昭和46年

年次経済報告

内外均衡達成への道

昭和46年7月30日

経済企画庁


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7. 農林水産業

(1) 農  業

昭和45年は,米過剰を背景に米の減産政策が本格的に実施された年であつた。米の生産調整は,わが国農政史上でも初めての措置であり,農業をめくる環境は今までになく厳しいものであつた。この影響は広汎な領域に及んでおり,農業所得の減少などにみられるように農家経済にも従来にない大きな変化が示されている。以下,45年度の農業について特徴的な動向をみてみよう。

a 減少した農業生産と農産物価格の上昇率鈍化

45年の農業生産は,前年比2.1%の減少となり,44年(1.5%減)につづき2年連続して減少した( 第7-1表 )。これは,戦後25年間にもなかつたことであるが,それは米の減産が最も大きな原因であつた。しかも,農産物価格は,米価の据置き,畜産物の需給緩和などもあつて価格上昇率も鈍化した( 第7-2表 )。

第7-1表 農業生産の推移

第7-2表 農産物生産者価格の推移

45年度の農業生産および農産物価格の特徴的な動きの第1は,生産調整による米の減産と米価据置きである。45年産米の収穫量は1,269万トン前年比131万トンの減少(9.4%減)であつた。転作,休耕などによる生産調整は,目標数量の100万トンを39%も上回る実績となつたが,この米生産量はなお総需要量(44年度1,197万トン)をこえるものであり,過剰在庫をさらに累積させることとなつた。米の政府買入価格は,需給事情をも考慮し,44年産米につづき再度据置きとなり,また,等級間格差の拡大などの措置がとられた。

第2は,畜産物の価格が生産増による需給緩和などにより大幅に低下(前年度比6.6%低下)したことである。畜産は,耕種部門の生産減少と対照的に前年比11.2%増と過去5カ年の平均伸び率7.2%をも上回る高い伸びを示した。鶏卵は7.4%の生産増となつたが,需要の停滞傾向とあいまつてかなりの長期にわたつて価格低迷がつづいた。また,豚肉の生産は前年比22.5%増となつたため,価格は前年に比べ17.3%と大幅な低下を示した。

第3は,農産物価格の上昇率が鈍化するなかで,野菜・果実の価格は前年比それぞれ17.0%,11.3%も高騰したことである。45年度平均の消費者物価指数(全国)についてみても,野菜,果物の上昇率は19.0%,11.9%増であり,総合(45年度上昇率7.3%)に対する上昇寄与率は両者で12.2%を占めている。野菜価格の上昇は,米の生産調整による転作などもあつたが,作付面積は,ほぼ横ばいとなり,加えて天候不順などもあつて,生産量は前年なみにとどまつたことによる。野菜は,作況が天候に影響されやすいこと,価格変動による収益の不安定性や都市化による畑地のかい廃などによつて作付面積が減少傾向にあることなど供給が不安定である。このため,野菜価格は需要が増大する中で傾向的に上昇する要因ともなつている。また,果実の価格上昇については,みかんの収穫量は前年比25.3%の大幅な増加となつたが,りんご,ぶどうなど他の果実の収穫量が天侯不順もあり,生産がふるわなかつたことなどによる。

他方,農産物輸入の動向をみると,45年は32億4,700万ドル,前年比20.5%増とかなりの増加を示した( 第7-3表 )。しかし,農産物輸入額が総輸入額に占める割合は,17.2%と前年の17.9%に比べわずかに低下している。農産物輸入が増加した主な原因の第1は,旺盛な需要増を背景とした粗糖,大豆の増加である。数量では粗糖が16.7%,大豆は29.3%の大幅な増加を示し,とりわけ粗糖は国際糖価の続騰によつて輸入価格が大幅に上昇したことによる。

