昭和46年

年次経済報告

内外均衡達成への道

昭和46年7月30日

経済企画庁


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11. 労  働

(1) 概  況

昭和44年9月の引締め以降,労働経済面にも,これまでの長期好況過程ではみられなかつたいくつかの変化が認められる。

その第1は所定外労働時間の減少である。製造業における所定外労働時間は,金融引締めとほぼ同時に減少にむかい,順次他産業へも波及していつた。全産業の所定外労働時間も44年12月から,おだやかながら減少を続けている。

第2の変化は,45年4月頃を転換点として,求人数は減少し,求職者数は増加しはじめたことである。やや長期的にみればこれまで求職者数はおだやかな減少傾向をみせていたのに対し求人は景気の波に対応しつつ増加傾向を示してきている。40年以降の好況のもとでみられた労働力需給のひつ迫は,こうした労働力需要の急上昇と供給力の低下の両面からきたものであつた。45年にはいると,このような傾向は逆になり,その結果有効求人倍率はいぜん高水準ながらかなり急速な低下をみせるようになつた。

第3の特徴は,労働投入量が所定外労働時間の減少などの限界的な形でみられただけでなく雇用増加率の低下にもみられ,これが46年にはいるとマイナス(季節調整値,前月比増加率)にさえなつていることである。雇用増加率が2カ月以上続けてマイナスに転じたことは,30年以降でははじめてのことである。

このような労働力需給面における変化とともに,注目されるのは,これまで加速的な上昇を続けていた賃金が,45年央以降かなり上昇率を低めてきていることである。労働力需給が緩和したといつても,30年代後半以降の労働力不足の基調を変えるものではない。そのため賃金上昇率もやや安定にむかつたとはいえ,その水準はいぜんとして高い。46年の春季賃金交渉は,賃金引上げ額としては45年並で,基準内賃金に対する引上げ率としては45年をわずかながら下回るという結果になつたが,これには企業収益の悪化とともに労働力需給の緩和も若干影響しているものとみられる。

第11-1図 労働力需給所定外労働時間の推移(産業計)

以下,こうした変化を中心としてややくわしくみることとしよう。

(2) 労働力需給と労働時間

a ひつ迫基調下での労働力需給の緩和

労働力需給は新規学卒,一般ともにひつ迫を続けているが,一般労働市場では45年後半から新規求人の減少,新規求職の増加など,景気停滞の影響がみられ労働力需給は若干緩和した。

まず,新規学卒を除く一般労働市場をみよう。30年代後半以降労働力不足は慢性化しているといつてよいが,こうしたなかで求人は引続き高水準に推移している。しかし,45年はじめごろから製造業を中心とする産業活動の停滞を反映して求人の増勢はかなり鈍化(44年度15.3%増,45年度0.5%増)してきた。これに対して,39年より減少を続けていた求職が45年にはいつてから増加に転じたこともあつて有効求人倍率も44年度の1.37倍から45年度には1.35倍へと低下し,労働力需給はやや引きゆるみをみせた。

求人の動向を季節調整値の前期比増減率でみると,新規求人は44年10~12月期の7.3%増のあと減少へ転じている。このため前月からの繰り越し求人を含めた有効求人も前期比で45年1~3月期に1.1%増加したあと,4~6月期から減少に転じた。これは①45年1~3月期から万国博工事の終了にともない建設業を中心に労働力需要がやや鈍つたこと②鉄鋼,非鉄,電気機器等を中心とする重工業分野で45年半ば以降景気後退を反映し,求人がかなり大幅に減少したことなどによるところが大きい。

「労働経済動向調査」(46年2月)によつて求人動向の変化をみると,製造業において常用労働者の「採用を中止ないし手控え」した事業所の割合は45年7~9月期の12%から46年1~3月期には25%へと高まり,臨時労働者についても同様の動き(45年7~9月期22%,46年1~3月期45%)がみられる。また,採用計画を変更した理由として「生産販売の減少および操業度の低下」をあげる事業所が過半を占めている。また,このような理由をあげる事業所が,大規模事業所を中心としていることも特徴的といえよう。

これまでの引締めとの関連で求人動向をみると,今回は,欠員補充のための求人や労働力不足が基調としては続くとの見通しなどを反映して求人を大幅に減少させることを差し控える動きがあることなどのため,引締め後求人が減少に転じるまでの期間も40年当時より長くなつているだけでなく,求人数そのものの水準もかなり高くなつている。

