昭和46年

年次経済報告

内外均衡達成への道

昭和46年7月30日

経済企画庁


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8. 財  政

(1) 概  況

44年9月以降の財政の動きを概観すると,財政は引締め過程では景気に対して抑制的に機能したが,45年度後半以降,国内経済の鎮静化とともに,しだいに景気下支え的な役割を果しつつある。

まず,今回の引締め過程では財政は景気に対して抑制的に機能したものとみられる。44年度下期の政府財貨サービス購入は前年比10.9%増の低い伸びにとどまり,とりわけ政府固定資本形成の伸びが落込んだ(9.8%増)。一方,経常収入は22.0%増の高い伸びをつづけ,この間,国民経済計算上の財政赤字率は大幅に縮小した。45年度の財政は,金融引締めの浸透を円滑にするため,警戒中立型予算が編成され,その実行に当たつても上期中は慎重な財政運営が行なわれた。

しかし,45年度の後半から景気は鎮静化に向い,金融引締めも10月の公定歩合引下げにより解除され,さらに46年1月,5月にも公定歩合の引下げが行なわれた。これとともに,財政は景気下支え的に機能するようになつてきた。まず45年度下期に入つて公共事業費の支払が進捗し,租税収入も増勢鈍化を示しはじめた。

46年度予算編成においては中立機動型が志向きれ,またその実行に当たつても公共事業の施行促進措置がとられることとなつた。

国内の景気が停滞し,国際収支が黒字をつづけるなかで,財政政策には,景気政策の観点からも資源配分政策の観点からも新しい役割が要請されてきている。

(2) 45年度予算の性格

経済の高成長がつづくなかで,財政は42年度以降景気刺激の回避という制約の下で運営されなければならなかつた。そのため,42年度以降国民総支出(名目)が17~18%の成長を遂げたのに対して,政府固定資本形成(名目は,42年度12.7%,43年度14.4%,44年度11.2%と経済成長率を下回る伸びをつづけてきた。また,こうした景気政策以外にも食管在庫を中心とした政府企業在庫投資も42年度の3,678億円,43年度の3,407億円から44年度は1,741億円と大幅に減少を示した。

第8-1表 45年度における財政関係主要事項

45年度財政に対しても金融引締めの円滑な浸透を促進するため,引続き景気に対して警戒中立型の姿勢が要請された。

a 当初予算の特色

45年度においては,物価の根強い上昇を抑制しつつ,わが国経済の持続的成長を長期にわたつて確保すること,経済の効率化と国民生活の質的向上のために重点的な資源配分をはかり,あわせて国民負担の軽減をはかることなどが基本方針とされた。

このため,第1に,財政面から景気を刺激することがないよう配慮された。歳入面では公債発行額を縮減し,法人税負担の引上げをはかる一方,歳出面でも財政規模を適度のものにととめている。

第2に,国民負担の軽減合理化をはかるため,所得税,住民税の大幅減税を行ない,利子・配当課税の特例をはじめとする租税特別措置の整備合理化がはかられた。

第3に,総合予算主義の原則をひきつづき遵守するとともに,食管制度の改善など歳出内容の合理化がはかられた。

b 歳出予算

45年度予算においては財政規模を適度のものにとどめることとされ,一般会計歳出予算は7兆9,497億円,前年度当初予算に対して17.9%の増加となつた( 第8-2表 )。

これを主要経費別にみると( 第8-3表 ),食糧管理費,地方交付金が44年度に引続き高い伸びとなつており,社会保障関係費,公共事業関係費は44年度より伸びを高めている。一方,国債費や貿易振興・経済協力費は低い伸びとなつている。

45年度予算においては,総合予算主義の原則を遵守し,財源の適正かつ効率的な配分に努めることとされたが,これを重要施策についてみよう。

第8-2表 国民経済と財政規模

第8-3表 一般会計歳出予算の主要経費別分類(当初予算ベース)

第8-4表 公共事業関係費の内訳

第8-5表 財政投融資使途別分類(当初ベース)