第2は,とうもろこし,グレーンソルガムなど飼料用穀類の増加である。これは,国内での畜産の生産増に対応するものであるが,加えてアメリカにおける「葉枯病」の発生などによるとうもろこし需給のひつ迫や,グレーンソルガムへの代替需要の増加などによる価格上昇も強く影響した。

第3は,コーヒー豆,カカオ豆およびバナナなどが増加を示したことである。これらの果実,し好品などは食生活の高級化,多様化および関税引下げなどにより今後とも増加傾向を続けるであろう。

第7-3表 農産物の輸入

一方,農産物輸入が増大するなかで,輸入の自由化がかなり進められたことも特筆される。残存輸入制限品目数は,45年1月末の120から46年3月末には80に減少したが,このうち,農林水産物の品目数はこの間71から53まで減少している。しかし,農林水産物の占めるウェイトはなお大きいものがあり,これからも自由化を進めなければならない。今後,豚肉などわが国農産物と関連の深いものの自由化も予定されており,その動向が注目される。

b 農家労働力の大幅な流出

農家世帯員の動向をみると,農家からの流出傾向はいぜん続いているが,そうしたなかで米の生産調整などによる農業所得の減少もあつて,今までとは様相を異にする動きもみられる。45年中の農家世帯員の異動は,73万人の純減(年当初人口2,674万人に対して2.4%の減少)である。「農家の減少による」ものが傾向的に増加しているが,農家世帯員の減少の最も大きな要因は他産業への就職による流出である( 第7-4表 )。45年中に他産業に就職した農家世帯員数は80万6千人で,前年に比べ6千人増となつている。その内容をみると,特徴的なことは新規学卒を中心とした「19才以下」の若年層が62.2%と過半を占めているが,その比重は年々低下していること,それに代つて,「20~34才」,「35才以上」の階層の流出が急激に増加したことである。このことは,就職前に「農業が主」だつたもの,あるいは「世帯主」であるものなどが実数でも増加していることに対応するものである。また一方,在宅通勤のウェイトがさらに増大していることにもその一端が示されている。

出かせぎが増加したことも,いまひとつの特徴である(同, 第7-4表 )。出かせぎは,40~43年には年間23万人前後で推移していたが,その後44年27万人,45年には29万人とふえ,過去のピークである30万人(38年)に近づいた。

このように,農家世帯員の就職流出はいぜんとして続いている。今後とも他産業からの労働力需要の増大,一方での農業収入の停滞的傾向,他産業部門との所得格差および農業生産力の上昇などもあるので,今まで同様の流出傾向はつづくであろう。しかし,農家から他産業への就職純流出者数は38年をピークに減少傾向を示しているので,労働力の供給源としての役割は相対的に縮小することになろう。

第7-4表 農家世帯員の他産業への就職者数および出かせき者数

c 減少した農業所得

45年度の農家経済の特徴の第1は,農業所得が前年度比5.0%の減少となつたことである( 第7-5表 )。農業所得の伸び率は,これまで35~42年度間の年率12.4%,43,44年度にはそれぞれ3.3%増,0.4%増に推移してきたことと比較すると,45年度の農業所得の減少は今までにない変化である。この農業所得の減少は,農産物価格の上昇鈍化などもあるが,生産調整による稲作販売収入の減少(44年度比10.6%減)が最も大きく影響した。しかも,こうした農業所得の減少は,農業経営費の大幅な上昇によつたものではない。45年度の農業経営費の上昇率は,44年度の10.2%増から4.5%増に鈍化した。加えて「農村物価指数」によれば,農業生産資材価格の上昇率は3.2%であるので,農家の物的農業経営支出は実質的には44年度より低下したとみられる。主要な農業生産諸資材についての45年度の出荷額の動向をみると,化学肥料,農薬および農業機械ともに前年なみの横ばいないし減少傾向を示し停滞色を強めている。米価の据置き,減反などが,農業投資にもその影を落しているのである。

第7-5表 農家経済の諸指標(全国・1戸当たり平均)

