昭和46年
年次経済報告
内外均衡達成への道
昭和46年7月30日
経済企画庁
昭和45年度は,わが国経済が拡大から鎮静化へと向かい,金融政策が緩和へと大きく転換した年であつた。
44年9月から開始された金融引締め措置のもとで,45年夏ごろから生産の増勢鈍化,在庫の増大,設備投資の伸びの鈍化,卸売物価の落着きなどの変化が生じ,景気の鎮静化が明瞭となつた。このため45年10月に公定歩台が0.25%引下げられ,ポジション指導も10~12月期には緩和された。さらに,46年1月には公定歩合の再引下げが実施され,金融政策は全面的緩和へと向かつていつた。
こうしたなかで,金融市場は日銀券が高い増勢をつづけたこともあつて,上期中は引締まり基調で推移したが,下期に入ると外為の支払増大,公共事業費支払の増勢回復,租税収入の鈍化などから財政が散超に転じたこともあり,金融市場は緩和に向かい,コール・レートも急速に低下していつた。
金融機関の貸出は,引締め中高水準ながらも増勢は鈍化してきたが,金融引締めの解除とともに急速に増勢を回復した。しかし,緩和後の貸出増大も年度内は企業金融に緩和感をもたらすまでにはいたらず,45年度全体を通じて企業金融はかなりの消費ひつ迫基調で推移した。
資本市場をみると,既発債市況は45年末まではポジション悪化にともなう都市銀行の債券売却の増加などから軟調をつづけた。しかし,46年に入ると中小企業金融機関等による既発債投資の積極化,外人投資の増大などから利回り低下が著しく,新発債利回りとのかい離幅が縮小し,また起債規模も拡大していつた。一方,株式市況は45年中低迷をつづけたあと,金融緩和の進展,企業業績の底入れ期待などから1月以降かなり急速な回復基調にある。
以下,こうした点を中心に45年度の金融動向をふりかえつてみよう。
45年度の金融市場は,上期中,引締まり基調で推移したものの,下期に入つて金融政策の転換にともない急速に緩和に向かつた( 第9-2表 )。
こうした動きをややくわしくみると,上期中は引締まり基調で推移したが,その資金不足要因をみると,①高水準な実体経済活動を反映して,日銀券の増勢が高かつたこと。②租税の受入れが好調だつたこと。③外人証券投資が流入減になつたことや円シフトが進んだことなどから外為の支払いが少なかつたことなどによるものである。45年度下期に入ると金融市場は急速に緩和傾向をたどつていつたが,その要因をみると,①日銀券の増勢がしだいに落着いてきたこと。②外為が大幅な散超となつたこと。③45年10月の公定歩合引下げ以降,日本銀行が緩和気味の市場調整を行なつたこと。④さらに中小企業の資金需要が落着いてきたこともあつて,中小企業金融機関のコール運用が増加したことなどがあげられる。
以上のような金融市場の動きを反映してコール・レートは45年7~9月の9.25%(月越物)をピークに急速に低下傾向をたどつている。
金融市場が急速に緩和したため,これまで検討されてきた新しい通貨供給方式の導入は当面見送られることとなつた。しかし,金融市場整備の一環として長期的な展望のもとに46年5月20日には手形割引市場が発足した。
なお45年度を通じての財政資金対民間収支は42年度以来3年振りに揚超(1,447億円)となつた。これは外為が大幅な散超(6,755億円)となつたものの一般財政が租税,郵便貯金等の受入れを中心に大幅な揚超(7,077億円)となつたこと,食管の散超幅が減少したことなどのためである。
45年度の金融機関の預貸金動向をみると,預金は引締めの影響もあつて増勢が鈍化した一方,貸出は大幅な増加となつた( 第9-3表 )。
全国銀行の実質預金は5兆7,009億円の増加となり前年度の増加額(4兆8,436億円)を17.7%上回つたが,過去2年間に比べ,伸び率は低下している。一方,貸出は6兆4,510億円の増加で前年度の増加額(4兆8,605億円)を32.7%上回る大幅な増加となつた。これは引締め中もかなり貸出が行なわれたうえ,緩和後に急増したためである。
このように増勢が鈍化した全国銀行の実質頂金を預金者別にみると( 第9-4図 ),個人,法人ともに増勢が鈍化している。個人預金の増勢鈍化は,個人事業主の預金が取崩されたこと,起債市場の好調などからみて,預金から高利回りの金融債等の債券への資産運用のシフトが生じたとみられることなどのためである。法人預金は全体としては伸び悩んでいるが,要求払い預金の増勢が引締め中鈍化していつた一方,定期性預金は,従来の引締め局面とは異なり,やや増勢が高まつている。
