昭和47年
年次経済報告
新しい福祉社会の建設
昭和47年8月1日
経済企画庁
45年春の万国博建設の終了と,同年秋以降の景気後退の中で建設活動の増勢は低下をたどつた。46年度にはいつて公共事業契約の上期への繰上げ(上期に72.2%),その後の補正予算の成立(2,447億円)などによつて公共事業関係の建設活動は比較的堅調な動きを示したが,鉱工業を中心とする民間非住宅建設は引続き停滞を示した。また住宅建設は46年前半に落ち込んだあと,秋以降,金融の大幅緩和を背景に回復に転じたものの46年度の増加率は45年度をかなり下回つた。
ここ数年間の建設投資の動きを建設省調べ「建設投資推計」でみると, 第6-1表 に示すように民間,政府を合せた投資総額は,42年から44年にかけて年率20%を越える高い伸びを示したが,45年度には16.8%増,ついで46年度(実績見込み)には14.6%増,16兆8,000億円と伸びは低下した。
これを前回の景気後退過程と比較すると,39年度の21.7%増から40年度には9.0%増と,著しい鈍化を示したが,今回は前回以上の財政面からの刺戟が行なわれたこともあつて,46年度の建設投資は比較的高い伸びを維持した。建築,土木別には建築投資は,前回(40年度)と同様に,今回もその増加率は45年度の18.5%増から46年度には10.2%増へと下がり,低い伸びとなつたが,内容的には前回は住宅が堅調を続け,非住宅建築が大きく減少したのに対して,今回は逆に住宅が鎮静化し,非住宅は小幅ながら前年を上回つたことが大きな相違点であつた。また土木建設投資では,公共事業以外(民間土木)の投資の伸び率が46年度に再び高水準となつたのに加えて,公共事業関係の投資も前年度比27.5%増と大幅にふえた( 第6-1表 )。
46年度の建設活動を受注面からみると,建設工事受注総額(大手第一次43社)は,前年度比21.0%増の4兆3,600億円と,景気停滞にもかかわらず比較的堅調な伸びを示していた。民間からの受注は前年度比13.1%増で,製造業部門で化学工業,鉄鋼業,機械工業などの不振から前年度比23.4%減と大幅に減少した。これに対して非製造業部門では,農林漁業,鉱業を除いて堅調に推移しており,前年度比33.3%増と44年度以降年率30%を越える高い伸びを続けている。一方,官公庁からの受注は前年度比35.0%増で40年度の35.8%増にほぼ匹敵する高い伸びとなつた。工事種別には,こうした官公需の好調から土木工事が前年度比33.3%増と伸びを示しているが,建築工事は同13.5%増にとどまつた( 第6-2表 )。
一方,住宅建設の動向を住宅着工統計によつてみてみると,46年度の新設住宅着工戸数は153万戸で前年度比2.8%の微増にとどまつた。これは民間資金による着工が前年度比1.0%減となつたことと,公的資金住宅もこれまでの高い増勢が13.6%増と比較的低い伸びとなつたことがその理由である。民間資金による建設が停滞しているのは給与住宅の建設が前年度比30.8%減と大幅に減少したのをはじめ,貸家(同0.6%減),持家(同1.1%増)がいずれも前年度とほぼ同じ水準にとどまつたためである。しかし46年度後半には貸家,その他住宅(おもに分譲)の建設を中心として民間資金住宅は増加基調に転じている。また公的資金住宅の建設は,公営住宅の建設が資金難等から前年度比1.9%減となつたことや,公団による建設も用地難等から同11.2%増にとどまつたため全体として13.6%増と42~44年当時に比べて低い伸びとなつた。しかし公庫融資による住宅建設は,金融の大幅緩和を背景に民間金融機関の住宅ローンの積極化のなかで,それとの協調融資もあつて前年度比26.7%増と大幅な伸びを示した点は注目される( 第6-3表 )。
すでにみたように46年度の建設投資は,前年度比14.6%増と,同じ景気後退下の40年度(前年度比9.0%増)に比べて,かなり高い伸びを示したが,ここでは,建設受注および住宅着工の面から,過去の37年,40年の景気後退局面と比較してみよう。