第2は,農外所得が前年度比22.6%増と大幅な上昇を示したことである。これは,農業所得の減少を補填しようとする農外所得への傾斜依存のあらわれてあり,農家世帯員の兼業機会が増加したこと,および賃金上昇率も44年度につづきかなり大幅であつたことなどによる。

農家所得は前年度比10.9%増となつたが,所得増加分はすべて農外所得に依存したものである。この結果,農家所得に占める農外所得のウェイトは44年度の57.7%から45年度には63.7%へとさらに上昇している。他方,出稼・被贈扶助等の収入は,生産調整奨励補助金および出かせぎによる収入増などもあつて,前年度比30.6%増となつた。このため農家の可処分所得は前年度比12.4%増となつた。

第3は,農家所得および可処分所得がかなりの伸びを示したのに対し,農家の家計支出の伸びにやや鈍化がみられることである。農家の家計支出は,前年度比13.3%増と従来とほとんど変らないが,小づかい,送金などを除いた物的家計支出の伸び率をみると,44年度の14.4%増に対して45年度は13.3%増と低下している。また,同じく「農村物価指数」によつて農家の生活資材価格の上昇率をみると,ここ3~4年は4%程度であつたが,45年度は7.3%となつた。このため,家計の物的支出の伸び率は実質的に低下している。以上のように農業生産資材を中心にして農家支出の伸びが鈍化したのは,農業所得が減少したことと,43,44年度の農家所得の上昇率が従来より小幅であつたことなどによる。

d 米過剰の深刻化

45年度の農業および農政は,米の減産政策のま施などに示されるように,政策転換の苦悩のなかにある。42年以降の1,400万トンをこえる生産力水準の上昇と,一方での需要の傾向的減少などによつて,米過剰は急速に表面化した。44年10月末の政府古米在庫は553万トンに及び,44年度の食管赤字は3,564億円に増大した。こうした米過剰を背景に44年度には稲作の作付転換,自主流通米制度の創設,政府買入米価の据置きなどの措置がとられ,45年に入つてさらに米の生産調整による減産対策の本格的実施および米価の再度の据置きとなつたのである。45年産米についての減産対策は150万トン以上を目標数量とし,うち100万トン以上を転作,休耕などによる生産調整によるものとした。

生産調整は予想以上にすすみ,計画目標を数量で39%も上回つた(減反実施面積338千ヘクタール),このため,生産調整奨励補助金(10アール当り平均3万5千円)も当初予算の810億円に対し1,126億円の支出増加となつた。減反の内容をみると,転作(土地改良事業も含む)は,減反実施面積の22%であり,休耕のウェイトは78%と高いものであつた。転作の作物で多かつたものは野菜,飼料作物であつた。

このように,生産調整は計画以上に進捗したが,45年産米の収穫量は1,269万トンとなり,過剰在庫にさらに余剰米を上乗せることになつた。しかし,もし,生産調整を実施しなかつたと仮定すれば1,400万トンをこえる生産量であつたと見込まれるのである。45年産米の政府買入数量は675万トン(46年2月末現在)で,前年同月に比べ22%減となつているが,これは米の減産と自主流通米の増加などによる。44年産米からはじまつた自主流通米制度は,当初見込み170万トンに対し86万トンの販売実績であつたが,45年産米については,制度の定着などもあり92万トン(46年1月末現在)と前年に比べ増加している。

46年産米については,230万トンの大幅な生産調整が計画・実施されている。しかも,政府買入限度数量を760万トンとし,生産調整奨励金にも転作休耕などによる格差を設けるなど,前年度より一歩進んだ措置がとられている。

他方,生産調整などの過剰対策と平行しての過剰米処理もいまひとつの問題である。45年10月末現在の政府古米在庫は720万トンにのぼるが,輸出向けおよび加工用・飼料用原料などへの売却が予定されている。いずれの場合にも,かなり多額の財政負担を要するので,計画的な処理対策が必要とされている。

