昭和47年
年次経済報告
新しい福祉社会の建設
昭和47年8月1日
経済企画庁
本日,昭和47年度年次経済報告(経済白書)を閣議に報告いたしました。
本年度の白書は,「新しい福祉社会の建設」という副題の下に,国際経済の激動の中での波乱に富んだ1年を回顧し,今後の日本経済のあり方について述べています。
白書の公表にあたり,私は,次の諸点を強調いたしたいと存じます。
1.(経済の動向)日本経済は昨年12月を底として,本年に入り,ゆるやかながら堅調な回復過程をたどつています。
国際経済も,アメリカをはじめヨーロッパ諸国でも,回復に向かつておりますが,国際通貨体制をめぐる不安定要因は,完全には,解消しているとは申せません。
2.(成長パターンの転換)こうした中で,日本経済は,従来の輸出・生産第一主義をあらため,福祉充実と国際協調のための政策を,積極的に推進する必要があります。
3.(調和のとれた発展)すなわち,日本経済が当面する課題は,一には景気の確実な回復(すなわち需給ギャップの解消),二には国際収支の均衡(国際収支ギャップの解消),三には福祉の充実(成長と福祉のギャップの解消)をはかることであります。
4.(新しい福祉社会の実現)新しい福祉社会の実現は,国民のひとしく希望するところであります。最近の経済企画庁の国民選好度調査によれば,国民は,物価の安定を特に希望し,また,公害の防除など環境保全を強く要望しております。こうした国民の要請に応えるためには,過去の高度成長期に形成された多くの制度・慣行を改めることが必要であります。この点は最近,段々と改められつつありますが,いまなお残存しているものがあり,この際,徹底的に見直す必要があります。
5.(今後の進め方)経済企画庁としては,本格的な作業を進めつつある新しい長期計画の策定と,新全国総合開発計画の総点検などのなかに,この白書の「新しい福祉社会の建設」という趣旨をいかし,その具体化に努めてまいりたいと存じます。
白書の問題点の提起が,国民各位の建設的批判を通じて,今後の日本経済の進路を決定するために,いささかでも貢献することができればまことに幸いです。
昭和47年8月1日
有田 喜一
経済企画庁長官