建設受注総額(大手第一次43社)は,過去2回の景気局面では,いずれも景気の山(36年12月,39年10月)の約半年前から停滞し,その後減少に転じたあと,約1年後にはほぼもとの水準に回復するというパターンをとつている。これに対して今回は,景気の山(45年7月)をはさんで約半年間停滞を示したが,ほとんど受注は減少せず,その後46年々初以降,再び増勢を続けた点が特徴的であつた( 第6-4図 )。こうした今回の特徴を,発注先別にみると,民間製造業では過去の景気後退過程と同じく景気の山(今回は45年7月)以前の45年々央から減少しはじめ,その後一高一低をたどり,46年々度間では前年度に比べて23.4%減と大幅に減少した。ただ民間製造業からの受注は受注総額のなかで占める比重は45年度20.5%,46年度13.0%と低く,このためそれが受注全体の動向に与える影響が小さくなつていることが,過去の景気後退期と大きく異なつている。
これに対して民間非製造業からの受注は,今回は過去の景気後退期と大きく異なり,景気の山後,多少受注の停滞がみられたが,ほぼ一貫して増加基調を続け,この結果46年度は45年度の30.5%増に引続き33.3%増と大幅にふえた。これには不動産業・レジャー産業などで活発な建設活動を続けたことがその主因であつた。
このような民間受注の動きに対して,官公庁からの受注は,37年,40年不況時とほぼ同様な伸びを続けているが,46年度は積極的な公共事業面からの景気浮揚策の展開もあつて,前年度比で35.0%増と,37年度(前年度比16.3%増)を大きく上回り,40年度(同35.8%増)とほぼ同じ高い伸びを示し,建設受注全体の下支え効果は大きかつた。
一方,住宅着工の動向をみると,これまでの景気後退局面においては,着工戸数の停滞はみられたが,減少基調に転ずることはなかつた。しかしながら今回は,景気の山(45年7月)のあと着工戸数は減少を示した。その後46年度にはいつて4~6月期を底に,それ以降再び回復過程をたどつている(本報告第1章 第1-23図 参照)。
46年度の公共事業関連の建設活動は,公共事業の上期繰上げ契約・補正予算の実施などにより活発に行なわれたが,ここで46年度の新規公共工事が建設活動へ与えた影響をみてみよう。
46年度における公共工事着工総工事額(評価額,統計脱漏補正済)は6兆7,782億円に達したとみられるが,これは45年度に対して29.1%増となり,同じべースの45年度の伸び率23.8%増をはるかに上回つている。
この総工事額を工事種類ごとに建築主体工事と,土木主体工事とにわけてみると,両者の割合は65対35(46年度)となつている。このうち土木主体工事は45年度の18%増(前年度比)から46年度には36%増(同)と大幅な増加を示したのに対して,建築主体工事は逆にこの間33%増から23%増へと増勢が低下している( 第6-5図 )。さらに工事別内容をみると土木の中では,下水道,公園(前年度比43%増),治山・治水(同34%増),道路(同32%増)などがいずれも46年度には大幅にふえ,これに対して建築では,公的住宅(前年度比10%増),教育,病院(同20%増)などが相対的に小幅な増加にとどまつた。これらの動行は,予算によつてあらかじめ決定されているという側面もあるが,都市における公共施設の建設が,土地の取得難等からしだいに困難となつてきているためもある。たとえば公共事業における土地造成着工(工事費予定額)をみても,44年度の124%(前年度比)増から,45年度同43%増,46年度(2772億円),同23%増としだいにその伸びは低下を示している。とくに46年度においては年度初め以降減少をつづけている。
このように46年度の公共事業は土木主体工事の好調,建築主体工事の増勢鈍化という特徴がみられた。ここで補正予算等財政面から刺戟策が過去のすう勢からみて,46年度の公共工事にどの程度上積みされ,どのような効果を及ぼしたかを試算してみよう。
