昭和49年
年次経済報告
成長経済を超えて
昭和49年8月9日
経済企画庁
第1部 昭和48年度の日本経済
2. 物価急騰の要因と影響
最近のわが国物価の急騰は,戦後経済においても,また国際的にみても,きわだつていた。これまで安定していたわが国の卸売物価は,47年8月から急騰し,45年平均に対する上昇率でみると48年7月には西ドイツを抜き,12月にはアメリカ,イギリスを抜き,フランスとほぼ肩を並べた。主要6ヵ国で日本より高いのは,イタリアだけとなつた。消費者物価も48年3月から急騰に転じ,同じく45年平均に対する上昇率でみると,12月には主要6ヵ国中最も高かつたイギリスを抜いて,日本が一番高くなつた( 第I-2-1図 )。
このように,わが国の物価が急騰ヘ転じた原因はどこにあつたか。
物価急騰の中心は卸売物価であつた。その上昇要因を分解してみると,48年度中の上昇率(49年1~3月の前年同期比)35.4%のうち,約4割が国内需給ひつ迫による分,約6割が原油やその他一次産品市況高騰など海外要因に基づものくと考えられる。(第I-2-2図)このほか,卸売物価上昇の要因としては,賃金コストの上昇があげられるが,48年度中については,その影響はきわめて小さかつた。
国内需給要因と海外要因について,時期別にその推移をみると,48年1~3月には,47年秋口から生じた海外一次産品価格急騰の影響が大きかつた。その後,48年度に入り需給ひつ迫が進むにつれ,国内需給要因による上昇分が急速にウェイトを増し,とくに工場事故や用水不足に基づく物不足が表面化した7~9月には著しい高まりをみせた。さらに,48年秋になると,石油危機の発生を契機として海外要因が再び増大した。一方,国内需給要因もインフレ心理の強調も加わつて大幅に拡大し,両者あいまつて異常な卸売物価の急騰をもたらした( 第I-2-3 , 4 )。
いま,消費者物価の上昇寄与度を特殊分類によつてみると,工業製品の比重が高く,その上昇につれて全体の上昇率が高くなつており,とくに,48年12月頃から大企業性工業製品の比重が高まつている( 第I-2-5図 )。従来,消費者物価の上昇は,サービスと農水畜産物が主役で,工業製品の影響は小さかつた。しかし,最近の急騰の主役は工業製品へ移り,しかも,従来最も安定していた大企業性製品が比重を急速に高めるというパターンに変わつている。これは,従来の消費者物価上昇パターンが生産性格差インフレーションとよばれる性格が強かつたものの,最近では卸売物価の急騰が消費者物価上昇の要因となつたことを物語つている。つまり,消費者物価は卸売物価の上昇に強く影響されるようになつたのである。このことは,両者の時差相関係数をとつてみるとき,相関係数の値が過去に比べて著しく高まり,また卸売物価から消費者物価への波及のタイム・ラグが6ヵ月から3ヵ月程度に短縮されていることにもあらわれている(第I-2-6図)。