昭和49年
年次経済報告
成長経済を超えて
昭和49年8月9日
経済企画庁
48年度の鉱工業生産は,49年1~3月には前期に比べて減少を示したが,48年10~12月までの高い伸びに支えられて前年度比14.8.%増加(47年度10.8%増加)となった。
47年10~12月以降急拡大をみせた生産活動は,48年度に入り供給能力の限度一杯の操業状態となったため増勢はやや緩かになったものの,4~6月には資本財,建設資材,生産財を中心に前期比(季節調整値)で生産は3.9%増,出荷は3.7%増と比較的高い伸びを示した( 第2-1図 )。しかし,7~9月には,相つぐ工場事故や工業用水,電力の不足等から化学,鉄鋼などの生産財,建設資材の生産が制約されたため,生産は2.6%増,出荷も1.9%増と伸びが鈍化した。こうしたなかで,塩ビ樹脂,棒鋼,電線などのもの不足がさわがれ,製品需給はひっ迫の度を加え商品市況も暴騰した。10~12月には,アラブ産油国による原油供給の削減が行なわれ,石油・電力の消費節減措置が講じられた。しかし,企業の節減努力により生産面への影響は小幅にとどまり,また,需要面でも民間設備投資をはじめとする国内需要や海外需要などが旺盛であつたため10~12月の生産,出荷はともに前期比3.0%増と増勢を強めたが,需給のひっ迫基調はなお続いた。
こうした48年度の景気上昇局面の動きを財別にみてみよう。資本財の生産は,設備投資と輸出の好調に支えられて10~12月までの伸びが高く,歴年では前年比30.6%増(除く輸送機械では36.9%増)と過去10年間で最高の伸びを示した。建設資材も,後半には総需要抑制策の影響から伸び悩んだものの前年比17.6%増と42年以来の高い伸びを示した。また,非耐久消費財も消費者の買急ぎ買いだめ行動もあって前年比9.0%増と41年に次ぐ高い伸びを示した。しかし,耐久消費財は輸出の鈍化から9.8%増と40年代前半の20~30%台の高い伸びに比べ著しく鈍化し,47年の伸びをも下回った。このように総じて旺盛な需要に対応して生産財の生産も拡大したが,供給面に制約が生じたため16.0%の伸びにとどまり,内需向け出荷を優先した結果輸出向けの出荷は前年比4.6%の減少となった。
今回の景気上昇局面における生産,出荷の推移を過去の景気上昇局面と比較すると, 第2-2図 にみるように,生産は当初から伸びが低く,出荷も生産の伸びを上回ったものの供給面の制約から過去2回に比べ低い伸びで推移した。また,過去2回の上昇局面と異なり生産能力に余裕が少なく,旺盛な需要に対応した製品在庫積み増しがほとんどできなかったため,製品在庫率指数は48年4~6月以降90を割り,49年1月には82.9とかつてない低水準となった。このため,需給は48年を通じてひっ迫状態を続け,物価上昇を加速した( 第2-3図 )。
こうした需給のひっ迫は,工場事故,工業用水,電力の不足,公害問題等操業を制約する要因が夏季に集中したことや,予期しなかった原油の供給制限が生じたことなど一時的な要因によるところも大きいが,基本的には,製造業の設備投資が47年前半まで停滞し,同年後半から増加に向かいはじめたものの生産能力化するまでに時間がかかり,増加する需要に充分対応できなかったことが大きい。
49年に入ると,石油,電力の消費節減措置が強化され生産活動が制約されるなかで,各財とも一転して出荷が大幅に減少し,需給は緩和に向かった。これは,48年初来続けられてきた総需要抑制策が浸透してきたことによるほか,石油危機に端を発した暴常な物価上昇の結果個人消費支出が実質で減少となるなど消費需要が減少したことによるものである。
こうした需要動向のなかで,多くの業種で,増加する生産コストの製品価格への転嫁を容易にするため,従来の景気調整局面より早めに生産調整を開始する動きがみられたが,需要の減退テンポが予想以上に早く,このため生産者製品在庫は急激に増加し,製品在庫率指数は49年1月の82.9を底に4月には107.0と過去に例をみない急テンポで上昇を示した。