46年度公共工事の過去のすう勢からのかい離を推算すると工事費で建築は230億円,土木は5,500億円,合計で5,730億円となり,約96%が土木主体工事となつている( 第6-6表 )。また,すう勢に対する増加分の割合は,建築1%,土木14%で,合計では約9%の増加となり,このことからみても,46年度の公共工事が建築工事よりも土木工事に与えた影響が大きかつたのがわかる。
建設投入労働力についてみると延就業者数では,46年度着工分に対し合計で約5億1百万人・日(300日換算で167万人)となり,このうちすう勢からのかい離分は99百万人・日(同33,000人)である。これはすう勢に対し24%増となり,工事費増加分よりそうとうに大きい。このように工事費の増加分と就業者数の増加分が異なつているのは,ひとつには,従来は建設活動の機械化が進み建設労務者数の伸びのすう勢が,工事費ほど強くなかつたが,46年度には失業対策事業等労働集約的な事業が多く行なわれたことによるものと考えられる。
つぎに,以上のような着工から実際の施工がどのように行なわれているかみてみよう。まず,公共工事の工期について工事額ウエイトでみると,土木工事には2年を越える長期工事が約7%あるが,最も多いのは5ヵ月から6ヵ月の工事で,半年以内の工期のものが50%を越えている。また建築工事は5ヵ月から9ヵ月にわたるものが最も多く,平均して土木工事よりは幾分工期が長い。一方,工期が同じ工事の施工高分布状況を土木と建築を比較してみると,建築は土木に比べ施工は早い。たとえば,工期3ヵ月の工事で,建築工事では1ヵ月目に約25%の施工が行なわれているのに対して,土木では約17%にしかすぎない。しかし工期が半年を越えるものについては,両者の間には大差はない。以上のような工期と施工の分布から,着工後の出来高を試算してみると,施工のピークは土木では着工後3ヵ月目,建築では着工後2ヵ月目にあり,施工が全体の50%を越えるのは,ともに着工後4ヵ月目である。これは,公共工事の1次的な波及効果が,着工後ほぼ3ヵ月のタイムラグをもつて本格的に現われることを意味している。
このような施工の分布を先にみた46年度着工の公共工事にあてはめてみると,これらのうち年度内に施工されたのは,建築で69%,土木で74%,合計で72%とみられる。また補正予算等の政策効果(すう勢からのかい離)が,46年度内に公共工事で実効を持つたのは,約4,000億円とみられる。これに対する延就業者数は46年度内の政策効果73%の約6,800万人・日である。これは就業者1人の年間就業日数を300日とすると,1日当たり約23万人の雇用機会を創出したとみられる。
他方,資材に対する需要効果をみると,46年度着工分全体について,セメントが約3,800万トン,鋼材が約900万トン,骨材が約700万トンとなり,いずれもこのうち10%前後が補正予算等の効果とみられる。
最近の住宅建設は,42年度以降毎年100万戸を越え,住宅着工統計によれば,46年度には153万戸に達したが,その増勢は42~44年度の年率15%以上という高い伸びから,45年度には前年度比5.9%増,さらに46年度には2.8%増とかなり低下を示している。これには45年後半以降の今回の景気後退の影響が強くあらわれ,いわば循環的要因と,さらに加えて大都市圏を中心とする土地の高騰による住宅用地の取得難という構造的要因が重なつて起きているためと考えられる。しかし住宅の潜在的需要はきわめて大きく,国民福祉の充実にとつて住宅事情の改善がますます必要となつているが,土地を含めて住宅価格の高騰は著しく,決して購入しやすいものではないのが現実の姿である。住宅が量的にも質的にも改善されることは重要な政策課題であるが,そのためには住宅の需要を適格に把握することが,今後の土地を含めた供給体制を確立するうえできわめて重要である。そこで住宅スペースの面から住宅の潜在需要を考察してみよう。