次に,銀行業態別にみると,都市銀行では実質預金増加額は上期中法人,個人預金とも伸び悩み,1.4%の微増にとどまつたが,下期に入つて貸出が著増し,貸出にともなう預金の歩留りが向上したため27.0%増と大幅な伸びとなつた。一方,貸出は上期中は44年9月に強化されたポジション指導がつづけられていたこともあつて,増加額の前年比で11.5%増であつた。しかし,下期には引締めも解除され,繰延べられてきた大企業の資金需要に積極的に応じたため52.5%の大幅な増加となつた。なお,有価証券保有は貸出需要が強かつたことにくわえ,国債発行の減額,日銀の多額の買いオペ等により前年を下回つた。以上の結果,資金ポジションは年度間6,924億円の悪化となつたが,下期に預金が回復したことから前年度の悪化幅(9,513億円)を下回つている。
地方銀行では,実質預金は法人預金の伸び悩みにくわえ,食管会計からの支払いが減少したこともあつて農家所得が伸び悩んだこと等により個人預金も伸び悩んだため実質預金増加額は前年比の12.8%増となつた。貸出は年度後半は地元中小企業の資金需要がひところに比べ落着いてきたことから,貸出増加額の前年比は19.6%の増加となつた。
長期信用銀行では,金融債が預金に比べ相対的に有利な利回りであつたため個人消化がすすみ,資金量の増加額は前年に比べ35.4%と大幅に増加した。一方,貸出増加額も大企業中心に設備資金需要が強かつたため40.8%の大幅な増加となつた。
次に全国銀行(銀行勘定)以外の金融機関についてみると,信託勘定では資金量の増加額は前年比で16.2%増となり,貸出増加額は大企業を中心とする旺盛な資金需要がつづいたため19.3%増となつた。
相互銀行では,中小企業の預金の伸び悩みや,個人業主預金が不振であつたため,実質預金増加額は前年比12.1%増となつた。また貸出増加額は貸出重視の運用態度をつづけたものの,中小企業の資金需要が衰えたことなどにより前年比10.8%増にとどまつた。
信用金庫では,実質預金増加額は相互銀行と同じ理由から,9.9%増と伸び悩んだ。また貸出増加額も中小企業の資金需要が下期に入つて急減したため,前年度に比べ3.9%減少した。
以上の結果,預金通貨の増勢は残高の前年同期比でみると,44年4~6月20.4%増,7~9月16.6%増,10~12月15.2%増と鈍化してきたが,46年1~3月は20.6%増と回復している。
以上のように引締め中,高水準ながらも増勢鈍化を示してきた貸出は,緩和後全国銀行を中心に急増している。こうした貸出の増加は,①大企業を中心に引締め中繰りのべられてきた資金需要に応じていること,②景気の鎮静化にともなう滞貨減産などの資金需要が多額であつたこと。③金融緩和の進展にともない金融機関の貸出態度も漸次積極化していることなどによる。業種別にみると,鉄鋼,電気機械,化学などの製造業で貸出増加が著しい。これら業種では都市銀行への依存度が高く,都市銀行がポジション指導の主な対象となつていたため引締め期間中かなりきびしい貸出抑制を受け,資金繰りのひつ迫感はとくに強かつたためである( 第9-5図 )。
金融面からの景気調整策は45年秋までつづけられたが,企業金融は45年度全体を通じてもかなりの引締まり基調で推移した。企業の資金繰り判断をみても,大企業ではかなり悪化しており,資金繰りが苦しいとするものの割合は39年,42年引締めを上回る水準となつた。一方,中小企業でも引締め前半(45年5~6月)までは比較的余裕裡に推移したものの,その後急速に資金繰りの繁忙感が強まつた。さらに金融緩和後も従来の緩和期と異なり,45年度いつぱい企業金融の引締まり基調がつづき緩和感の浸透は遅れ気味であつた。こうした企業金融引締まりの要因をいくつかの側面からみてみよう。
企業金融引締まりの第1の要因は,45年度全体を通じて企業の外部資金需要が大きかつたことである( 第9-6図 )。法人部門の資金不足額(実物投資-貯蓄)も従来のすう勢を大幅に上回つており,外部資金への依存度が高まつていることがわかる。
