昭和51年

年次経済報告

新たな発展への基礎がため

昭和51年8月10日

経済企画庁


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5. 交通通信

(1) 跛行性目立つ国内輸送

a 国内旅客輸送の増勢2年連続鈍化

50年度の国内旅客輸送量は,輸送人員で前年度比2.6%増の462億7,400万人,輸送距離を加味した輸送人キロで同じく2.6%増の7,111億人キロとなり,49年度に引続き低い伸び率となつた( 第5-1表 )。主要輸送機関別にみると,国鉄は50年3月10日に新幹線の岡山・博多間が開業したことによつて1億5,700万人を運び,前年度比18.0%と急増したにもかかわらず,11月末から12月にかけてのスト等が響いて,全体の輸送人員は70億5,000万人,前年度比0.9%の減少となつた。また,人キロベースでも0.1%減とほぼ前年水準並みとなつた。これに対して民鉄は,輸送人員で前年度比1.3%増,輸送人キロで0.6%増と微増した。バスは,路線の減少などにより,輸送人員で4.2%減,輸送人キロで4.9%減といずれも前年を大きく下回つた。乗用車は,営業用が不況の長期化などの影響によつて,輸送人員,輸送人キロのいずれも前年度を下回つたが,自家用は,石油ショックの影響も薄らぎ,自動車の売れ行き好調なことから,輸送人員で10.6%増と再び増勢基調を強め,機関別輸送分担率は乗用車全体で35.3%までに拡大した。ちなみに10年前の40年度の乗用車の輸送分担率は10.6%にすぎなかつた( 第5-2表 )。つぎに航空は,新幹線の博多開通によつて東京・福岡,大阪・福岡線の落ち込みが大きかつたものの,沖縄海洋博開催による沖縄線の好調に支えられ,輸送人員で0.7%の微増,輸送人キロでは8.7%の大幅増となつた。また,旅客船は,フェリーの不振などを反映して,輸送人員で2.3%減,輸送人キロで10.8%の減少となつた。

b 乗合バス旅客は減少続ける

50年度の国内旅客輸送を機関別輸送分担率でみると( 第5-2表 ),鉄道とバスがそれぞれ1.2ポイント比重を下げたのに対して,逆に乗用車が2.4ポイント上昇したのが目立つた。近年のバス旅客輸送を,比重の大きい乗合バス輸送でみると, 第5-3図 に示すように,40年代に入つて旅客輸送は停滞しており,40年後半から減少する傾向がみえる。これは,モータリゼイションの急激な進行等による旅客需要の減少と,大都市部における道路混雑度の悪化による輸送効率の低下や,これに伴う定時性の喪失から旅客にとつて魅力のない輸送機関となりつつあることが影響したためとみられる。逆にいえば,このことはそれだけ乗合バス事業の経営が悪化していることを意味するものである。たとえば地方公営乗合バスは,49年度で全国に59事業が営なまれているが,経常収支ではすべてが赤字経営に陥つている。いま全国の乗合バス事業を公営と民営とに分けて経営状況を比較すると( 第5-4図 ),渋滞道路の多い大都市部に公営が多いことなどがあつて一概に論じることはできないが,公営バスの経営は運賃原価の約7割を占める人件費が割高なことなど経営効率が劣つていることは明らかであり,今日の乗合バス事業をとりまく厳しい経営環境の下で,公営乗合バス事業のより徹底した経営合理化努力が期待されている。

第5-1表 国内輸送機関別旅客輸送量

第5-2表 国内輸送機関別輸送分担率

第5-3図 乗合バス事業の輸送人員,走行キロ,乗車効率の推移

第5-4図 全国乗合バス・公営民営経営比較

c 貨物輸送は2年連続減少

50年度の国内貨物輸送量は,前年度比1.0%減の50億3,200万トン,トンキロベースで3.9%減の3,613億トンキロと,いずれも49年度に引続いて減少した( 第5-5表 )。

これは景気回復の遅れから産業活動の停滞が長びいたことによるものであつて,景気回復が本格化した50年1~3月期から荷動きは活発となり,輸送トンキロで51年1~3月期は前年同期比4.1%増と回復ヘ向つている。ちなみに30年代の後半から実質経済成長率と国内貨物の全輸送量(トンキロベース)の伸び率の推移をみると( 第5-6図 ),実質GNPの伸び率と国内貨物輸送量は,49年度,50年度の落ち込み度合にやや開きがあるものの,過去15年間ほぼ同じテンポで増大してきた。いずれにしろ,50年度の国内貨物輸送量は輸送トン数で3年連続,輸送トンキロでは2年連続の減少となり,輸送トン数は45年度の水準を,輸送トンキロは46年度の水準をそれぞれ下回るまでに後退した。