健康な住生活を行なうための住宅の最低基準としては,食・寝分離と分離就寝をはかる必要がある。分離就寝とは,夫婦は1室6畳とし,幼児以外は夫婦と別室を持ち,夫婦以外の男女は別室をもつ,などという基準である。これに食・寝の場を区別することを加味すると,居住スペースとして必要な広さは,世帯の年令構成によつても左右されるが①世帯人員数Nに対して,ほぼ5.0+2.5N畳の広さが物理的に最低限必要な目安となるであろう(ケース①)。さらに多少は文化的な生活をも考慮したものとして,1人1室という基準がある。②これは居間を加えて,1+N室と表わすことができ,この一室の広さは最低規準として4.5畳が考えられる(ケース②)。③またゆとりを持つためには6畳は必要であろう(ケース③)。この3つの基準をもとに43年の「住宅統計調査(総理府統計局調べ)」をみると,準世帯(主に独身世帯)も含めて全国でケース①を満たしえない世帯が38%(全世帯2,889万世帯中1,088万世帯)あり,ケース②でみるとそれに満たない世帯は63%(同1.812万世帯)となる。さらにケース③に満たない世帯は全世帯のうち81%(2.330万世帯)にものぼり,いかにわが国の住宅が貧弱な状態にあるかがわかる( 第6-7表 )。
もつともこのような狭小な住宅状態を解消するにあたつて,かりに現在多人数世帯が居住している不適正利用住宅を小人数世帯に護り,また現存する空家を活用するものとすれば,絶対的不足数は,43年現在でケース①では総世帯数のうち約16%の474万戸となり,またケース②では27%の778万戸,ケース③では40%の1,168万戸に達する。
つぎに,厚生省人口問題研究所の「昭和55年の都道府県別人口,世帯数予測(46年7月)」により,人口の地域別移動と世帯構成の変化を加味したうえで,43年から55年までに必要な住宅の潜在需要を推計してみると,ケース①では約2,000万戸,ケース②では約2,200万戸,ケース③では約2,400万戸となる。これらの戸数は「43年住宅統計調査」における住宅総戸数の約7割にあたる。ちなみに,近年の住宅建設戸数は年間150万戸を越えている。
一方,こうした住宅潜在需要に必要な住宅スペース(延床面積)はどうであろうか。
50平方メートル,100平方メートルを境いにして区切つてみると,ケース①では世帯人員数がふえてもほぼ100平方メートル以内の住戸だけですむが,ケース③を満たすためには約5割が100平方メートル以上の広さを持ち,約3割が50~100平方メートルの広さを持つていなければならない( 第6-8表 )。これに対し住宅着工の現状をみると,しだいにその広さは拡大してはいるが,46年1年間をとつてみても,50平方メートル以下が約4割,50~100平方メートルも4割強で,100平方メートル以上は約2割弱に過ぎず狭小な住宅建設の比重が大きい。この規模の分布はケース①は満たすことができるが,ケース②を満たすためにはもう半室ぐらい広い住宅が必要であり,さらにケース③を満たすためには1~2室広い必要がある。もし住宅の耐用年数を考慮し,将来の所得水準にみあつた住宅の整備を考えるならば,今後建設される住宅は,大幅に規模が拡大されていく必要があろう。
また,以上の住宅の潜在需要量の推計は,住宅市場が完全に整備され,各世帯は世帯人員に応じて住居の変更ができるということを前提としているため,実際の住宅必要量は,これを上回るものと思われる。
最近年における都市の住宅建設には,本報告でもみたように,地価の高騰,公共施設未整備など様々な問題が横たわつており,これら住宅をめぐる諸条件が解決されないかぎり,国民福祉の向上にとつてゆとりある住生活の確保は困難である。また,こうしたぼう大な潜在需要が喚起されるには,住宅建設のコストの引下げとそれに対応した住宅産業のあり方が,いまこそ問われているといえるだろう。