資金需要の主な増加要因をみると,第1に,設備資金需要が根強い増勢をつづけたことである。企業の設備投資意欲は45年1~3月でピークを打つたとみられるが,過去に発注,着工した設備の完工,ひき渡しが45年度中つづき,資金負担の大きな原因となつた。一方,企業の自己資金(減価償却費+内部留保)による資金調達についてみても,45年3月頃をピークに減少傾向に転じており,自己資金比率(設備投資に占める自己資金の割合)は44年9月の75.5%から45年9月には62.7%に低下している。第2に,在庫の増加にともなう資金需要が大きかつたことである。引締め開始後もかなりの期間にわたつて根強い経済拡大がつづいたこともあつて,45年度半ばまで高水準な在庫投資がつづき,さらに,後半は急激な需給の悪化から滞貨減産にともなう多額な資金需要が発生した。かりに過去の在庫率のすう勢を上回る部分を過剰在庫とみなし,潜在的な後向き在庫資金需要を試算すると45年10~12月期では約9千億円に達しているとみられる。第3は,売上げや受注が急速に鈍化したことによつてキャツシュフローが変化したことも資金需要増大の大きな要因であつた。売上げ鈍化によつて利潤や各種引当金に計上できる余裕が少なくなつていることや,受注の減少により前受金などによる資金流入が少なくなつたことも企業の資金負担を大きくさせた(本報告 第30表 参照)。
企業金融引締まりの第2の要因は,こうした根強い資金需要に対して,銀行の貸出態度に,企業規模別,業種別に格差がみられたことである。銀行貸出も従来の引締め局面に比べればかなりの高水準であつたが,大企業への主たる資金供給者である都市銀行がポジション指導の対象となつていたことや,近年収益志向が強まつてきていることから,比較的金利水準の高い優良中小企業向け貸出が重視され,大企業向け貸出は抑制されがちであつた。また企業側からの銀行の貸出態度に対する判断をみても( 第9-7図 ),鉄鋼,電力などは42年の引締め時より相対的にきびしいとみる企業の割合が増加しており,引締め解除後もきびしい貸出態度がつづいたことがわかる。なお,引締め解除後の銀行貸出は従来にない大幅な増加を示したものの,引締め期間中に繰延べられてきた資金需要への対応が大きく,企業金融を緩和させるまでにはいたらなかつた。一方,中小企業金融機関の貸出も引締め後次第に増勢は鈍化し,引締め解除後も増勢は回復していない。
以上みてきたように,企業,金融機関両面の事情を反映して,45年度を通じて企業金融はかなりの引締まり基調で推移した。
企業金融の引締まり基調をつづけたなかで,企業間信用は大幅な拡大を示した。大企業の企業間信用は45年に入つてから大幅に拡大し,緩和後も解きほぐしの動きはほとんどみられない( 第9-8図 )。当初は支払いを繰延べることによつて資金負担の軽減がはかられたものの,45年度後半から受取条件が急速に悪化したため支払い繰延べによる資金の負担軽減効果が薄れ,企業金融の引締まり感を強める要因となつた。こうした傾向を業種別にみると鉄鋼,非鉄,電気機械,自動車などでの支払条件の悪化が著しく,過去の引締め局面を上回る悪化を示している。このように,主要業種での支払条件の悪化は,一般機械などその他の業種の受取条件を悪化させ全般的に企業間信用が拡大していつた。
一方,中小企業では45年に入つてから,大企業の支払条件の急速な悪化とともに,受取手形期間が延長され,現金収入割合が低下するなど受取条件が著しく悪化した( 第9-9図 )。この結果,中小企業の与信率(売上債権÷買入債務)の上昇が目立つようになり,加えて,中小企業においても45年下期の売上げ鈍化が急速であつたため両面から中小企業の資金繰りが悪化し,引締め解除後も引締まり基調に推移した。
以上みたように,引締め解除後もしばらくは根強い資金需要がつづいていたため,企業金融に緩和感が浸透するのはやや遅れ気味であつた。
しかし,46年度に入つてからの企業金融には急速に緩和感が浸透しはじめている。企業の資金繰り判断をみても( 第9-10図 ),一部の業種を除き先行きかなり好転しており,また,中小企業でもこれ以上の資金繰りの悪化を見込む企業は少なくなつている。このような緩和感の広がりは第1に,鉄鋼,電力など一部の業種を除けば,資金需要は全体として落着く傾向にある一方,銀行貸出が急増していること,第2に,財政支払いの増大や,国際通貨不安にともなう輸出代金回収の早まりなどを反映して企業の手元流動性も回復基調にあること,第3に本格的な企業間信用の解きほぐしまでにはいたつていないものの一部では支払い条件の改善もみられることなどによるものである。
以上のような資金繰り好転は,在庫,設備投資意欲を刺激し,需給バランスの改善を促進さるなど景気の円滑な回復にとつて好ましい影響を与えるものとなろう。