今回の景気の山を49年1月と考え,その前後の時期から下降への転換局面における生産活動の特色を過去の同じ局面と比較してみると,次のようないくつかの点が指摘される。その第1は,従来は景気の転換点をはさむ前後3ヵ月の生産,出荷は,伸び率は低いものの増加するものが多かったが,今回は石油危機の衝撃が加わったため,耐久消費財を除くすべての財で生産,出荷の減少がみられたたことである。またこの時期の耐久消費財の生産,出荷の伸びもきわめて低かった。
第2は,49年3月の各財の出荷が前年同月の水準を下回るなど景気転換の2~4ヵ月後の時期において,それら財の生産,出荷の減少率が大きかったことである。しかも,前回,前々回においては生産・出荷が小幅ながら増加するものと減少するものが相半ばしたのに対し,今回はすべての財が減少したことである。第3は,過去においても景気の転換点をはさむ前後3ヵ月に比べ,転換の2~4ヵ月後に耐久消費財の出荷が減少するという姿が共通してみられたが,今回は17.1%減と前々回(5.2%減),前回(0.1%減)に比べてその落ち込み幅がきわめて大きかったことである。これは,乗用車が価格の引上げやガソリン価格等の維持費の上昇によって買控えられたこと,実質所得の減少や普及率の向上によって民生用電気機械の需要が大幅に減少したためであった。第4は,景気の転換期の2~4ヵ月前から転換期にかけて在庫率がきわめて低かったことおよび転換の2~4ヵ月後の在庫率の上昇が急速であったことである。
しかし,こうした急激な需要の落ち込みは49年4~6月には,輸出の好調,賃金上昇による実質所得の増加などにより,下げ止まりの気配をみせている。
47年1~3月を底に回復に向かった民間在庫投資は,48年4~6月に4兆3,674億円(国民所得ベース,実質,季節調整値,年率)と大幅な増加を示したが,その後7~9月2兆7,270億円,10~12月1兆6,100億円と急テンポの落ち込みを示した。しかし,49年1~3月には1兆8,500億円とやや増加に転じている。
前回の金融引締め期と同様に,今回は引締め後も需要超過感が強まり,在庫投資は急激な減少を示した( 第2-4図 )。これは,前述したような供給能力の制約からもの不足感が多くの業種にみられ,過去に例をみない製品需給のひっ迫が続いたため,投資意欲は強いにもかかわらず意図したとおりに在庫を積み増すことができず,それがますます需給ひっ迫感を強めたためである。
こうした在庫投資の動向を法人企業統計季報により,形態別,業種別にみてみよう。
47年度後半から回復に向かった製品在庫投資は,48年4~6月をピークに減少に転じた( 第2-5表 )。これは,年初来の旺盛な実需に加え,後述するように,流通在庫および原材料在庫の増加がみられる一方で,鉄鋼,化学など素材産業を中心に全般に供給余力が乏しかったため,製品在庫投資を意図したほど積み増すことができなかったことによる。このため,製造業の在庫はきわめて低い水準に落ち込んだ。
業種別にみると,一般機械,電気機械,輸送機械では,47年7~9月を底に在庫投資の増加がみられたが,出荷が予想以上に好調であったため在庫率は低下した。また,繊維では,48年4~6月以降の需要停滞から意図せざる在庫増が続いた。これに対し,鉄鋼,化学,紙パルプなどの素材産業では,47年中は在庫調整を続けていたが,48年に入ると異常な需給ひっ迫から,10~12月まで意図せざる在庫の減小傾向が続いた( 第2-6図 )。
このような需給ひっ迫下における製品在庫の減少は,それらの需要家に資材の入手難と価格の大幅上昇をもたらした。このため,企業は,7~9月以降,先行きの原材科入手状況の一層の悪化を懸念してその備蓄を図ろうとした。この結果,原材料在庫投資は7~9月から10~12月にかけて増加を示したが,こうした各企業の原材料在庫投資行動は,年末にいたりますます原材料生産者の製品在庫水準を低下させ,資材価格の高騰を招く結果となった。