第1に,公共事業については,近年における社会資本の著しい立遅れにかんがみ,一般会計の公共事業関係貿は前年度18.0%増(災害復旧を除く)の,高い伸びとなつた( 第8-4表 )。とりわけ生活環境施設,住宅対策費など国民生活に密着した部分の充実がはかられた。財政投融資計画においても,社会資本関連の住宅,生活環境施設,道路,運輸通信に重点がおかれた( 第8-5表 )。また,公共投資の拡充と効率化をはかるため,公共事業の補助金の一部について高率補助を引下げるとともに,港湾,道路の整備について民間の事業主体及び民間資金の活用がはかられた。

第2に,社会保障について,生活援助基準の14%引上げ,母子保健対策費の充実,老人福祉の向上等のきめ細い施策がとられた。これに加えて,医療費が引上げられ,44年度に行なわれた厚生年金,国民年金の改正が平年度化する事情もあつて社会保障関係費は前年度比20%増の高い伸びとなつた。

第3に,近年における米の過剰在庫の問題に対処するため,総合農政が45年度にもさらに進められ,①両米価水準の据置き及び生産者米価の等級間格差,銘柄格差の導入,②開田,干拓の抑制,③生産調整奨励補助金の交付などによる米の生産調整,などの措置がとられた。

c 歳入予算

45年度歳入予算の特色は,第1に,財政の景気警戒的姿勢を示すため,44年度に引続き公債発行額の縮減による公債依存度の引下げがはかられたことである。45年度の国債発行予定額は,4,300億円で44年度当初予定額に比べ600億円の減額がはかられ,国債依存度も5.4%(44年度は7.2%)に低下した。また,政府保証債の発行額も44年度当初予定額に比べ600億用減額され3,000億円となつた。

第2に,租税印紙収入は引続く経済の拡大を背景に大幅な自然増収が見込まれ,初年度1,768億円の減税が行なわれたものの,6兆9,384億円,前年度比20.9%の高い伸びが見込まれた。

45年度の税制改正においては,国民負担の軽減をはかるため所得税の大幅減税が行なわれるとともに,所得税減税,国債減額,歳出増加などの財政事情を考え,法人の企業活動が高水準をつづけていることを配慮し法人税負担の増徴がはかられた( 第8-6表 )。

第8-6表 45,46年度の税制改正による増減収額

所得税減税額は,43年7月の「長期税制のあり方についての答申」の完全実施を目標として,初年度2,461億円(平年度3,047億円)と戦後最高の大規模な減税規模となつた。これにより,課税最低限の引上げや中堅以下の所得層の税率の緩和がはかられ,夫婦子3人の給与所得者の課税最低限(平年度分)は95万円から106万円に引上げられた。

また,個人住民税についても,住民負担の軽減,合理化をはかるため課税最低限の引上げを中心として初年度654億円(平年度689億円)の減税が行なわれた。

法人税については,2年間の臨時措置として資本金1億円超の法人の留保所得および資本金1億円以下の法人の年300万円超の留保所得についての法人税率を35%から36.75%に引上げることとされた。法人税率は,従来一貫して低下してきたものであるが,昭和45年度予算編成に当たつては,歳出の増加,所得税の大幅減税,国債の減額等の財源事情に対応することを主眼として法人税率の引上げが行なわれたものである。これは公私両部門における適切な資源配分,景気情勢に即応する弾力的な財政運営の観点にも沿うものであつた。

また,利子配当課税の特例についても再検討が行なわれ,総合課税の原則に復帰することを基本的方向としつつ,漸進的に改善合理化が図られた。

d 地方財政計画

45年度の地方財政計画は,7兆8,979億円で前年度比18.9%増となつた(44年度は6兆6,397億円,前年度比18.5%年増)。これは39年度以来の高い伸び率である。計画の作成に当たつては,①個人の住民税,事業税負担の軽減合理化,②広域市町村圏の振興整備,③都市財源の強化と都市行政の充実,④総合的な過疎対策の推進,⑤生活関連公共施設の計画的整備,⑥地方公営企業の経営基盤強化,⑦地方財政の健全化と財政秩序の確立に重点がおかれた。