これを主要輸送機関別にみると( 第5-5表 ),国鉄は,輸送トン数で前年度比10.1%減,輸送トンキロで9.7%減と大幅な減少となり輸送トンキロでは,46年度以来5年連続の減少となつた。

輸送量を物資別にみると,すべての品目が49年度の水準を下回つているなかで,石炭(前年度比19%減),鉱石(20%減),材木(25%減),鉄鋼(23%減),肥料(15%減),混載(36%減)等の落込みが著しかつた。

つぎに自動車輸送は,前年度比0.4%増,輸送トンキロが0.8%減とほぼ横ばいであつた。このうち営業用は輸送トン数が1.4%増,輸送トンキロが3.9%減であつたのに対して,自家用は輸送トン数が前年度とほぼ同水準となり,輸送トンキロも3.1%増と前年度の13.9%の大幅減からプラスに転じた。これは51年1~3月期において輸送トンキロが前年同期比12.3%増と景気の回復傾向を反映して大幅に伸びたことによるものである。また,内航海運が輸送トンキロで4.4%減と2年連続の減少であつたのに対して,航空は同じく8.6%増と持ち直している。

以上のように50年度の貨物輸送は,不況の長期化などによつて鉄道,内航海運の減少,自動車の横ばい,航空の大幅増という特徴がみられるが,機関別輸送分担率は 第5-2表 のとおり自動車が1.2ポイント回復したのに対して,鉄道が0.8ポイント,内航海運が0.4ポイントそれぞれ比重を低下した。

第5-5表 国内輸送機関別貨物輸送量

第5-6図 実質経済成長率と国内貨物輸送量(トンキロ)の伸び率

ところで,国内の貨物輸送を機関別輸送分担率でみると,鉄道は40年度に30.8%を占めていたが,その後,年々その比重を下げ,50年度には10年前の半分以下の13.1%まで低下している。

この背景には,30年代後半から進展した日本経済の構造変化が鉄道貨物輸送に不利に働いたとみることができる。すなわち,ひとつには,エネルギー源としての石炭が石油にとつて換られたこともあつて,大量の原材料を取扱う鉄鋼,非鉄金属,石油化学等の基幹産業型工業をはじめとする工業の臨海部立地が進展したことである。この結果内航海運の輸送分担率は35年度の45.8%から50年度には50.9%へと上昇した。

ふたつには,自動車時代の到来である。これは単に自動車台数が増大しただけでなく,名神,東名等の自動車専用道路をはじめとして,劣悪であつたわが国の幹線道路網が全国的に整備された結果,トラックなどの自動車輸送は小口ロットに対する機動性や,戸口から戸口まで迅速に運べるという利便性において鉄道輸送に対して圧倒的に優位な地位に立つたことを意味している。鉄道貨物輸送量のこのような減退は,国鉄の経営悪化の1つの大きな要因であるとされるが( 第5-7表 ),こうしたわが国の貨物輸送環境の変化の下で,国鉄貨物輸送の現状打開を図るため抜本的な体質改善がなされることが期待されている。

第5-7表 日本国有鉄道の事業収支

(2) 底込れした国際輸送

a 外国用船輸送量のシェア高まる

50年のわが国の輸出通関額は,前年比0.4%増の557億ドル,輸入通関額は6.8%減の579億ドルといずれも低迷した。これを数量ベースでみると,輸出は前年比2.0%の微増に対して,輸入は49年の2.3%減に引続き,12.5%の大幅減となつた。

こうした輸出入の低迷を反映して,わが国の輸出入貨物の海上輸送量は,トンベースで輸出が前年比40%減,輸入が9.5%減とそれぞれかなりの落ち込みとなつた( 第5-9表 )。この輸出貨物(数量)の減少は,自動車,機械等の輸出が伸びたものの,輸出数量の約半分を占める鉄鋼の輸出が減少(前年比8.3%減)したほか,同じく輸出貨物の大宗である肥料等が減少したためである。また,輸入は,国民生活に直接的なかかわりの深い小麦・とうもろこし等は若干の増加を示したものの国内の生産不振を反映して,工業用原料,原油などのエネルギー源,さらには建設資材などが減少したことが大きくひびいた。

