昭和46年

年次経済報告

内外均衡達成への道

昭和46年7月30日

経済企画庁


[目次] [年次リスト]

12. 国民生活

(1) 概  況

昭和45年度の日本経済は41年からはじまつた長期にわたる景気上昇にピリオドをうち,とくに8月頃を山として景気は急速に停滞色を強めた。こうした中で個人消費支出はきわめて高い伸びをみせ,年度前半は前期好況の最終ラウンドを万国博消費の中心として盛り上げ,年度後半は耐久財支出の後退をサービス支出増で補ないながら景気の下支えをした。以下45年度の個人消費支出についていくつかの特徴を述べてみよう。

第1に,個人消費支出は40年度を底としてその増加率が加速度的に上昇してきたが,45年度は前年度比16.2%増と38年度の17.2%増以来の高い伸び率を示した。これを世帯区分別にみると勤労者世帯は44年度の11.6%から45年度は13.5%と著しく伸びを高め最近にない高い上昇となり個人消費支出堅調の主因となつた。非農家の一般世帯でも45年度は11.6%増と前年度を上回り,一方農業所得の不振からこのところ伸び悩み気味の農家世帯でも45年度の伸び率は13.3%と,ここ数年間では一番高い伸び率を示した。

第12-1表 消費関連指標(前年度比伸び率)

このような高い消費支出を支えたのは景気調整下にもかかわらず所得の高い伸びがつづいたからであるが,とくに労働力不足を背景に賃金の上昇が著しく賃金が所得の9割以上を占める勤労者世帯では45年度の可処分所得の伸び率が15.3%増と,44年度の12.9%増から急増したのをはじめ,農家世帯でも賃金が主体の農外所得は44年度の20.4%増から45年度は22.6%増ときわめて大幅な上昇となつた。

しかしこのように名目的にはすこぶる好調な伸びを示した消費支出であるが,消費者物価の上昇が前年度比7.3%増と44年度6.4%増をさらに上回る近来にない高い上昇となつたため,実質消費でみると45年度は8.1%増と44年度の9.2%増からやや伸び率が鈍化した。なかでも農家家計消費支出は生活用品価格が従来の4%台の上昇率から45年度は7.3%の大幅な上昇となつたため実質では44年度の10.3%増から45年度は4.8%増へと急減した。

第12-2表 消費パターンの変化(1)

第2に消費パターンの変化である。消費におけるサービス・支出構成比の増加はすう勢的につづいているが,45年度はこれに耐久財のやや循環的な低下局面も重なり年度の途中から消費のリード役が耐久財支出からサービス支出へ急速に転換した。45年4~6月期まできわめて高い伸びを示してきた耐久財支出が,カラーテレビの買い控え問題などの特殊要因もあつたものの,耐久財全般に普及率の高まりがみられ,さらに今後伸びが期待されているクーラーや応接セットなどの大型商品が狭隘な居住面積の制約などからもうひとつ伸び悩むなどの諸条件が重なり7~9月期に入ると伸び率が大幅に鈍化した。これに対し万国博開始を機に急増したサービス支出はその後も高水準の伸びがつづき,とくに耐久財の消費支出全体に占める比重が7%台なのに比べ,サービス支出は4割に近いため(総理府統計局「家計調査」全国勤労者世帯)その寄与率も大きく,伸び率の鈍化した耐久財支出を補い消費支出全体の伸び率上昇を支えた。