(3) 45年度財政の実行

45年度の財政の実行状況についてみると,景気調整下にあつた上期中は,景気に対して引続き慎重な支出態度がとられ,またこの間,租税収入も高い伸びを続けたが,秋以降金融引締めが解除され,景気の落込みが明白になるにつれて,財政の実行状況にも変化が現れてきた。以下ではこうした45年度財政の実行状況をくわしくみてみよう。

a 財政支出

45年度の財政支出の実行状況を中央と地方に分けてみてみよう。まず中央政府についてみると,景気に与える影響の大きい公共事業関係費の支払額(対民ベース)は,前年同期比で45年4~6月4.3%増,7~9月9.8%増と上期中低い伸びにとどまつた。これは第1に,44年度公共事業関係費予算の出納整理期間(45年4,5月)支出が少なかつたことによる。すなわち,43年度予算の出納整理期間支出は,1,790億円だつたが,44年度予算では,1,770億円にとどまつた。第2に45年度予算の進捗がやや遅れ気味であつたことも影響している。公共事業関係費予算の進捗率は( 第8-7表 ),9月末で23.8%となつており,中立的な支出態度だつたとみられる44年度(9月末で24.9%)より遅れ気味である。これは45年度前半は金融引締め政策がとられていたため,財政面から景気を刺激することのないよう,暫定予算による遅れを本予算の執行で取り戻さないことなど,慎重な支出態度がとられたためである。しかし,金融引締めが解除された下期に入つてからは,かなり進捗し,46年3月末には84.2%と前年(83.6%)を上回り,下期中の支払額も前年比18.1%増となつた。また一般会計予算の進捗状況は3月末で94.5%となつており,ほぼ前年(94.4%)なみの水準である( 第8-8表 )。GNPベースの中央政府固定資本形成は,44年度中前年比5~6%台の低い伸びをつづけていたが,45年度に入つてからはやや回復し,上期14.5%増のあと,下期15.7%増と増勢を高めている。

次に,地方財政についてみると,地方政府の固定資本形成は43年度以降中央政府を上回る伸びをつづけてきたが,45年度に入つてからも,前年比で上期中25.0%増,下期26.0%増と高い伸びとなつており支出が進捗している。

第8-7表 公共事業関係費予算支出状況

第8-8表 一般会計予算支出状況

こうした財政の動きを受注統計の動きからみてみよう。建設工事受注額の推移をみると( 第8-9図 ),官公庁からの受注は45年度に入つてからやや増勢を高めているが,その内容をみると,国からの受注の伸びは低い政府企業(公団+官公庁産業)からの受注も交通関係からの受注停滞を主因に鈍化傾向れつづけている一方,地方政府からの受注が住宅,学校,病院,港湾などの建設を中心に高い伸びとなつていることが目立つ。また,45年度の官公庁からの建設受注の内容を工事種類別にみると( 第8-10表 ),住宅,上下水道などの伸びが高く,住民の生活に密着した建設工事が進んでいることがわかる。

第8-9図 官公庁建設受注の推移 (3期移動平均,前年同期比増減率)

第8-10表 官公庁建設受注の推移(第1次43社)

b 税収―下期に鈍化

45年度の一般会計租税及び印紙収入は,上期中は経済の拡大がつづくなかで高い伸びをつづけたが,下期に入つてから,景気の落込みの影響を受け増勢の鈍化がみられるようになつた。すなわち,当初予算では前年度決算額に比べて15.2%の増加が見込まれていたのに対して,9月までの収納額の前年比は23.3%増とかなり高水準にあつたが,10~4月分は19.3%増と鈍化している。

主要税目別にみると( 第8-11表 ),総じて見込みを上回る増加となつているが,とくに法人税と所得税が20%をこえる高い伸びとなつている。なかでも法人税は,年度下期に入つて企業収益が悪化し,申告所得の鈍化がみられるようになつてからも高い伸びをつづけているが,これには5月期決算分から法人税が引上げられたことや所得と税収の間にタイムラグがあることなどが大きく影響している。

第8-11表 国税主要税目の収入状況

なお,法人税の延納率(半年決算大法人)の推移を金融業を除いた一般産業についてみると,金融引締めによる企業の資金ぐりひつ迫を反映して,45年3月期29.0%,9月期32.3%と上昇してきたが,金融緩和後の46年3月期には15.1%と大幅に低下した。