一方,これまで求職は労働力供給源が枯かつしつつあることもあつて,すう勢としては減少傾向を示していた。しかし新規求職は44年10~12月期からわずかながら増加(季節調整値,前期比増減率,44年7~9月期1.2%減,10~12月期0.3%増)しはじめ,その後も増勢は強まつている。繰越しを含む有効求職は45年4~6月期から増加傾向を示している。これまでの傾向とは逆にこのような求職数の増加がみられたのは,①農業よりの転職希望ないし出稼ぎが増えていること,②求職者が年々高令化してきたため就職が困難になり求職数が減りにくくなつていること,③共稼ぎなどを含むパートタイム求職者がふえていることなど,いわば構造的な要因のほかに,④万博工事終了にともない一時的に離職者が増加したこと,⑤景気停滞を反映して製造業を中心とする離職者の増加がみられたことなどの要因が重なつことによるものとみられる。

第11-2図 主要業種別新規求人増加率

このように45年度の一般労働市場は基本的には引締めが続くなかで,45年後半からは景気後退による若干の引きゆるみがみられた。

一方,新規学卒労働市場をみると,45年3月卒については中卒の求人倍率5.8倍,高卒7.1倍と前年の水準をさらに上回るなど需給のひつ迫は続いている。これは若年労働力への需要がますます強まつているのに対し,ベビーブーム期出生者の労働力への参入のピークが過ぎたこと。進学率の高まりによりこの求職数が減少していることなどによる。このため,求人充足率は500人以上規模事業所では中卒が23.9%,高卒23.5%,30~99人規模事業所では中卒11.4%,高卒16.1%と低水準になつている。なお,46年3月卒の求人も高水準であるが,需気機器等の重工業の一部では景気停滞により採用の中止ないし手控えなどの動きがみられる。

b 雇用の増勢鈍化

雇用の増加率は労働力供給源の枯かつ化,労働節約的技術の発展などによりすう勢として鈍化しているが45年度は引締めの影響もあつてさらに鈍化(44年度3.2%増,45年度2.8%増)した。

雇用動向を季節調整値の前期比増減率でみると産業計では45年中は微増(45年1~3月期1.0%増,10~12月期0.8%増)を続け,46年1~3月期にはいつて0.1%減に転じている。また,製造業では45年10~12月期より増勢は鈍化し,46年にはいつてかなりの減少を示している。

製造業の業種別にみると全般に45年前半は比較的順調に推移していたが,後半以降引締めの影響でかなり鈍化する業種が多くなつている。軽工業部門では食料,衣服,木材,家具,出版印刷などの加工産業が比較的堅調なのに対し,繊維,紙パルプなど素材産業では40,41年以降引続き減少している。また重工業部門でも,電気機器,鉄鋼,非鉄,金属などを中心に45年後半から増勢の鈍化が進み,46年1~3月期には減少に転じる業種がさらに多くなつた。

雇用動向をこれまでの引締めとの関連からみると,求人数の推移と同様に今回は増勢の鈍化がゆるやかであり,かつ鈍化を示すにいたるまでの期間が長くなつている。これは生産が全体として引締め後もかなり高水準で推移してきたのに加えさらに①今回は求人超過の下での景気後退であつたため一方で生産低下により労動力の過剰が生じたものの,他方で慢性的労働力不足分野での雇用増がみられ総体としての雇用増加率が鈍化しにくくなつていること②引締め時点での雇用増加率水準が労働力供給源の枯かつ化もあつてこれまでに比べかなり低く,下りにくくなつていること,③労働力不足の進展により先行きを考慮して中小企業では入職制限があまり行なわれなかつたこと,④景気後退が軽微であり解雇が従来より少なかつたこと,などによるものとみられる。

40年の景気後退期には求職者数がかなり多かつたこともあつて入職抑制の幅が比較的大きかつたのに対し,今回は景気回復時での採用難を見通してか入職抑制はあまり行なわれなかつたものとみられる。他方,離職は前回は解雇による離職が多かつたものの,転職が最近に比べかなり困難であつたこともあつて,自己の都合による離職はかなり大幅に減少し,その結果離職率はかなり低下していた。これに対し今回は倒産,整理の企業数も少なく解雇はあまりみられなかつたが転職が容易になつたため任意退職という形での離職がふえ離職率はやや高まつた。