第3に景気との関連で消費の動きをみると,景気の屈折しはじめた7~9月期を中心に個人消費支出も微妙な変化があらわれている。国民所得統計(速報)により個人消費支出を四半期別に前期比増加率(季節調整値)をみると45年4~6月4.3%増,7~9月4.5%増のあと10~12月3.1%増,46年1~3月3.1%増と増勢が鈍化しており景気後退局面に入つた中でひとり消費のみが一本調子で伸びたわけではない。これまでわが国では経済全体がダイナミックに循環しながら成長する中にあつて消費は相対的に安定した動きを示していたので景気後退期には景気の下支え要因として大きな力を発揮している。これは 第12-3図 にみるようにアメリカ,イギリスをはじめとする先進諸国では,個人消費の伸び率の動きが国民総支出の伸び率の動きと同調し,しばしば景気後退期で国民総支出の伸び率を下回り景気停滞に拍車をかけているのと対照的である。国民総支出に対する個人消費支出の増加寄与率をみると, 第12-4図 に示すように44年1~3月期をピークに減少をつづけていたが45年1~3月期を底に景気停滞が広がりをみせはじめる中で徐々に高まり,4~6月47.5%,7~9月68.2%,10~12月73.6%と下支えの役割が増大しつつある。

以上45年度の個人消費支出のいくつかの特徴についてみてきたが,以下では主として勤労者世帯の家計収支についてその内容をみてみよう。

第12-3図 先進国の国民総支出並びに個人消費支出の推移 (前年比伸び率)

第12-4図 国民総支出に対する個人消費支出の増加寄与率

(2) 好調な勤労者世帯の所得の伸び

昭和45年度の勤労者世帯の家計収入は,きわめて順調な伸びを示した。家計調査(総理府統計局)によると,全国勤労者世帯の所得は,前年度対比で実収入15.7%,可処分所得15.3%の増加となつた。いずれも過去のピークである44年度の伸びを大幅に上回る上昇である。その結果,手取り収入である可処分所得は,月平均で初めて10万円をこえる106,300円となつた。

第12-5表 全国勤労者世帯家計収入の推移

勤労者世帯の家計収入は,9割以上が賃金であるが,こうした高い所得上昇をもたらしたのも,41年以降の長期にわたる好景気が労働力不足に拍車をかけ,これにともない賃金が大幅に上昇したことによる。毎月勤労統計調査(従業員30人以上の事業所)によると現金給与総額の伸びは,45年度17.3%と30年代以降最高の伸び率を示した。

収入の内訳についてみると第1に,実収入の8割以上を占める世帯主収入が対前年度比,15.8%増という高い伸びを示したことがあげられる。これは主として賞与を中心とする臨時収入が44年度の前年度比伸び率24.2%増に引続き20.4%増ときわめて高い伸びとなつたことによる。臨時収入は,40年不況のあと景気の持続的拡大がはじまつた41年以降常に実収入の伸びを上回り家計収入増大の原動力となつている。

第2に,世帯主以外の世帯員収入や事業内職収入なども高い伸びを示しており,引続き収入源の多様化が進んでいる。しかし,42年度17.1%増,43年度14.3%増,44年度16.5%増と高い伸びをつづけてきた妻の収入が,45年度は10.7%増と若干増勢が鈍化した。

こうして景気後退の年にもかかわらず年度間でみるときわめて好調な伸びを示した家計収入であるが,景気の動きとまつたく無関係であつたわけではない。たとえば,①可処分所得の伸びを四半期別に前年同期比でみると,4~6月15.6%増,7~9年15.6%増,10~12月16.6%増と増加率が次第に高まつたものの,46年1~3月は13.5%と鈍化している。②また景気の動きに敏感な超過勤務手当など(賞与を除く臨時収入)の場合は,45年度の伸び率は13.7%増となつており,43年度の25.4%増,44年度の48.1%増に比べると年度間でみても大幅な鈍化がみられる。このように,家計収入においても景気停滞の影響があらわれている。

また消費者物価の上昇を除いた実質所得の面でみると,45年度は消費者物価の上昇が7.3%と最近にない高い上昇となつたため実収入の実質増加率は7.8%増,同じく可処分所得が7.4%増と名目の伸びの約半分を物価上昇に吸収された。しかしそれでもこの実質増加率は,44年度のそれぞれ5.8%,6.1%を上回つたのはもちろん,さらに最近では目立つて増加率の高かつた42年度の同じく6.7%,7.0%をも大幅に上回る上昇となつた。