原材料在庫投資の動きを業種別にみると,一般機械,電気機械が需要の拡大と鉄鋼製品の備蓄動機から急増しているほか,これまで原材料在庫水準が低下傾向にあった自動車などの輸送機械も7~9月以降在庫投資を大幅に増加させている( 第2-7図 )。また,鉄鋼,化学,紙パルプなどでは輸入素原材料を中心に価格が大幅に上昇したため在庫投資額は増加した。こうしたなかで,4~6月以降繊維に.また,10~12月には非鉄金属に需要の減退から意図せざる在庫増がみられた。
48年1~3月以来生産の急速な拡大に伴い仕掛品在庫投資は大幅に増加した。とくに,一般機械,電気機械についてはこの傾向が10~12月まで続いた。また,仕掛品在庫投資のなかで大きな割合を占める建設,輸送機械については,7~9月のボトル・ネックによる資材不足が仕掛品在庫投資の急増をもたらしたが,資材不足が峠をこした10~12月にはその反動で大幅な減少をみせた。
従来流通在庫投資は,金融引締めに敏感に反応して在庫調整の先行的役割を果たしたが,今回は,前回と同様従来と異なり大幅な在庫増加がみられた。しかし,販売額も価格上昇により大幅に増加したため,金額でみた在庫率(在庫残高/売上高)はほとんど変わらなかった。このような動きは,供給制約と物価上このような動きは,供給制約と物価上昇が続くなかで値上がり期待や先行きの物価上昇に対するヘッジの意図が強く働き,在庫の取崩しが行われなかったことを示している。
次に,数量ベースの在庫動向を通商産業省調べの販売業者在庫統計により,主要品目についてみると,品目によりかなりの跛行性がみられる( 第2-8図 )。第1は,生産面の制約と旺盛な需要により在庫積み増しがほとんどできなかったもので,鉄鋼,紙がこれに該当する。鉄鋼は,46年1~3月をピークに,初期の在庫調整期を終えた後も意図せざる在庫の減少が48年末まで続いた。紙は,48年4~6月から7~9月にかけて生産者製品在庫が減少するなかで販売業者在庫の増加がみられたが,10~12月には産業間および一般消費者の間に広まった紙不足懸念から販売業者在庫も大幅に減少した。
第2は,好調な需要に対応して48年度前半まで積極的な在庫積み増しを図ってきたが,48年度後半以降需要の減退から意図せざる在庫増がみられたもので,自動車,民生用電気機械がこれに該当する。後者については,49年1~3月に在庫調整の動きがみられた。
第3は,第2と同様に7~9月まで大幅な在庫積み増しを行なってきたが,アラブ産油国の原油供給制限により製品の供給が一時的に制約された石油製品である。10~12月に大幅な在庫の滅少がみられたが,49年1~3月には48年7~9月の水準に回復した。
第4は,需要が不振であるにもかかわらず在庫調整がほとんど進まず,48年4~6月以降緩やかな在庫増加を続けた繊維原料,糸,織物である。これは,一部に在庫調整の動きがありながら,他方に先高期待と金融引締め緩和期待があったためである。49年1~3月にはこうした期待感が消え,一斉に在庫調整が行なわれたものの需要がさらに不振の度を強めたため意図せざる在庫の増加がみられた。
旺盛な需要と生産面の制約により48年10~12月まで低水準に推移してきた在庫投資は,49年1~3月以降需要の減退により増加に転じた。鉱工業生産者製品在庫指数によれば,製品在庫投資は49年2月以降大幅な増加を示しており,流通在庫投資も増加している。こうしたなかで,従来の景気後退時より早めに生産調整を開始して需給をタイトに維持し,増嵩するコストの価格への転嫁を容易にしようとの動きが広くみられる。このため,今後急激に在庫が増加する可能性は少なく,在庫調整も,繊維,自動車,民生用電気機械などを除いては小幅にとどまるものとみられる。また,海外原材料の長期契約が行われている鉄鋼,非鉄金属,紙・パルプ,石油等については,先行き原材料の供給が制約される傾向にあるため輸入を抑制することは困難であり,全体としての原材料在庫投資の減少も小幅にとどまろう。