45年度の公社債市場をみると既発債市況は年度前半は軟調に推移し,10月の金融引締め解除後もしばらくはこの基調は変らなかつた。これは都市銀行が貸出の増加にともなうポジションの悪化から債券売却をつづけた一方,45年中は先行きの資金需要がなお強いとの見方が多く金融機関の既発債投資が少なかつたためである。
しかし,46年1月以降,金融緩和の進展とともに,事業債,利付金融債を中心に既発債の利回りは急ピッチで低下し( 第9-11図 ),新発債との利回りのかい離幅縮小が進んでいる。事業債のうち残存期間1~2年の短期物には,4月以降応募者利回りを下回るものもみられる。このような既発債市場の急速な変化をもたらした要因は,先行きの資金需要減退を見越した中小企業金融機関の既発債投資の積極化,外人公社債投資の増大,そして都市銀行の債券売却の減少である。
一方,起債市場をみると45年度の起債総額(起債純増ベース)は1兆9,771億円で前年比10.8%増となつた。債券種類別にみると,公共債は国債,政府保証債の減額によつて5,446億円と前年比20.0%減少したのに対して,民間債は1兆4,325億円と29.9%増大した。民間債の増加は,金融債が大幅な発行増となつたことや,個人を消化対象とした電力債の別枠発行が行なわれたことによるところが大きいが,46年に入つて消化環境の好転から事業債の起債規模が拡大していることも影響している。事業債の起債額(起債純増ベース)は,45年4~6月989億円(前年同期比8.5%減),7~9月1,012億円(同4.5%減),10~12月1,030億円(同23.6%増)のあと,46年1~3月には1,246億円(同54.4%増)と増大している。このように事業債の起債額はかなり増大したが,旺盛な資金需要を反映して起債希望額もふえたため,起債達成率は64.6%と前年度に比べ若干の上昇にとどまつた。
こうした動きのなかで,最近の公社債市場にはいくつかの注目すべき動きがみられた。第1は,既発債と新発債との利回りかい離幅の縮小にとともない,事業債の発行条件弾力化について具体的な検討が開始されたことである。第2は,個人消化比率が上昇し,従来の金融機関中心の消化構造にも多様化がみられたことである。事業債の個人消化比率は44年度の27.5%から45年度は40.1%へと上昇した。こうした動きは,多年にわたる公社債市場のひずみを是正していくことになると同時に,今回の引締め下でみられたように資金調達難が一部の大企業に集中するという引締め効果のアンバランスを是正することにも役立つとみられる。
第3は,時価転換社債の発行が急増したことである。時価転換社債の発行額は44年度の125億円から45年度には1,146億円と約9倍に達した。これは基本的には旺盛な資金需要を背景に企業が市場メカニズムにそう形で資金調達方式の多様化をはかつたためである。業種別にみると,電力,鉄鋼等基幹産業以外の業種での転換社債発行が圧倒的に多い。このことを反映して事業債と転換社債を含めて,社債の残高増加額に占める業種別シエアをみると45年度はかなり異なつた動きを示すこととなつた。すなわち,電力などでは事業債(一般起債市場)全体に占めるシエアは43,44年度にひきつづき上昇したが,事業債に転換社債をも含めた総額に占めるシエアをみると,45年度は逆に低下することとなつた( 9-12図-② )。
第4は,公社債市場も国際化の波に洗われたことである。海外金利の低下から,45年秋以降利回り採算を中心とする外人公社債投資が増大し( 第9-13図 ),46年4~5月には国際通貨不安にそなえる動きとみられる外人買いが急増した。これは既発債の利回り低下を加速する要因として働いた。これに対して,46年5月17日から外人による非上場公社債の取得を当分の間実質的に停止する措置がとられた。起債市場においても国際化の動きがみられた。わが国初の円貨建外債として,45年12月にはアジア開発銀行債60億円が発行された。つづいて46年6月には世界銀行債110億円の起債が行なわれており,わが国もしだいに国際的な資金調達市場としての色彩を強めようとしている。
45年度の株価は,4月に国際投資信託IOSの経営破綻,世界的な株価下落等を契機として暴落したあと,45年末までは低迷をつづけたが,46年に入つて急速に上昇し,東証株価指数は6月23日には197.10と最高値を更新した。