(3) 家計消費の動向

こうして近来にない大幅な所得上昇に支えられて45年度全国勤労者世帯の消費支出は,13.5%の増加となり43,44年度の11%台を大幅に上回つた。これに対し消費者物価の影響を除いた実質でみると,45年度の前年度比増加率は,5.8%増となり,43年度の6.3%にはおよばなかつたものの42年度の5.4%,44年度の4.9%を上回る高い伸び率となつた。

また,四半期別の推移を対前年同期比でみると45年に入つてから1~3月13.2%と13%台を上回つたあと,万国博消費の影響もうけて4~6月14.0%,7~9月14.1%とさらに伸び率が高まつたが,7~9月をピークに10~12月13.6%,46年1~3月12.2%と増勢がやや鈍化した。

第12-6表 全国勤労者世帯,費目別消費支出増加率,増加寄与率

家計消費を費目別にみると住居費以外はすべての費目で前年度の上回る伸び率となつたそしてその内容をみると次のようないくつかの特徴がみられる。

第1には,名目の伸び率は高いが物価上昇にくわれて実質の伸び率がきわめて低かつたものに「食料費」と「被服費」がある。「食料費」は,44年度に前年度比増加率10.2%と近年にない高い伸びを示したのにつづき,45年度は,さらにこれを上回る11.0%の増加となつた。しかし,生鮮魚介,野菜,果物を中心として価格高騰がつづいたため,「食料費」の価格上昇は7.9%となり実質では2.9%と前年度の1.8%は上回つたものの引続きわずかな伸び率にとどまつた。だが,この中で,肉類が名目で12.4%,実質で9.2%増加したのをはじめ,酒類・飲料などのし好食品が増加する等引続き食生活の多様化が進んでいる。

第12-7図 消費者物価の上昇と実質消費支出

一方,「被服費」も前年度に比較して13.2%の増加と名目的には最近にない高い伸び率となつた。とくに和服が16.6%,シャツ下着が16.5%伸びたのが目立つ。しかし,45年度の「被服費」の価格上昇は9.5%と44年度の5.6%に比べても高い伸びとなつたため,実質では3.3%増と前年度と同じ低い伸び率にとどまつた。このように,「食料費」も「被服費」も同じように価格上昇が激しかつたが,その中味をみてみると, 第12-7図 のように,食料の場合は値上がりが著しいものへの消費はできるだけ抑え,相対的に価格上昇率の低いものへの消費によつてこれを代替する動きがみられるなど比較的価格に対して敏感な行動をとつている。しかし同じ消費者が,被服については婦人長くつ下を除くと価格上昇と実質消費の間にはつきりした相関がなく,食料のような価格に対する適応がみられない。また 第12-8表 のように被服を購入する際に価格の比重が極めて小さいという調査もある。最近急速な生活水準の向上につれて量的充足を終えた被服に対する需要は,個性化し,ファッション化しつつある。このような需要の多様化が生産ロットの小口化をもたらしコストアップにつながつていることは見逃せない。たとえば最近の調査(通産省「衣料品の価格について」)によれば,10年前には1メーカーあたり30種類の生産を行なえば充分であつた背広が,現在では70~80種類も心要となつているという。もちろんこれだけが原因ではないであろうが38年から45年までの7年間に名目では1.9倍に伸びた背広への支出が,実質では1.2倍の伸びにとどまり大半が価格上昇にくわれている。こういう点からみると「食料費」の価格上昇がどちらかといえば供給サイドの要因が強いのに対し,「被服費」についてはその他に,個性化されてきた消費者の需要構造にもその一因があるものとみられよう。