第5-8図 日本船,外国用船及び外国船別海上輸送量構成比の推移

このような状況の下で,50年の邦船(外国用船を含む)の輸送量は,49年に比べ輸出は6.5%増,輸入も0.6%増加した。このため,邦船積み取り比率は輸出で49年の48.4%から50年には53.7%,輸入では66.4%から73.8%へと近年にない高水準となつた。これを日本船と外国用船にわけてみると( 第5-8図 ),前者は輸出でコンテナ貨物の減少などにより49年23.8%から50年23.3%へと若干後退したものの,輸入では長期契約によつて日本船が優先運航されたことにより40.6%から45.6%へとかなり改善した。これに対して,後者の外国用船は輸出で滞船が激しい中近東地域向け配船の増加などにより,49年の24.6%から50年は30.4%へと大幅な上昇を示し,輸入も25.8%から28.2%へと上昇した。このように近年,外国用船の積取比率の高まりの要因としては,国際競争力の喪失により,中小型不定期船及び在来定期船部門を中心に日本船が減少しつつあることに加えて,中近東及びアフリカの産油国の港湾での船混みから長期の停船を余儀なくされるケースが増え,運航コストの切り下げを図る意味から,コストの安い外国用船の利用が増加していることなどがある。

第5-9表 輸出入貨物と積取比率

50年度の海運市況は,世界的な経済不況を反映して,全般的に荷動きは伸び悩み市況は低迷した。しかし,50年度後半から世界的な景気の回復にともない先進国間を中心に荷動きが活発化しつつあり,構造的な船腹過剰に悩むタンカー部門は依然として不振であるものの,コンテナ船を中心とする定期船部門は業績の回復が進み,また不定期船部門も今後市況が徐々に回復するものとみられる。

次に,50年度の国際収支における運輸収支をみると( 第5-10表 ),50年度の邦船積取比率の高まりなどを反映して,受取額は7,100万ドル増え,63億4,600万ドルとなつたのに対して,支払額は7,900万ドル減少し,83億4,600万ドルとなつた。この結果,赤字幅は8,300万ドル減じて,20億ドルとやや縮小した。

b 持直した国際航空輸送

50年度のわが国(日本航空(株))の国際航空輸送量についてみると( 第5-11表 ),旅客輸送は49年度に前年度11.4%減と大幅な落ち込みを見せたのに対して,50年度には254万人,10.9%増とほぼ48年の水準まで回復した。人キロベースでも49年度の2.2%増から8.7%増と伸び率が高まつた。また貨物輸送も49年度の8.6%から35.9%へと急増し,トンキロベースでも49年度の4.5%減から9.8%増へと順調に回復している。

第5-10表 運輸収支

第5-11表 国際線輸送実績(定期航空有償輸送量)

旅客は,太平洋線のほか,わが国と中近東諸国との間の経済関係緊密化を反映して,南回り欧州線が好調となつたほか,近年不調であつた韓国線も急速に回復するなど旅客輸送全体として回復基調にある。一方,貨物輸送は,米国向けトランシーバのチャーター便の急増や繊維製品など韓国,東南アジア諸国等からわが国経由の米国・欧州向け貨物が盛況であつたことなどから,大幅な増加となつた。

(3) 内・外通信の動向

a 低迷した郵便需要

50年度の郵便物引受総数は,141億通と,前年度比で0.5%(6,500万通)の伸びに留まつた( 第5-12表 )。これは,景気回復の遅れに伴う企業活動の不活発や個人消費の停滞などの影響に加えて,51年1月25日に料金改定を実施したことが響いている。なかでも,国内郵便は,選挙関係郵便物を除き軒並みに伸び率の低下がみられ,とくに小包,第3種郵便物(新聞,雑誌)がそれぞれ11.5%減,4.3減と49年度に引続き減少したことが目立つた。

このような郵便需要の低迷の下で,50年度の郵便事業の収支状況は, 第5-13表 にみるように事業収支は,48年度から3年連続の赤字となり,50年度は1,319億円と49年度に続き赤字となつた。これは,人件費の上昇や需要の低迷もさることながら,郵便料金の改訂時期が遅れたことによるところが大きい。

b 日本電信電話公社の経営悪化する

国内通信需要を,電話・電報についてみると,ダイヤル通話総通話数は,前年度比で49年度1.6%増に続き,50年度も2.4%増の低い伸となつた。

これに対して,電報通数は38年来減少し続け,50年度も2.2%の減少となつた。これは,慶弔電報通数が年々わずかながら増えている一方,電話の普及によつて情報伝達手段としての電報需要が減退しているためである。なお,50年度の慶弔電報通数の全体通数に占める比率は,50年度で64.2%にまで高まつた。