所得税は源泉,申告ともに当初見込みを上回つておい46年4月までの収納額の伸びは21.0%(44年度は24.3%)増となつている。また,相続税の伸び(前年比34.8%増)も高い。

間接税についてみると,酒税,揮発油税,関税等は見込みを上回つているものの,物品税は耐久消費財の売行き鈍化から見込みを下回つており,前年度に比べても伸びが鈍化している。

一方,地方税(道府県税)収入についてみると( 第8-12表 ),45年4月~46年3月の収納済額は前年比22.3%増と地方財政計画の伸び(21.0%)をやや上回つている。税目別には,個人県民税の31.4%増をはじめとして法人県民税,法人・個人事業税がそれぞれ20%をこえる好調な伸びを示しているほか,不動産取得税(38.0%)の高い伸びか目立つ。

第8-12表 道府県税主要税目の収入状況

c 補正予算の編成と財政の機動的運用

45年度予算編成では,引続き総合予算主義の原則の下で補正要因の解消がはかられたが,公務員給与の改定,食管繰入れの増加などから補正予算の編成が行なわれた(46年1月16日閣議決定)。その規模は2,633億円で,当初予算に対する比率(3.3%)も43年度(1.7%),44年度(2.8%)を上回る大幅なものであつた。歳出追加額(3,137億円)の中の主なものは,公務員給与の引上げに伴う給与改善費の増加(1,065億円),国税三税の増収及び特例措置(700億円)の取止めによる地方公付税交付金の増加(1,087億円),米の買入数量,過剰米処理数量の増加に伴う食管繰入れの増加(730億円)などである。その財源についてみると,租税印紙収入3,011億円,専売納付金122億円が見込まれたが,そのうち500億円を国債の減額に充て,残り2,633億円と既定経費節減分(404億円),予備費減額分(100億円)を歳出追加に充てることとした。

第8-13表 45年度財政投融資計画追加等の内容

また,45年11月から46年2月までの間に4回にわたる財政投融資計画の改定が行なわれた( 第8-13表 )が,その他にも,電々公社の建設投資額の追加(84億円),災害復旧事業の円滑な実施をはかるための国庫債務負担行為の増加(104億円),中小企業金融公庫の代理貸付限度の拡大,中小企業信用保険公庫の事業規模の拡大などの措置がとられた。これらの措置は国内景気が停滞色を強めていくのに対して財政面から弾力的な対応がなされたことを示している。

d 財政資金対民間収支

45年度の財政資金対民間収支は,1,447億円の揚超(前年度は1,312億円の散超)となり,前年度に比べて2,759億円の揚超増となつた。これは国際収支の黒字幅拡大等による外為資金の大幅払超増(2,469億円),公共事業関係費,社会保障費などの支払増加,国債の減額などの散超増要因があつたにもかかわらず,所得税,法人税を中心とする租税の受入増(13,200億円),保険,郵貯の受入れ増(3,930億円),米の生産調整や,自主流通米の増加に伴う食管の散超減(2,286億円)などが大きかつたためである。

第8-14図 財政資金対民間収支の推移財政資金対民間収支(季節調整値)

今回の引締め過程における財政資金対民間収支の特徴は,従来の引締め期と異なり,揚超傾向を強めてきたことである( 第8-14図 )。これは,これまでの引締め期には税収が鈍化し,国際収支の赤字化に伴つて外為の支払いが増加したのに対して,今回は,①45年度の税収の伸びは引締め後も高水準だつたこと,②食管の支払いが減少傾向にあつたこと,③外為資金が外人証投券資の流入減や日銀の輸入資金貸付の実施にともなう円シフトなどから45年度上期中散超減となつたことなどのためである。このように財政資金対民間収支が引締め期間中揚超傾向をつづけたことは,金融市場を引締まり気味に推移させ,金融政策の効果の発現を助けた。

