上昇によるところが大きい。
いま,51年度中の主な公共料金の改定状況をみると,電力料金(6~8月実施),国鉄(同11月),電報電話料金(同11月)など消費者物価全体への影響の大きい品目での料金改定が相次いだ。
51年度において公共料金の改定が集中したのは,48年から49年にかけての物価高騰のときに,政府の物価政策の一環として値上げが抑制され,その後追いとして50年度から始まった公共料金改定の2年目に当たっていたからである。
この,季節商品と公共料金を除いた消費者物価の推移をみると,年度後半にかけ6%台で推移し,特に52年に入ってから,より落ち着く傾向をみせている。
なお,消費者物価と卸売物価とに共通する品目の価格の動きを比較してみると( 第I-3-3図 ),両者の間に時間的なずれがほとんど認められず,かつ両者は長期にわたってほぼ同様な動きで推移している。