第5-12表 引受郵便物数(有料,無料計)

第5-13表 郵便事業の収支

50年度の電信・電話サービスの拡充状況についてみると( 第5-14表 ),一般加入電話は284万,ビル電話3万,公衆電話5万個がそれぞれ増設された。この結果,加入電話の積滞数は50年度で48万個となり,49年度の99万個に比べて半減し,加入電話需要充足率も86%に達した。また,電話普及率についてみると,人口100人当たりの加入電話ベースで26.1個から28.2個へ,住宅電話の100世帯当たりでは56.4個から62.8個へ,公衆電話の人口1,000人当たりでは5.7個から6.0個へとそれぞれ増設された。

第5-14表 電信・電話サービス状況

しかし,日本電信電話公社の経営は,収益率の高い事務用電話の伸び率の低下や,逆に住宅用電話の普及率の上昇によつて,一加入電話当たりの収入額が頭打ちになつたことから,内部の経営合理化努力にもかかわらず,現行料金体系では事業収支のバランスがとれなくなつている。このため,49年度に1,753億円の赤字となり,50年度も2,812億円と2年連続の大幅赤字となつた( 第5-15表 )。

第5-15表 日本電信電話公社の事業収支

c 国際通信需要回復す

最近の国際通信を,電報,電話,テレックスについてみると,国内通信における電報通数にみられたように通信技術の進歩によつて,情報流通手段は電報から電話,テレックスへシフトする傾向がみられる。50年度の国際電報発着数は49年度の8.3%減に続き,4.6%の減少となつた。

他方,国際電話,テレックスの発着数及び国際専用回線の電信・電話の発着数は,世界経済の回復による産業活動,貿易取引などの活況を反映して,順調な増加が続いている。50年度の電話,テレックスの伸び率をみると,48年度以前に比べてやや鈍化がみられるものの,前年度に比べて17.6%増,24.6%増とそれぞれ高い伸びを示した( 第5-16表 )。

第5-16表 主要国際通信発着数

このような需要の好転に支えられて,国際電信電話(株)の50年度利益は,前年度に比べて5.5%増とややもち直した( 第5-17表 )。

d NHK事業収支2年連続の赤字となる。

ラジオ・テレビ放送の普及進捗状況をみると, 第5-18表 のとおり,テレビ放送は50年度にNHKで392局,民間放送で214局がそれぞれ新たに設置された。また,ラジオ放送でもNHKは50年度に10局を増設した。NHKのテレビ受信契約数は,50年度末にカラー契約が22,262,000件で前年度比8.3%増,普通契約4,282,000件で同17.8%減となり,合計で26,545,000千件,3.1%の伸びとなつた。普及率はこの結果,50年度末で82.6%となつた。NHKのラジオ放送は第1放送で全国世帯数の99.7%,第2放送で99.2%,超短波放送で96.0%をカバーしている。

ところで,近年のNHK経常事業収支をみると, 第5-19表 のとおり,47年度から4期連続の赤字となり,土地売却金などの特別収入を勘定に入れた事業収支でも49年度には40億円の赤字となり,50年度は189億円へと赤字が増大している。これは本報告136頁で分析したように,NHKの受信料収入は,新規契約者を獲得することによる増収もさることながら,これまではカラーテレビの普及によつて,受信料の低い(月額315円)の普通契約から受信料の高い(同465円)カラー契約へ切換えられたことによる増収も大きな増収要因となつていた。ところが,カラーテレビの普及率の上昇にともないカラー契約数の伸びが逓減したことから,ここ数年受信料収入の伸び率は鈍化しはじめ,収入の伸びが経費の増大に追いつかない状況が生れてきている。このような経営悪化の改善を図るため受信料の改定が行なわれ,51年6月分からカラー契約は月額で710円,普通契約は同420円とそれぞれ引き上げられた。

第5-17表 国際電信電話株式会社の事業収支

第5-18表 放送局の設置状況

第5-19表 日本放送協会の事業収支


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