昭和50年

年次経済報告

新しい安定軌道をめざして

昭和50年8月8日

経済企画庁


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8. 財  政

(1) 49年度の財政政策とその背景

過剰流動性に端を発し,石油危機により加速された異常なインフレーションは,財政・金融両面にわたる総需要抑制策の展開によつて,49年春以降ようやく鎮静化に向かい,さらにインフレーションの収束は49年々末から50年はじめにかけて定着が確実となつた。今回の総需要抑制策は激しい物価上昇に対処するため,期間・規模とも戦後もつともきびしいものとなつたが「物価・賃金の落着き」が生まれたことにより,結果的には成功を収めたわけである。こうしたなかで,財政金融政策は50年春以降総需要抑制の枠組は堅持しながら,不況過程からの着実な回復を図るため不況対策を中心とした景気浮揚策へと転換を図つた。そこで以下こうした総需要抑制策の内容を,49年度における財政政策の動きを中心に振返つてみよう。

第8-1表 49年度における財政関係主要事項

第8-2表 財政規模の推移

a 49年度当初予算

石油危機を契機として,卸売物価は48年12月から49年2月にかけて急騰した。このような状況のもとで,49年度予算はインフレーション抑制を目指し,総需要抑制の観点から極力圧縮が図られた。既ち予算規模でみると,総額は17兆994億円で,対前年度伸び率(当初予算対比)は47年度の21.8%増,48年度の24.6%増に比べ19.7%増と圧縮されている( 第8-2表 )。しかも景気に対し波及効果の大きい公共事業関係費については,住宅,下水道など生活関連支出に重点的配慮を加えつつ,全体では前年度以下の規模に押えられた( 第8-3 , 4表 )。

その他の特色としては,第1に,国民福祉と直結する社会保障関係費が前年度比36.7%の大幅増加となり,一般会計に占める比率が16.9%へと上昇したこと( 第8-3表 ),第2に,歳入面において,給与所得者の負担軽減を中心に所得税の大幅減税(初年度1兆4,500億円,平年度1兆7,270億円),法人税の負担の適正化(基本税率36.75%から40%),自動車関連諸税のうち揮発油税,地方道路税,自動車重量税の引上げが行われたこと,第3に,財政規模圧縮に伴い国債発行が抑制され,国債依存度が12.6%へと低下したこと( 第8-6表 ),などがあげられる。

第8-3表 一般会計歳出予算の主要経費別分類(当初予算ベース)

第8-4表 公共事業関係費の内訳(一般会計,当初予算)

このように49年度予算はきわめて抑制型のものとなつたが,予算の執行面からさらにその効果を徹底させるため,公共事業等について契約目標率を前年度以下の数字に設定し,また一部を繰延べる措置をとつた。

こうした公共事業等の施工時期繰延べは49年度第3四半期までほぼ完全に実施され,49年12月末の契約率は前年をかなり下回る結果となつた。

b 49年度補正予算

49年度補正予算は,財政の抑制的運営が続けられるなかで,総額2兆987億円(前年度9,885億円)にのぼる大規模なものとなつた。これは民間給与の大幅引上げに伴い,公務員給与および生産者米価の大幅な引上げを行つた結果,大規模な追加支出が必要となつたためであり,具体的には①人事院勧告実施に伴う国家公務員の給与改善費7,211億円,②49年度産米の政府買入れ価格引上げに伴う食糧管理特別会計への繰入れ3,076億円,③地方交付税交付金の追加7,843億円などが中心となつている。

こうして49年度補正予算に基づき財政支出は大幅に増加することとなつたが,さらに公共投資についてみても,年度後半にかけ,その支出額は実質値でかなりの増加となつたことに注目する必要がある(本報告 第28図 )。これは物価が落着きをみせてきたことに加え,民間建設工事の大幅な落込みが公共工事の消化を比較的スムーズにし,契約の進捗状況に比べ支払の進捗を高めたこと,物価スライドの適用が契約の大幅な落込みを防いだこと,などのためである。

第8-5表 財政投融資計画の使途別分類(当初ベース)