第11-3表 製造業中分類別常用雇用増減率の推移(季節調整値)

離職動向を「失業保険事業統計」の離職票提出件数の前年同期比増減率でみると45年1~3月期までは減少が続いているが,4~6月期からは増加に転じ,その後増勢は強まつてきている。その結果,年度間では9.9%増となつている。こうした入・離職の動向で特徴的なことは,卸小売業などではいぜんとして入職がふえているのに対し,重化学工業では離職が増加していることである。これは卸小売業では労働力不足が恒常的となつているため,雇用増加につとめているのに対し,重工業では景気後退の影響により離職が増加したためである。

第11-4図 製造業規模別入離職率の推移(季節調整値)

このような状況を反映して42年以来減少を続けてきた完全失業者数も45年半ばから増加に転じた。これを「労働力調査」による失業者数の前年同期比増減率でみると45年4~6月期5.1%減のあと7~9月期7.3%増,10~12月期21.2%増46年1~3月期11.2%増と失業水準は高まつている。また,年度では44年度の57万人のあと61万人となつており,失業率も44年度の1.1%から1.2%へと高まつている。もつとも,このような失業者数の増加の要因には①就職が容易になつてきたため,若年層を中心として就職条件の吟味期間が長くなつていること,②農村出稼ぎ,主婦等,限界労働力層が近年増えてきたがこれらの層に対する求人が景気後退のあおりで減少したこと,などがあり失業の深刻さは従来の不況時に比べると小さいといえよう。

c 短縮つづく労働時間

一般に労働投入量のもつとも限界的な調節は所定外労働時間(いわゆる超過勤務)によつて行われる。このため,所定外労働時間は景気動向に敏感な対応を示すのであるが,45年には所定内労働時間の傾向的短縮と所定外労働時間の景気後退による減少,との両面から,労働時間がかなり大きく縮小した年であつた。

昭和35年の月平均実労働時間は202.7時間であつた。それが,40年には192.9時間となり,45年には187.7時間とさらに減少した。

こうした労働時間の減少には,最近の所定内労働時間の短縮が大きく影響している。すなわち,所定内労働時間は35年から40年までの5年間に4.4時間減少したが,40年から45年にかけては6.5時間の減少となり,しかも前年に比らべ44年には2.7時間,45年にも1.5時間の労働時間短縮と,40年以降の減少は著しい。

所定内労働時間が傾向的に低下をみせ,しかも最近ややその低下幅が拡大しつつあるのに対し,所定外労働時間は労働投入量の限界的な調整の役割を果たしているため,景気の動向にきわめて敏感な反応を示している。製造業所定外労働時間は41年から43年までは年々増加を続けたあと44年9月の金融引締めとほぼ同時に減少に向かい,さらにその動きは他産業へも波及していつた。こうした動きは37年,40年の引締め時にもみられたことであつたが,引締後の減少テンポを比較すると,40年と同様37年の景気後退期にくらべかなり鈍化している。引締め後の所定外労働時間の減少テンポに鈍化がみられるのは,労働条件整備の一環として所定外労働時間の水準そのものが低くなつているうえ,労働力不足をカバーする必要があつたためとみられる。

このように,44年9月以降の所定外労働時間が,景気の鎮静化とともに減少していつたことが,所定内労働時間の傾向的な低下に重なり総実労働時間は,45年には44年に比べ2.3時間の減少した。

(3) 賃  金

a 賃金の大幅上昇とその後の増勢鈍化

40年以降,労働力需給のひつ迫を背景に加速的な上昇を続けていた賃金は,45年度も44年度を上回る大幅な上昇となつた。しかしながら年度後半から景気後退の影響を受けて,製造業を中心にその増勢に鈍化の傾向がみられるようになつた。

第11-5図 所定外労働時間の動き(製造業)(引締め時点=100)

第11-6図 賃金上昇率(前年同月比)の推移(全産業)

「毎月勤労統計」によれば45年度の賃金(現金給与総額)は前年度比17.3%の上昇となり,43年度の13.3%増,44年度の16.3%増をさらに上回つた。しかし,年度後半には増勢に落着きがみられたこともあつて40年以降年々拡大してきた上昇率の前年とのポイント差は縮小した。