第12-8表 衣料品購入の際の留意点

第2の特徴としてあけられるのは,「住居費」の増勢鈍化と「雑費」の好調である。「住居費」は,カラーテレビを中心に43,44年度と20%台の増加をつづけた家具什器が,45年夏頃から急速な低下を示し年度間では5.5%の伸び率にとどまつたことが大きく響いた。一方,「雑費」は,前年度比16.5%増と最近数年間では最高の伸びを示した。これは万国博消費の影響もあつて旅行費を含む教養娯楽費が17.0%と伸びたほか,自動車等関連費が41.2%,交際費などが19.9%など全般的に高い増加を示したことによる。

さらに目立つのは,実質消費の動きである。「雑費」の支出増加はともすれば物価上昇にくわれて,名目では高い伸びをみせても実質では比較的低い伸びにとどまることが多いが,45年度は実質でも9.6%ときわめて高い伸びとなつた。一方「住居費」は,家賃地代や設備修繕費など価格上昇率の高いものもあるが,家具什器の価格上昇率はかなり低く,そのため全体としては物価上昇率が低く,従つて実質の伸びも高かつた。

しかし45年度は,家具什器の価格上昇率が若干高まつた反面家具什器消費支出の伸び率が大幅に鈍化したため「住居費」の実質伸び率は3.3%ときわめて低い伸びにとどまり,前年度までと対照的な動きとなつた。

第3に電化製品や瞬間ガス湯わかし器の普及などによる家庭のエネルギー消費面における向上を反映して,「光熱費」が44年度の9.8%から45年度は11.6%に上昇した。また,実質でも44年度の9.2%に引続き,8.5%増と高水準の伸びを示したが,前年度は1.5%増と落着いた電気,ガス以外の光熱費(プロパンガス等)の物価上昇率が,45年度は7.4%と急騰したのが目立つた。

第4に以上のような消費支出の動向を背景し,消費の教養レジャー化がさらに一段と進んだことである。前述のように旅行費が44年に比べて33.1%増と爆発的な伸びをみせたほか,スポーツ関連の支出が同じく27.0%増,外食が15.4%増など教養レジャー関連支出は前年比16.0%に達し消費支出の伸び率13.0%を大幅に上回つた。このため消費支出に占める比率も44年の18.2%から45年は18.7%となり一層消費生活に根をおろしつつある。

(4) やや鈍化した消費支出格差の平準化傾向

最近の家計収支(全国勤労者世帯)の動きをみてくると,所得・消費ともきわめて大幅な上昇をつづけてきたため,その水準は,国際的にみてもかなり高くなつてきており,たとえば45年度の1人当たり国民所得でみるとすでにイギリスにほぼ匹敵するほどになつている。それにともない所得階層間や都市階級間などでの所得格差や消費支出格差などの縮小が急速に進んできた。このことは逆にいえば,低所得者層の急速な所得上昇がてこになつて全体の所得水準向上が進んだといえる。しかし,45年の動きをみると,これまでと若干ことなり同じ大幅な所得上昇であるが,高所得階層も低所得階層もほぼ同じように高い伸びを示したため,格差縮小の傾向はやや鈍化したのが目立つた。

5分位階層別に実収入の前年比増加率をみると,最高所得階層である第5分位が前年比15.2%の増加と44年の7.0%から大幅増加となつたのに対し,最低所得階層の第1分位では44年の13.9%から45年は15.4%とほぼ第5分位の伸び率と同じ程度にとどまつた。このため第1分位を100とする指数でみると第5分位は261.1と44年の261.5からほぼ横ばいとなり,42年からつづいた格差縮小は鈍化した。このため消費支出の格差も同じく第1分位を100として第5分位が216.6となり44年の215.7から若干格差が拡大した。

こうした傾向は都市階級間における所得格差の場合にもみられる。45年度の実収入の伸び率は大都市が18.5%の増加で最も大きく,町村の18.4%を上回つた。このため大都市を100とする指数でみる時,町村は44年度の87.6から45年度は87.5となつた。また同じく消費支出も85.7から85.3とほぼ横ばいとなつた。