以上のような財政支出の動きは,一方で金融引締め効果が浸透するなかで進行しつつあつた景気の落込みに対し,ある程度の下支え効果を与えることとなつた。

なお,「きめ細かい配慮」の一環として,住宅金融公庫,中小企業金融公庫等政府系金融機関に対する財政投融資の追加も実施された。

c 第一次,第二次不況対策

48年初来,2年以上に及ぶ総需要抑制の結果,物価はようやく鎮静し,50年に入ると卸売物価は小幅ながら続落するようになつた。しかしながらその反面,不況は一層深刻となり,在庫調整の一巡から景気がおおむね底入れした後も,最終需要の盛上がりが乏しいことから回復への足どりは鈍い。こうしたなかで,景気を着実な回復軌道に乗せる必要があるとの判断から,49年度第4四半期以降,それまでの総需要抑制の枠組は堅持しながらも,政策運営は不況対策を中心とした景気浮揚へと転換することとなつた。そして50年2月14日に第一次不況対策,3月24日に第二次不況対策がそれぞれ決定された。不況対策の主な内容は①49年度第3四半期まで抑制された公共事業等については,第4四半期の契約枠の消化を促進するとともに,50年度の公共事業等についてもその円滑な消化を図る。②中小企業,住宅向け融資を促進する,等が中心になつている。

d 50年度当初予算と第三次不況対策

50年度予算は,引続き総需要管理のもとに,経済を「静かで控え目な」成長に乗せるため極力抑制が図られた。ずなわち予算規模でみると,総額は21兆2,888億円で,対前年度比24.5%の大幅増(49年度19.7%増)になつたものの,景気に対し波及効果の大きい公共事業関係費は2.4%増に圧縮されている。しかし公共事業のうち生活環境施設整備費等に対する支出については,国民福祉の向上を図る観点から前年度に引続き重点配分され,財政投融資計画においても顕著な伸びを示した( 第8-3 , 4 , 5 , 6表 )。その他の特色として,第1は社会保障関係費が拡充され,年金・各種扶助の引上げ,医療費等を中心に前年度比35.8%の大幅増加となり,一般会計に占める比率が,前年の16.9%からさらに18.4%まで高められたことである( 第8-3表 )。第2は,歳入面において,所得税減税が小幅にとどまり,相続税・贈与税が軽減されたことである( 第8-7表 )。第3は,国債発行額は2兆円で,国債依存度は前年度12.6%から9.4%へと低下したことである( 第8-6表 )。

第8-6表 公債依存度の推移

第8-7表 国税における減税状況(当初予算)の推移

一方こうした国家予算に対し,50年度地方財政計画をみると,国と同様に抑制が図られている。その主な具体的内容をみると,第1に,給与関係経費が前年度比48.8%と大幅増になつたことなどを主因に,計画額は総額21兆5,588億円と前年度計画に対し24.1%増と大きな伸びを示したが,投資的経費については11.3%増と低い伸びにとどまつていることである( 第8-8表 )。第2に,歳入面では,一般財源(地方交付税+地方税+地方譲与税)の歳入に占める割合が,前年度19.7%から20.5%へと高まつたものの,自主財源は伸び悩み,地方交付税への依存度が高まつていることである。第3に,新たに都市財源拡充を図るため,事業所税を創設することである(50年度見込額221億円)。

第8-8表 地方財政計画

このように,国・地方いずれも当初ベースでは抑制型の姿勢が貫かれたわけであるが,その後景気回復の足どりが予想以上に遅かつたことから,国の予算について弾力的執行が図られ,50年6月16日には,第三次不況対策として公共事業等について上半期の契約を促進すること,および住宅建設を促進すること,などが決定された。

しかしながら地方については,景気の落ち込みによる税収の伸び悩みと,人件費の上昇などから「財政危機」にひんしている団体も多く,国と同様の弾力的執行が困難なケースが多くなつている。また,国においても税収は伸び悩んでおり,税収不足の問題は,短期的・長期的にも今後の財政運営上,一つの重要な焦点になることが予想される。

(2) 税収不足と今後の財政運営

昭和49年度財政は,税収の伸び悩みに加え人件費増等による歳出の膨張によつて,歳入が歳出を大きく下回るという事態が生じた。ここでは,この原因を検討しつつ,あわせて今後の財政運営のあり方をみてみよう。

a 昭和49年度財政

昭和49年度財政は総需要抑制のおりから,支出抑制を建前としたが,物価上昇による当然増経費の膨張などから,当初予算は前年度比19.7%増とかなり高い増加率となつた。加えて,年末の補正予算は,大幅な給与改善や生産者米価の引上げなどから,2兆987億円と極めて大規模なものとなり,この結果,補正後予算は前年度比25.7%増と大幅に拡大することとなつた。