第11-7図 給与種類別上昇率の推移

これを給与種類別にみると,所定外労働時間が減少したため,超過勤務給の伸び率は44年度の15.6%から45年度は11.9%へとかなり鈍化したが,所定内給与の上昇率が高まつたため,定期給与は前年度比16.7%増(44年度14.4%増)と伸び率は高まつた。

一方,39年度以降加速度的に増勢を強めていた特別給与は前年度に比べ19.5%の伸びとなり44年度の伸び(22.6%)を下回つた。

45年度が景気調整の年であつたにもかかわらず賃金がこのように大幅た上昇をつづけたのは,労働力不足が基調としてあるのに加えて,大半の企業の賃金改訂時期に当たる45年春頃にはまだ引締め効果が十分浸透していなかつたこともあつて,景気の先行きにかなり楽観的な見方がされていたし,持続的な好況による支払余力もあつたため,大幅な賃金引上げを行なつたことによろう。これは45年度の春闘の平均妥結額(主要民間労組,労働省調べ)が8,983円となり,基準内賃金に対する引上げ率は18.3%と史上最高になつたことからも明らかであろう。このことが,特別給与の伸び率鈍化,所定外労働時間の減少という状況のなかで,所定内給与のウェイトを高め,賃金上昇に対する寄与率を高めることになつたとみられる。

第11-8表 特別給与前年同期上昇率推移

このように45年度平均としてみた場合は40年代にはいつてからの「賃金の加速的な上昇」の延長線上にあつたといえるが,年度間の推移をみると微妙な変化がみられる。

引締めの影響は,労働経済面では所定外労働時間が減少しはじめさらに45年初めごろから求人倍率も低下し,生産活動など実態経済面よりかなり早くからみられていたが,賃金面にも若干の遅れをもつて現われてきた。まず企業の収益状況とつながりが強い賞与の伸びが鈍つたことが挙げられる。特別給与から賞与の前年同期比増加率を試算してみると夏季(6,7,8月)18.1%,年末(11,12,1月)17.7%となり,44年のそれぞれ23.5%,22.3%に比べると上昇率は大きく低下しているといえよう。とくに39年以降毎年上昇率を高めてきた年末賞与の伸びが,43年の伸びをも下回つたことは45年秋以降,不況感が急速に浸透したことを裏付けている。さらに引締めとほぼ同時に減少にむかつた所定外労働時間が45年央から生産活動の停滞を反映していつそう低下テンポを強めたため,起過勤務給も一段と伸び悩んだ。このため現金給与,定期給与とも,製造業,卸小売業を中心に,年度後半にはいつて高水準ながらその増勢に落着きがみられるようになつた。

これを季節調整値の前期比上昇率でみると現金給与は45年4~6月期の5.5%増から7~9月期4.5%増,10~12月期3.4%増と次第に鈍化を示し,46年1~3月期には2.9%増まで低下している。また定期給与でも同様に45年4~6月期の4.7%増から46年1~3月期には3.5%増へ上昇率の低下がみられた。

b 産業別・規模別賃金の動向

産業別に賃金の動向をみると現金給与は,運輸通信業(44年度13.8%,45年度18.0%).製造業(同17.1%,17.9%)および電気,ガス水道等(同13.2%,17.0%)では前年度の伸びを上回り,卸・小売業(同17.0%,17.0%)は前年度並みであつたが,建設業(同18.0%,17.5%)金融・保険業(同14.9%,11.4%)では前年度を下回つた。製造業のなかでは電気機器,非鉄,一般機械,なめし皮などで需要の伸びの低下,先行き不安などにより,前年度の伸びを下回つたが,その他の業種では前年度を上回る伸びをみせた。

また定期給与は,各産業,各業種とも概ね44年度を上回る伸びを示した。したがつて,前述のような現金給与の伸び率の動きに差をもたらしたのは,賞与を中心とする特別給与の伸び率の格差が産業別,業種別にかなり大きかつたからである。すなわち,運輸・通信業(44年度14.7%,45年度23.3%)や電気・ガス・水道業(同14.1%,22.0%)など景気の動向にあまり影響をうけない産業あるいは必ずしも一致した動きを示さない産業においては前年度を大幅に上回つたのに対し,卸・小売業や景気の影響を強くうけた製造業,建設業などは前年度を下回る伸びとなつた。