このように,今回は従来と異なり,在庫投資の減少が景気の後退をリードすることはほとんどないものと考えられる。
47年度後半から上昇に転じた民間設備投資は,48年度には製造業を中心にさらに高い伸びを示した。すなわち,47年度の設備投資の伸び率は,前年度比で9.9%増(国民所得統計,実質)にとどまったが,48年度には16.9%増(同速報)と増勢を強めた。しかし,これを四半期別に前年同期比増加率でみると,48年1~3月から,17.8%増,16.1%増,21.9%増,21.0%増と48年中は高い伸びを示したが,49年1~3月には9.1%増と上昇テンポを緩めた。これは,48年初来続けられてきた総需要抑制策の効果が浸透してきたこと,石油問題発生後の業況の先行不透明による投資の手控えが見られたことなどの要因が重なったためである。
なお,48年度は,設備投資関連資材価格の高騰から設備投資額の名目と実質に大幅な乖離がみられた。国民所得統計でいういわゆる企業設備のインプリシット・デフレーターは,48年7~9月以降前年同期比10%をこえる上昇を示し,49年1~3月には31.9%の上昇となった。
昭和30年度以降のわが国の設備投資の推移を対GNP比率でみると36年度と45年度をピークとする2つの中期的循環がみられる( 第2-9図 )。第2の循環は45年度後半から,2年にわたるストック調整期間を経て終了し,47年度後半から第3の循環の上昇局面がはじまった。
こうして48年度の設備投資は製造業を中心に増勢を強めたが,47年度前半までの設備投資の停滞は48年度の資本ストックの伸びを小幅にとどめた。さらに公害防止投資の増加等による能力資本係数の上昇もあって,生産能力の増加率は過去の景気の上昇局面と比較して小さく,需要の拡大に伴って生産設備の稼働率は上昇し,48年5~6月には前回のピークとほぼ同水準となった( 第2-10図 )。このようなフル操業状態のところに48年夏以降前述のようなボトル・ネックが生じたため,異常な需給ひっ迫状態がもたらされ,同時にこれまで慎重な需要見通しの下で新規投資を抑えてきた企業の投資意欲を盛上がらせた。
48年度の設備投資の増加はこのような中期循環的要因によるほか,労働力不足と資金コストの上昇に対処するための省力化投資や,公害規制の強化に備えるための公害防除投資が増加したことにもよっている。とくに,公害防除投資の量近の増加傾向はめざましく,通商産業省の調査によれば,総投資額に占めるその比率は,45年の5.8%から必年度には10.6%(実績見込み)まで拡大している。なかでも,火力発電(48年度実績見込み25.1%),紙・パルプ(同23.6%),石油精製(同20.3%)などはこの比率が高かった。
このような設備投資の増加は,国民総支出に占める設備投資比率を高め,48年7~9月には23.6%,10~12月には24.7%とこれまでの最高の比率を示した。需給ひっ迫が続くなかでこのような大規模な設備投資を行うことは,中期的には供給力確保に役立つとしても,短期的には設備投資の需要効果を拡大させ,需給の一層のひっ迫を招くことになる。このため,48年度に人ると総需要抑制策が次第に強化され,財政金融政策に加えて,大型建築物(5,000平方メートル以上)の建築抑制,設備投資の削減等の行政指導が行われた。とくに48年8月末には,電気機械など6業種について48年度計画の平均3.8%の削減が行われ,さらに12月には,通商産業省所管業種につき48年度下期計画の平均10.2%の削減が行われた。こうした一連の総需要抑制策の効果浸透などにより,49年1~3月の設備投資は前期比(季節調整値)5.4%の大幅減少となった。
次に設備投資の推移を業種別,規模別にみてみよう( 第2-11図 )。