第8-15図 財政収支と財政赤字率の推移

引締め解除後の動きをみると,輸出の増勢や外人証券投資の増大を反映して外為が大幅散超となり,公共事業費など財政の支払いが進む一方,租税収入の増勢が鈍化しつつあり,財政資金対民間収支の揚超傾向は弱まつている。

e 政府バランスの推移

45年度財政が全体として経済にどのような影響を及ぼしたかを,国民経済計算上の政府バランスでみてみよう( 第8-15図 )。財政赤字率(政府バランスの政府総支出に対する割合)は41年度の11.9%をピークとして低下傾向にある。43年度の5.8%の赤字から44年度には0.6%の黒字へと急速に黒字傾向を強め,45年度にも引続き黒字傾向をつづけ1.6%(実績見込)の黒字となつた。

これは,医療保険の支払増から,政府から個人への移転が前年度比約23%増(実績見込,以下同じ)の高い伸びを示し,政府固定資本形成も約14%増と伸びを高めたことなどから政府総支出が17.4%増と37年度以来の高い伸びとなつた。一方,経常収入が個人,法人税を中心に18.9%増と政府総支出の伸びを上回つたことによる。こうした点からみて,45年度を通じてみると政府部門のバランスは42~44年度に引続いて景気に対してやや抑制的に働いたといえよう。

(4) 46年度予算の特色

金融引締めがつづくなかで45年夏頃から,実体経済面にも変化があらわれ,45年下期以降景気の鎮静化が明らかとなつてきた。46年度予算編成はこうした経済情勢を背景として行なわれたが,その基本方針は,景気動向に即した財政金融政策の弾力的運営により経済の持続的成長と物価の安定を確保すること,社会経済の進展に応じた適切な資源配分をはかり国民生活の充実向上をはかることとされた。

その特色の第1は,財政規模は経済に対して中立的な性格のものとされたことである(前出 第8-2表 )。一般会計予算規模は9兆4,143億円で前年度当初予算に対して18.4%増であり,景気刺激の回避がはかられた42~45年度に比べて高い伸びとなつた。また,財政投融資計画は4兆2,804億円で前年度(当初計画)に対して19.6%増と42~45年度の伸びをかなり上回つた。一方,地方財政計画は9兆7,172億円,19.6%増と引続き高い伸びとなつた。これを経済に及ぼす影響という点からみると,政府の財貸サービス購入は13兆7,900億円で前年度比15.4%増と前年度(15.3%増)なみの増加が見込まれている。これは46年度の名目経済成長率(政府経済見通し15.1%)をやや上回る程度であり,経済に対して中立的な性格のものといえよう。このような政府固定資本形成については17%をこえる伸びが見込まれており,42年度以降はじめて名目経済成長率を上回る伸びとなつた。

また,43年度以降一貫して減額の方針がつづけられてきた国債,政保債発行額も,46年度においてはそれぞれ4,300億円,3,000億円となり,45年度(当初)と同額に据置かれた。

第2は,経済情勢の変化に財政が機動的に対処できるよう政府保証債等の発行限度を弾力化することなど,財政の弾力的運用の範囲が拡大されたことである( 第8-16表 )。これらにより46年度財政は歳出面において7,000億円強のレギュレーターを装備していることになる。また,このほか非特定国庫債務負担行為の限度額の増額(45年度200億円→46年度300億円),一般会計予備費の増額(1,100億円→1,400億円)などの措置がとられている。

第8-16表 政府保証債等の弾力条項

第3は,国民負担の軽減合理化である。まず,所得税については,中小所得者の所得税負担の軽減を中心に初年度1,666億円(平年度1,989億円)の減税が行なわれ,給与所得者の課税最低限(平年度)は夫婦子2人で90万円→98.5万円(夫婦子3人で105,9万円→115.4万円)に引上げられた。また,個人住民税については,住民負担の軽減合理化をはかるため,課税最低限の引上げを中心として初年度744億円(平年度783億円)の減税が行われた。次に,租税特別措置については輸出振興税制の縮減,交際費課税の強化などの措置がとられた反面,公害防止,海外投資・資源開発,住宅政策及消費貯蓄奨励等に関する優遇措置が強化された。また,道路その他の社会資本の充実の要請を考慮して,自動車利用者に新たに応分の負担を求めることとして,トラツク,乗用車に対して重量に応じて課税する「自動車重量税」(増税額初年度302億円,平年度938億円)が創設された。地方税についても,住民税の減税を中心に初年度804億円(平年度869億円)の減税がはかられた。