さらに製造業の規模別現金給与の動きをみると,各規模とも前年度を上回る伸びを示したが,45年度の対前年比増加率は100~499人規模が18.5%ともつとも高く,以下500人以上規模(17.5%),30~99人規模(17.4%)の順となつたため,規模間格差の縮少は一様には進まなかつた。これは全労働者に対する賞与支給労働者の割合の増勢が伸び悩んだこともあつて,特別給与の伸び率鈍化の程度が,小規模ほど大きかつたことによる。

第11-9表 産業別特別給与上昇率推移(前年度比)

c 前年を下回る春季賃金上昇率

景気停滞のもとで,賃金上昇の増勢に鈍化がみえはじめた時期に行なわれた46年の春季賃上げ闘争は,労使間の主張のかい離が従来になく大きかつたため,交渉の長期化,ストライキの多発といつた特徴を生みだした。この結果,妥結状況をみると,労働省調べの主要民間企業の賃上げ額は9,522円,賃上げ率は16.6%と40年以降はじめて前年の賃上げ率を下回つた。このことは過去の景気後退期である37年,40年に比べると,その低下幅(1.7ポイント)は小さいが,労働力不足という底流があるなかで,賃上げ率が景気感応的に動くことを示したといえる。また,中小企業の賃上げ率も %と前年の賃上げ率を下回つたので,少なくとも40年代にはいつてからの賃金上昇の加速化傾向にはブレーキをかけることになろう。

一方,新規学卒者の初任給の伸び率は,45年3月卒の中卒男子で18.4%,高卒男子で18.3%と44年の上昇率を上回つた。新規学卒者の初任給上昇率は,需給要因が大きな影響を与えることはもちろんであるが,前年の春季賃上げ交渉による賃上げ率の影響も大きいとみられる。

第11-10表 春季賃上げ状況

なお賃金構造基本調査による賃金の動向をみると,前年に引続いて平準化が進み,年令,男女,学歴などの諸格差は縮小している。年令別の規模間の上昇率は若年層では大企業,高年令層では中小企業がそれぞれ高くなつており,中小企業では年令別格差縮小テンポの鈍化がみられる。これは若年層の賃金がすでに大企業並みになつているのに対し,中高年層については,なお,格差がかなりあるため,その格差縮小作用が影響しているといえよう。

d 賃金・生産性の上昇率格差の拡大

賃金の動きを生産性との関連でみると,賃金は年度後半に至つてやや増勢に鈍化がみられるようになつたものの,その伸び率は前年比15%以上の高水準にあるため,景気調整過程のなかで,かなり急速に低下した生産性の伸びとのギャップは広がつた。

製造業の労働生産性(生産性本部調べ)は40年以降の長期好況の間,年率14~15%の水準で着実に伸びてきた。しかし45年に引締めの実体経済面への浸透にともない,これまでの高成長を支えてきた鉄鋼,電気機械など主要な業種で生産調整が行なわれたこともあつて,生産性の前年比伸び率は44年の15.0%から13.9%へと鈍化し,42年以降ではもつとも低い伸びとなつた。これに対し製造業の45年の賃金は前年比17.6%増と上昇率を高めたため,賃金上昇率が生産性上昇率を上回るという43年以陸にみられる傾向を一段と強めた。もつともこうした生産性と賃金のギャップの拡大は,景気に対する両者の動きにタイム,ラグの関係があるためで,過去の景気調整期に比べれば,その程度はまだ小さい。

このような生産性,賃金の動きにより,賃金コスト(現金給与指数/生産性指数)は急速に高まり,45年後半には40年不況時の水準を上回るようになつた。

いま前回の不況(40年)時と賃金コストの動きを比較すると 第11-12図 のように引締め時点ですでに前回より高い水準にあつたこともあつて,前回は引締から約5四半期(約15カ月)を経過して100を超えたのに対し,今回は当初引締め効果がなかなか浸透しなかつたにもかかわらず約3四半期後(約9カ月)には100を上回つた。また引締め後2四半期頃(約6カ月)から両者とも上昇しはじめるが,その上昇テンポは今回の方が急速である。賃金上昇圧力が強いため,生産性の上昇がすこしでも鈍ると賃金コストは急上昇するような傾向になつてきたといえる。

第11-11図 初任給(高卒)上昇率の推移

第11-12図 製造業賃金コストの推移


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