前回の景気の下降局面においても着実に増加を続けた非製造業設備投資は,景気上昇局面においてさらに増勢を強め48年前半まで高い伸びを続けたあと,総需要抑制策の影響から後半に増勢がやや鈍化した。規模別にみると,大企業では,景気変動の影響が相対的に小さく,48年中も電力,サービスなどで着実に増加がみられたが,10~12月には運輸通信などを中心に減少となった。また,中小企業では,47年度に高い伸びを示したあと48年4~6月に前期比マイナスになるなど増勢が鈍化した。これは,不動産が大幅に減少したためであり,建設,卸小売では前年度後半に引続き高い伸びを示した。
他方,製造業では,48年度に入り大幅な増加がみられ,とくに7~9月以降増勢が強まった。これは,中小企業の設備投資が年間を通じて高い伸びを続けたことに加えて,大企業の設備投資が48年7~9月以降大幅増加となったためである。業種別にみると,年間を通じて,食品,繊維では低調に推移したものの,紙・パルプ,非鉄金属,金属製品,一般機械,電気機械,輸送機械では堅調に推移した。しかし,従来製造業設備投資のなかで大きな割合を占めてきた鉄鋼おこび化学では,それぞれ48年4~6月,7~9月まで2年余りにわたって前年期の投資水準を下回り,48年の後半になってようやく前年水準を上回った。
このような製造業および非製造業の投資動向を反映して,47年上期以来50%を下回っていた全産業設備投資に占める製造業設備投資の比率(「法人企業統計」ベース)は,48年下期にようやく50.8%に回復した( 第2-12表 )。
総需要抑制策が続くなかで,49年1~3月に急激な減少を示した設備投資は,今後どのような方向をたどるであろうか。
まず,潜在的な投資意欲についてみてみよう。48年後半に異常な需給のひっ迫を経験して以来,企業の設備不足感は急激に強まっている。とくに,これまで設備過剰により生産過剰一市況低迷を経験してきた鉄鋼,石油化学,紙・パルプなどにこの傾向が強く,現存の設備では50年度以降の需要に対応した供給力の確保が懸念されている。こうした事実は,先述のように現在の局面が設備投資の中期循環の上昇期にあることを示している。このような状況の下で,総需要抑制策の一環として48年度下期から49年度上期にかけて設備投資が抑制されたため,着工を延期している投資計画がかなりあると考えられる。さらに,投資の実行が不可避なものとして,公害規制の強化に対応するための投資がある。通商産業省の調査によれば,49年度の投資計画に占める公害防除投資額の割合は,製造業全体で16.1%に達し,石油精製(35.2%),火力発電(34.5%),紙・パルプ(28.6%),化学(28.3%)などではとくに大きな割合を占めている。このように,企業の設備投資意欲はきわめて強いものがある。
他方,最近の経済環境の急激な変化が,企業の投資行動を慎重にさせている面もある。第1は,エネルギー,資材,賃金等のコスト上昇傾向が続くなかで,企業が自己の商品の今後の国際的な価格競争力や需要動向について十分に見極めをつけることが困難になっていることである。第2は,建設資材や設備機器の価格急騰により設備投資資金が膨大化し,外部資金に対する依存度が一段と高まらざるをえないことである。第3は,とくに生産財関連産業において,世界的な資源ナショナリズムの高まりから,原油,ナフサ,パルプ材,原料炭等の基礎資源の安定的な確保が困難になっていることである。第4は,公害問題に対する地域,住民の認識の高まりや電力の確保難から新規立地における投資が困難になっていることである。
このような設備投資の制約要因は,中期的には,これまでの装置産業中心の設備投資のパターンを大きく変えるであろう。しかし,49年度についてみれば,化学,鉄鋼,石油精製などのこれまで本格的な設備投資を見合わせてきた装置産業型の業種に強い設備不足感がみられ,大型の設備投資が行われようとしている。また,その他の業種も供給力の増強を急ぐ電力を除いては製造業,非製造業ともに,先行きの見通し難や総需要抑制策の影響から公害防除関連以外の投資を手控える傾向をみせているが,最近では計画の増額修正の動きがみられる( 第2-13図 )。このため,49年度の設備投資は,資材価格の高騰から名目で増加することはもちろん,実質でも底固い動きを示すものとみられる。