以上のように,45年度の農業の動向は今までとは異なつた様相を示した。米価据置き,生産調整などが実施され,農業所得も減少し,農家の購入態度にも大きな変化が示された。従来,景気変動に対して農業部門は安定的要素として働いてきたが,45年はそうした働きは後退したものといえよう。他方,多くの農家は農外所得への傾斜依存をさらに強め,農家経済の性格を大きく変えようとしている。一面,このなかで経営の規模を実質的に拡大しているものも萌芽的にあらわれている。階層分化の過程で生産性の高い経営を育成していくことが今後の課題である。物価の安定,農産物輸入の自由化の促進,米過剰の解消,農業所得の維持,農業生産の地域分担など具体的な問題と取り組みながら抜本的な総合対策を進めていくことか重要である。

(2) 林  業

a 見直される森林の機能

高密度経済の発展に伴い都市の過密化,公害の増大,自然の破壊が目立ち国民の自然に親しもうとする欲求が非常に大きくなつている。それに所得の向上,余暇の増大,交通手段の発達と相まつて戸外レクリエーション活動が増大し,森林も木材供給という経済的機能のほかレクリエーションの場として重要な役割を果している( 第7-6表 )。さらに生活環境の悪化により森林のもつ環境浄化,水源のかん養,野鳥獣保護等の公益的機能もあらためて国民の前に大きくクローズアップされることになつた。

第7-6表 国立国定公園利用者数の推移

これらの国民的要請に応えて自然休養林はさらに増設され,46年度からは新たに森林のもつ保健機能を含む公益的機能が総合的に発揮されるように森林の造成・改良など保全林整備事業が進められることになつた。さらに都道府県でも県民の森等公益的森林の設置や自然保護条例の制定が進められている。しかし民有林は農業を主とする零細林家が所有する低質な森林が多く,公益的機能を果すには十分でないと考えられる。これらの森林について伐採した後,その跡地に造林することによつて林相を改良する必要がある。

b 高まる外材依存

経済の高度成長にともない木材需要が年々増大し,45年の用材需要は1億立方メートルをこした。一方供給面では国産材が資源的制約,林道投資のおくれ,労働力不足等の影響で供給不足となり,代つて外材が安価で均一な材質のものが有利な取引条件で大量に入手できることから逐年増加し,45年は供給量のほゞ55%を占めるにいたつている( 第7-7表 )。

産地別輸入量のシエアについてみると南洋材は48%,米材30%,ソ連材17%,ニュージーランド材4%となつている。このうち大半を占める南洋材と米材について産地事情をみると,南洋材産地ではインドネシヤの抬頭が著しく南洋材輸入量の30%を占めるにいたり,最近ではニューギニアからも輸入されるようになつてきた( 第7-8図 )。合板価格が高騰した45年上半期には各産地でシンガポール,韓国,台湾との原木買付競争が激化したことも開発途上国における合板産業の発達と考えあわせ注目すべきである。

第7-7表 用材需給

第7-8図 国別南洋材(原木)輸入量の推移

米材産地では連邦有林産丸太の輸出規制が44年から実施されているが,45年にはとくにアメリカの住宅建築が低調で需要が停滞したため,輸出ドライブがかかりわが国の米材輸入は増大した。

最近注目されている開発輸入は40年代にはいつてから南方諸地域を中心に活発化しており,とくにわが国の外貨事情の好転などもあつて進出規模が大型化してきている。また最近では進出の許可条件として従来のような丸太取得のみでなく,資源開発と現地加工との組合わせ等の総合的な開発条件を相手国から義務づけられるものもでてきた。