これに対し補正後歳入予算は,租税及び印紙収入で前年度比22.1%,その他収入で同42.4%の収入増と見込んでいたが,所得税収等の低調から租税及び印紙収入は前年度比10.1%増の低い伸びにとどまり,49年度一般会計は7,707億円弱の税収不足を生ずることとなつた。

このため政府は「国税収納整理資金に関する法律施行令」を改正して,49年度税収として新たに4,330億円を取込むこととしたため,49年度の税収不足額は結局3,377億円となり,これについては日銀納付金等の税外収入の増収および歳出不用によつて補*填された。

49年度のこのような事態はすでにのべたように,歳出の大幅な増加と税収の伸び悩みによつて生じたわけであるが,まず税収についてみると,その伸び悩みの主因は所得税収の落込みにある( 第8-9図 )。所得税収は41-48年度平均で前年度比23.7%増と好調な伸びを続けてきたが,49年度はわずか0.4%増とほぼ横ばいにとどまつている。49年度においては,確定申告における所得の伸びが振るわなかつたこと,土地譲渡所得が大幅に落込んだことなどから申告所得税が前年度比2.5%強の落込みを示したことに加え,源泉所得税が前年度比13.4%増と例年になく低い伸びにとどまつたからである。こうした源泉所得税の低迷は,12月支給の民間ボーナスの水準が予想外に低かつたことによる。このような所得税の落込みに加え,不況によつて年度後半法人税収が落込んだことや個人消費の停滞により間接税が伸び悩んだことなどから,税収は補正後予算に対して大幅に不足することとなつた。

第8-9図 租税及び印紙収入の推移

しかし,こうした税収不足は歳出の急激な拡大も影響している。財政支出は昭和46年度以降急激に拡大し,その伸び率は名目GNPの伸び率を大きく上回るようになつた。これは財政が福祉型に移行しつつあることによるものである。こうした財政運営は当然増経費を拡大させることなどのため,財政支出を増加させることとなる。49年度においては,こうした傾向に加え,物価高騰および人件費の上昇とも相まつて,財政支出は大幅な増加を示す結果となつた。

b 今後の財政運営

すでにのべたように,財政支出は近年急激な拡大を続けており,今後についても福祉充実のための財政需要は傾向的に増加すると考えられる。例えば,わが国の社会保障給付費あるいは振替所得のGNPに対する比率は,西欧諸国に比べなお低い水準にある( 第8-10図 )が,今後,人口の老齢化,年金制度の成熟化に伴つて,現行制度のままでも財政負担は増加する可能性があり,このような事態に対処するため制度面の問題をふくめて適正な方策につき検討する必要があろう。また財政硬直化の一因となつている各種の補助金,食管制度,国鉄財政などについても,支出の効率化,合理化を図る必要がある。今後福祉社会への指向と,その実現に伴い,財政の対GNP比率が拡大した場合,景気変動による税収の増減に合せて財政支出を調整する余地は,せばめられる可能性を生じる。

第8-10図 財政規模の国際比較

このように財政支出が拡大し,その構造が変化する過程では,歳入構造もそれに見合つた形で変化していく必要があろう。この場合もつとも重要なのは歳入の大部分を占める租税のあり方である。わが国の租税収入の推移を財政支出との対比でみると,諸外国に比べて,支出に対して極めて不安定であり,支出の拡大に即応した税収の伸びが確保されていない傾向がある(本報告 第118図 )。これは間接税ウエイトの低落傾向と法人税収の不安定性に起因するところが大きい(本報告 第119図 )が,こうしたことは現行税制では今後の財政支出の拡大,構造変化に対応しきれない面があることを示唆している。

福祉財政においては,税収の変動が少なく,また,ある程度高率の伸び率が確保されるような税制が必要とされる。また,間接税については付加価値税等の導入により,その低落傾向に歯止めをかけ,ある程度の負担増加を図つていくことも考えられる。さらに所得税についても減税のあり方等に対する再検討が迫られよう。

もつともこうした税制については,他面,経済成長の減速,財政のビルトインスタビライザー機能の縮小等の問題もはらんでおり,今後の財政運営にあたつては,これらに充分留意すべきものと考えられる。

さらにまた,こうした税制は個人税についてその負担の増加をもたらす可能性も生じるが,その場合職業別,階層別の負担増加について充分に検討し,不公平を生ずることのないようにしなければならない。このような税負担の公平を実現しまた高福祉も約束されることによつてはじめて高負担も可能となるであろう。


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