一方,消費内容も都市階級間でよく似てきており,もはやそれほど大きな差があるとはいえない。たとえば従来大都市型消費といわれてきた教養娯楽関係支出についてみても,大都市を100とすると38年には55.1にすぎなかつた町村が45年には74.5と大幅に格差が縮小している。消費支出に占める割合も38年の14.0%から45年には18.1%へ大幅に上昇,大都市の19.5%にせまつている。このように水準的にも内容的にも相当平準化の進んできた現在,今後の格差縮小はこれまでのような急速なテンポからかなりゆるやかになつていくものと思われる。

第12-9表 教養レジャー消費支出の推移

第12-10図 年間収入5分位階層別

(5) 低下する消費性向

昭和45年度の全国勤労者世帯平均消費性向は,79.8%となり前年度の81.0%から大幅に低下,はじめて80%台をきつた。このような消費性向の低下は前述のように高い消費支出の増加のもとでもたらされたもので決して消費意欲の減退が原因ではない。むしろ,これをさらに上回つて伸びた所得上昇による影響が大きいものと思われる。

一般に消費には習慣性があるためにとくにわが国のように所得の上昇率がきわめて高い経済では所得の上昇に見合うほど急速に消費支出を高めにくい傾向がある。たとえば30年代以降をみても(人口5万以上の都市勤労者世帯)30年の90.8%から35年85.1%,40年83.2%,45年80.9%と低下してきている。これは勤労者世帯だけでなく農家世帯でも若干の変動はあるものの30年度の90.0%から35年度87.9%,40年度84.4%,44年度84.2%とすう勢としての低下傾向には変りがない。

第12-11表 世帯主の夏期および年末賞与の推移(全国勤労者世帯)

所得と消費の間には一般に定期的な収入からは必需的な消費がなされ,臨時的な収入において貯蓄や非必需的な消費に充てる傾向があるが,最近15年間(30年から45年)の所得増加の動きをみると,世帯主の定期収入が3.5倍になつたのに対し,臨時収入は8.0倍と圧倒的に大きい。

こうした収入源の増加率格差も消費性向を押し下げる働きをしていると考えられる。

これを全国勤労者世帯の最近の動きからみよう。可処分所得のうち,最も臨時収入的色彩の強い賞与分を推計し,賞与とそれ以外の収入に対する消費性向をそれぞれ推計してみると 第12-11表 のようになる。これをみると定期的な収入である賞与以外の収入に対する消費性向は90%をこえる高い率でしかも大体92%を中心に循環しながらも横ばいに推移している。それに対し賞与分の消費性向はきわめて低くしかも傾向としてみると低下してきている。とくに賞与の伸びが高かつた42,44,45年度において低下幅が大きい。

このように消費にまわされる部分の少ない臨時収入の伸びが高かつたことが消費性向を押し下げてきた一つの原因であり,しかも45年度については,賞与を引当てに購入されてきた耐久消費財への支出が鈍化したことも重なり大幅な消費性向の低下となつたものと思われる。

(6) 都市階級別・地方別消費性向

消費性向を所得とのクロスセクションでみると高所得者ほど消費性向が低く,低所得者ほど高くなつている。したがつて所得階層別に消費性向をプロットすると 第12-12図 のように右下がりとなる。そしてこれを2時点間で比較してみると,たとえば42年と44年では同じ年間収入階級では44年の方が消費性向が高くなつている。これはひとつには消費構造の質的な変化もあるだろうが,ほぼ物価上昇の影響によるものと思われる。

都市階級別に消費性向をみると,各都市ともすう勢としては低下傾向にある。( 第12-13表 )そして同じ年についてみると平均所得が最も高い大都市の消費性向が最も高いという結果になつている。これは大都市が消費地としてのデモンストレーション効果が大きく,消費機会も豊富なことも原因であろう。また費目別の消費性向(費目別消費/可処分所得)をみると大都市では人口集中から持家比率が低く相対的に家賃地代のウェイトが高い等の差もある。

