昭和51年
年次経済報告
新たな発展への基礎がため
昭和51年8月10日
経済企画庁
終章 新しい発展のための基礎がためのとき
今後の世界経済においては,先に述べたようにインフレを再燃させることなく着実かつ持続的な経済拡大を達成することが最大の関心事である。この背景には,現在先進主要国において景気の回復が進むなかで,一次産品価格が国際商品市場で高騰していることなどもあつて,物価上昇率がやや高まつてきていることがある。
このような観点から去る6月末にプエルト・リコで開催された7大国首脳会議においては,インフレなき持続的な経済拡大を達成するための国際的な協力が合意されている。わが国においてもまず自らの景気回復と物価安定の同時達成につとめるとともに,国際協調によつて世界インフレの再燃を防止しなければならない。
わが国の景気回復にとつて世界経済の順調な拡大が重要な要素であることを示したのが昨年から今春にかけての経験である。すなわち,わが国の景気は50年春には底入れをしながらも,その後回復テンポが弱かつたが,これは世界景気が未だ回復に向わず,世界貿易が縮小し,このためわが国の輸出が50年8月まで減少したことによるところが大きい。反対に,51年に入つてから景気回復が急スピードで再前進を始めたのは,世界景気がようやく回復にむかい,それにつれてわが国の輸出が増加したことによる面が大きい。
このように,世界の景気拡大なくしてわが国景気の順調な回復は保証されないのであり,わが国が世界経済の拡大のために積極的な寄与をすることが自らの利益になるのである。この点をわが国輸入の拡大という点についてみよう。
このところわが国の輸入の伸びは緩慢である。これは今回の景気下降局面で生産の減少ほど輸入が減少しなかつたことから,輸入素原材料在庫率が高水準になつていたことに加え,今回の景気回復局面では鉱工業生産の水準が低く,伸びも50年中は弱かつたことによるものとみられる。このため,わが国の経常収支は貿易収支を中心に大幅に改善した。
しかしながら,わが国の経常収支の改善については,これを世界経済全体のなかで評価していく必要がある。それはすでに述べたように,わが国を始め先進国の経常収支が改善する過程で,非産油開発途上国の国際収支問題が深刻化しているからである。48年の石油価格高騰以後,産油国の大幅黒字,非産油国の大幅赤字というパターンが現出してきたが,50年の世界景気の低迷により,先進国の経常収支は輸入の落ち込みにより一時的にせよかなりの改善を示した。この過程で先進国の輸入の落ち込みにより非産油開発途上国の経常収支は大幅に悪化し,49年以上に国際収支問題は深刻化している。この点でとくに近年のわが国の輸入規模が拡大しており,したがつてわが国経済の動向が他国に与えるインパクトは大きくなつているということに注意する必要がある。
わが国は貿易の拡大により世界貿易の拡大に寄与し,相互の繁栄を追求するよう努める必要があろう。しだがつて,今後わが国は貿易の拡大,経済協力の拡充等を通じて世界経済の拡大のため寄与すべき分野は多いという点をここで改めて認識する必要があると思われる。