45年中,株価が不振をつづけた要因は,第1に企業業績の先行きに対する警戒感が強かつたことである。製造業(東証第1部上場会社)の経常利益は45年9月期で減益に転じ,46年3月期にも回復は見込み薄とみられた。第2は,投資信託が慎重な運用方針をとつたことや,生保などの機関投資家が貸付に迫われて株式投資に消極的だつたことである。第3は,外人投資が総じて低調であつたことがあげられよう。
しかし,46年に入ると株価は上昇に転じ,出来高も一日平均2億株前後(東証第1部)と低迷時の2倍近くにふえるなど,「不況下の株高」的様相を呈している( 第9-14図 )。このような様変りの活況をもたらした要因は,第1に金融緩和が進展するという期待が46年に入るとともに強まつたこと,第2に企業業績の回復期待がしだいに高まつていつたこと,第3に外人投資がふたたび増大し,投資信託も残存元本増を背景にひところに比べると買いを積極化していることなどがあげられる。
1月以降の株価上昇を資本金規模別にみると,大型株~小型株ともおしなべて上昇しており,44年の上昇が主として小型株の上昇によつていたのと対照をなしている( 第9-14図 )。
一方,45年度の発行市場をみると,増資規模は6,594億円(全国上場会社,公募プレミアムを含む有償払込額)と,36年度に次く史上2番目の規模となつた。業種別にみると,輸送用機械,鉄鋼などの増資減少から製造業のシエアが低下し,逆に金融保険,電力などのシエアが高まつた( 第9-12図② )。資金調達の形態面からみると,時価発行の増大が目立つた。時価発行などにともなう公募プレミアムが増資総額に占める比率は,43年度2.7%,44年度9.4%のあと,45年度は15.9%に高まつた。年度初めには時価発行増資が集中し,なかには公募価格を下回るものがでたことなどから,一部には時価発行のあり方に対する反省の気運が生じた。
45年度の株式市場は,前年度に引続き外人証券投資がかなりの流入超となつた一方,本邦資本の対外証券投資が行なわれるなど,本格的国際化へと歩み始めた年であつた。外人証券投資は45年中は前年度に比べかなり落着いていたが,46年に入つて従来にない大幅な流入超となつた。他方,外貨準備の増大を背景に45年4月から投資信託に,46年1月から生保・損保に外国証券の投資が認められ,いずれもすでに外国株式の取得を行なつている( 第9-13図 )。さらに,7月から一般投資家による対外証券投資の自由化が行なわれた。わが国の株式市場は,投資信託や機関投資家,一般投資家による内外株式への投資を通じて,海外市場との結びつきをいよいよ強めていく段階を迎えようとしているといえよう。
44年9月にはじまつた金融引締め政策は,45年夏場を境に景気が急速に鎮静化に向かつたことに対応して,45年10月末にはほぼ全面的に解除された。その後46年1月,5月にも相次いで公定歩合の引下げが実施され,金融政策は景気の回復を促進させる方向で運営されることとなつた。引締め解除とともに,銀行貸出は都市銀行を中心に急速に増勢を強めており,金融市場も次第に緩慢化のテンポを早めていつた。一方,資本市場では既発債利回りの低下が著しく,発行条件とのかい離幅は大幅に縮小した。こうしたなかで引締まり基調に推移してきた企業金融にも次第に金融緩和の効果が浸透しつつある。
もつとも今後金融政策を運営して行くうえで解決していかなければならない残された課題も少なくない。まずそのひとつは,短期資本の移動を含め海外からの大幅な資金流出入に対処し,国内金融の安定を確保するため,きめ細かくかつ機動的な金融調整手段の開発を行なつていくことである。すでにみたように最近の外貨準備の急増が,わが国の通貨供給のメカニズムに大きな変化をもたらし,従来の金融政策では効果が及びにくい資金の流れが増大しつつある。こうしたことは引締め局面での金融調整手段の有効性に影響を与えるものとなる。
第2には,各種の金利を有機的に変動させ,金利機能をいつそう活用していくことである。従来の引締め時では主として公定歩合,コール・レートが変動しているのに対して,今回引締め時にはかなり広範囲にわたつて金利の引上げや改定が行なわれている( 第9-15図 )。今後ともいつそうこうした金利機能の活用をはかつていくことが必要である。とくに公社債市場では,流通利回りと発行条件とのかい離が解消に向かつている現在の環境を生かして今後発行条件を市場の実勢にあわせて,決定していくためのルールをつくつていくことが必要であろう。