第12-12図 年間収入階級別消費性向(全国・勤労者世帯)

第12-13表 都市階級別・費目別消費性向(昭和45年)(勤労者世帯)

しかし一方都市間の物価水準の格差はかなり大きい。44年についてみると,全国平均を100として大都市では106.0に対し町村は93.6と実に12.4ポイントの差がある,したがつていま都市階級間の物価水準格差を補正して実質所得と消費性向の関係をみると 第12-14図 のようになる。こうしてみると大都市の実質所得水準は必ずしも高くなく,逆に実質消費水準を確保しようとする結果として消費性向が高くなつているともいえる。一方小都市(B)と町村は実質でみても傾向線からはずれており実質所得水準に比べ相対的に消費性向が低い。これはやはり人口も5万人以上で都市化も急速に進みつつある中都市や小都市(A)に比べれば,人口5万人に満たない小都市(B)や町村は,過疎地域といわれるような地域も含んでおりやや経済的,社会的背景にちがいがあり,そのため世帯主の平均年令もやや高く相対的に消費に保守的な傾向があることなどの影響があらわれているものと思われる。

第12-14図 所得水準と消費性向

これは地方別にみても同じ様な傾向がうかがわれる。そして関東や近畿などの大都会を含む地域では物価水準が高いため実質所得はあまり高くなくその結果消費性向が高くなつている。

(7) 急増した預貯金

―勤労者世帯の黒字内容―

大幅に低下した消費性向の反面である黒字の内容をみてみよう。まず45年度の金融資産の純増が前年度比25.8%増と44年度の16.9%増に比べて急増したのが目立つ。これは主として預貯金純増が前年度比35.6増と大幅に増加したことが寄与したもので,保険は引続き堅調な伸びをみせたが,有価証券は前年度の大幅な伸びの反動もあり12.2%の減少となつた。

第12-15表 勤労者世帯の黒字内容の推移

第12-16表 消費者信用の状況(全国銀行割賦返済方式)

一方土地,家屋などの財産純増は前年度比44年度の7.8%減から35.5%増と大幅上昇し,この結果貯蓄純増は前年度比27.1%増と44年度を大きく上回る順調な増加をつづけ,貯蓄率(貯蓄額/可処分所得)も44年度の11.9%から45年度には13.2%へと上昇した。

消極的な意味での家計の黒字である負債の返済は3.4%増とほぼ横ばいになつた。個人の借入れは水準としてはまだ少ないが,全国銀行における消費者信用(割賦返済方式)の供与状況をみると伸び率はきわめて高い。しかし,45年は金融引締めの影響もあり新規貸出額で34.4%増と44年までの60%以上の伸びに比べるとやや落ち着いた動きを示した。

以上みてきたように,消費の伸びは高く,またレジャーやファッションなど消費意欲も旺盛であるとともに,実際の家計の行動は堅実である。さらに物価上昇率が年7.3%と1年半定期頂金の金利6%をはるかに上回る状態にもかかわらず。預貯金が高い伸びを示しているのは特徴的である。フローとしての所得上昇はかなり速やかでありそれなりに“今”の生活は豊かになりつつある。しかし将来とくに老後の生活や土地・建物などのストックの貧弱さに目を移す時,社会保障が不充分なこともあつて個人としての備えもおこたれないばかりか,物価上昇のもとでますますその必要金額は増大している。しかし有価証券への純増が黒字額の約3%にしかすぎないのをみてもわかるように,資産の多様化をはかり,物価上昇に対処するには,保有金融資産の水準も低く,また金融市場などの制度的側面も不備である。こうした結果が高い預貯金の伸びとなつてあらわれているのだが,一方今後は貯蓄が進められると同時に物価上昇が個人の借入れ意欲を促進し,これが消費に与える影響についても充分注目する必要がでてこよう。


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