第4は,食管などで財政体質の改善がはかられる一方,公害対策の拡充,社会資本の充実,社会保障の整備などの重要施策の前進がみられたことである。食管制度については,①米の単年度需給の均衡を図るため,230万トンの生産調整を行ない政府買入量を580万トンにとどめることとし,これを超える分については農業団体が保管,売却する,②45年度に引続き生産者米価を据置く方針がとられ,消費者米価については物価統制令の適用を廃止する(ただし,生産者米価は46年5月に実施3.02%引上げられることとなつた),③政府手持ち過剰米について本格的な処分を開始する,などの措置がとられた。

いくつかの重要施策についてみると,①公害対策について環境庁を新設するとともに,下水道等の生活環境施設を大幅に充実するなど積極的な施策がとられた。②社会資本については,住宅,下水道など生活関連施設を中心に公共事業関係の予算,財政投融資の大幅な増加がはかられ,また,住宅,下水道,港湾,空港,交通安全施設等について新規5カ年計画が策定された。③社会保障についても,児童手当制度の発足,厚生年金の10%引上げ,社会福祉施設の画期的整備,生活援助基準の14%引上げなどの措置がとられた。④また,国民の健全な貯蓄心を涵養し,自発的な資産形成を促進するため,貯蓄奨励,勤労者財産形成のための措置がとられた。

また,地方財政計画においては,地域社会の著しい変貌に対処し,各地域の性格に応じて住みよい環境づくりを推進するため,人口急増地域における公共施設の整備,総合的な過疎対策の推進,公害対策,広域市町村圏の整備に対する財政措置を充実するとともに,地方道,下水道,清掃施設,住宅,交通安全施設等,住民生活に密着した生活関連社会資本の計画的整備を推進することとしている。

(5) おわりに

最近の経済動向をみると,国際収支が大幅な黒字をつづけており,金融の緩和が次第に企業段階に及びはじめている。銀行貸出,輸出の急増のなかで一部業種に底入れの気連もみられるものの,全体としての国内景気は停滞をつづけている。このような国内景気の停滞のなかで,46年度財政は出発したわけであるが今後経済を持続的な安定成長軌道に回復させていく上で財政の果す役割は大きい。

すでに46年度予算の実行にあたつて公共事業の施行促進措置(上期中の契約ベース進捗率72%を目棟)がとられているが,今後さらに景気の停滞がつづく場合には,弾力条項の活用も含めて財政面からの追加的景気刺激策が必要なことも考えられる。

財政支出の増大は波及効果を通じて最終需要を盛上げ,各産業活動に影響をもたらす。こうした効果を当庁マスターモデルと40年産業連関表によつて試算してみると,上期中2,000億円の政府固定資本形成の増大は年間約5,000億円の最終需要の増大をもたらし,その結果1兆684億円の生産額が誘発される( 第8-17表 )。業種別の影響をみると,建設業が政府固定資本形成による直接の影響を受けるほか,誘発需要,産業連関効果により製造業,サービス業の生産も増加することになる。

第8-17表 財政支出増大の各産業に及ぼす効果(試算)

このように短期的な景気調整策の観点から財政支出の増加が要請されているわけであるが,これは長期的資源配分の観点からみても望ましい方向に沿ろものである。

戦後25年,順調な経済発展を遂げてきた日本経済も最近では大きな転換期を迎えているように思われる。内にあつては,社会資本の不足現象が著しく公害対策の充実が要請されると同時に,次第に増大する老令人口に対処して社会保障の充実が求められている。また,国際収支の黒字額が巨額化しつつあり,これが国内経済に大きな影響を及ぼすとともに,対外的にも黒字国としての節度を求められるようになつてきている。こうしたなかで,対外不均衡を回避しつつ,国民福祉の向上を図つていくためには,これまでの民間投資主導型の成長パターンを支えてきた資源配分を大きく転換していくことが必要となろう。

こうした観点から公共投資の大幅な拡充や,輸出優遇につらなる財政金融面の諸制度について再検討していくことが必要である。


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