昭和48年
年次経済報告
インフレなき福祉をめざして
昭和48年8月10日
経済企画庁
第2章 世界経済の動向と国際収支
昭和47年度のわが国経済にとつて,国際収支の黒字不均衡を是正することは前年から引続く大きな課題であつた。46年末多国間通貨調整の一環として行なわれた大幅な円切上げは,そのための努力の第一歩であつた。しかし,47年に入つてからも貿易収支の黒字はいぜんとして大きく,景気の拡大,輸出の適正化,輸入の促進など対外経済政策の実施を通じて,対外均衡達成への努力が続けられてきた。一方,世界的にみても,多国間通貨調整後,各国の景気は拡大に向かい,物価上昇率が急激に高まるなかで,アメリカの国際収支赤字はおさまらず,各国の対外不均衡はいぜんとして解消しなかつた。こうした事情を背景にドル不信は根強く,国際通貨不安が再燃し48年2月におけるドルの対SDR10%切下げ後,わが国を含め主要国通貨は変動相場へと移行した。その結果,わが国の為替レートは1ドル=265円程度とおよそ対ドル16%の上昇を示したが,景気の急速な拡大による輸入の急増などから貿易収支の黒字は大幅に縮小し,国際収支の均衡という目標に向かつて前進しつつある。
47年度における動きをみれば,わが国の国際収支は国内における景気動向や貿易構造のみならず,世界経済全体の動きと密接なつながりをもつていることがわかる。
同時に,わが国の動きが世界に与える影響も近年大きくなつており,通貨調整やその他の対外経済政策の効果も世界経済とのかかわり合いを無視して語ることはできない。
本章では,わが国の国際収支の動向,とくに円切上げの効果を世界経済との関連で検討し,変動相場制移行の日本経済に対してもつ意義を明らかにするとともに,進展する国際化のなかでわが国のとるべき対外経済政策の方向を考えることにしたい。