開発輸入は木材資源の長期安定的確保のうえから重要な意義を有し,かつ相手国の経済発展を助長する効果をもつている。しかし,多額の資金調達が必要なことや相手国経済開発との調和,資源調査の困難性,搬出・積出し施設その他社会環境の整備,跡地の利用,国土の保全等解決すべき問題点が多い。

c 鎮静化した木材価格

木材・同製品価格は43年度以降上昇率が鈍化し45年度は対前年度比3.5%の上昇率にとどまつた( 第7-9図 )。季節的にみると例年低調な5~7月にあつても市況は堅調に推移していたが,45年央以降の景気の後退と相まつて米材および合板の在庫過剰を生じ,通常上向く9月以降に大きく値下がりした。とくに年々上昇してきた国産素材が38年度以降はじめて対前年度比0.6%の値下がりとなり,なかでも独歩高を示していたヒノキは,主に外材を原材料とした防腐土台角の進出等の影響もあつて46年にはいり急速に値下がりしたことが注目される。またラワン材は産地における開発途上国との買付競争によつて値上がりしているが,その製品である合板の価格は,価格上昇期における増産と韓国等からの輸入の増大によつて在庫過剰となり,45年6月頃を転期に大幅に下落した。

第7-9図 主な素材の価格推移

このような木材価格の動向は林業経営体あるいは関連業界にかなり影響を与えた。

d 増加した造林面積

36年度の415千ヘクタールをピークに毎年減少を続けていた人工造林面積は,44年度に8年ぶりに増加に転じ約362千ヘクタールと42年度の水準に回復した( 第7-10図 )。この増加は,人工林伐跡地以外に造林するいわゆる拡大造林の増加によるもので45年度にはいつても増加傾向が続いている。これは第1には国有林で低質広葉樹林改良のための森林資源充実特別事業が進められたことと,第2には民有林で42年度から実施されている団地造林事業の実施や各種記念造林,森林組合の活動等が相まつて造林が進んだこと,第3にはこれを補うものとしての造林公社および森林開発公団による造林も増加したこと,などによるものであつた。

第7-10図 人工造林面積の推移

しかし今後は労働力不足,労賃や苗木代の高騰,広葉樹のパルプ・チップ材としての利用の減少が深刻化すると予想されるので,造林についてはこのような情勢に即した施策を強化する必要がある。

(3) 水産業

a 高まつた漁業生産

昭和45年のわが国の漁業生産量(鯨を除く)は,927万トンで史上はじめて900万トン台を記録した( 第7-11表 )。これは,すけとうだら,さばの生産が引続き大幅に増加したことによるものであつた。

第7-11表 漁業生産量の推移

海面漁業を部門別にみると,すけとうだら,さばの漁獲増を反映して,速洋漁業は9%,沖合漁業は10%前年を上回り,沿岸漁業も43年,44年と続いた減少から45年は前年を3%上回つた。

総生産量では史上最高であるにもかかわらず,魚種別にみると,需要の強いまぐろ類,まあじの漁獲は40年以降減少しており,するめいかも43年をピークにして減少している。またかつて,秋の味覚として親しまれたさんまも45年は前年に比べ漁獲が増大したものの,36~37年の水準からみると5分の1に減少している。結局,これらの魚種の生産減少をカパーし史上最高の生産に寄与したのは,主として加工に向けられるすけどうだら,さばの2魚種であり,海面漁業にしめるこれらの2魚種の生産比率は40年には21%であつたものが45年には42%に上昇し,生産魚種の構成は大きく変化している。

浅海養殖業の生産量は515千トンで前年に比べ9%増加したが,これはのり養殖業が前年比72%と大幅に増加したことによるものであり,かき養殖業では台風等の影響で,前年を22%下回つた。

つぎに,漁業経営体の動向をみると,経営体数(漁船非使用を除く)は40年以降微増傾向にあつたが,45年は3トン未満の沿岸漁業経営体の減少により,総数は前年より1.7%減少し,228.2千となつた。漁業経営体の階層別構成は,沿岸漁業経営体が96%と大勢を占め,10トン以上1,000トン未満の中小漁業経営体は4%,1,000トン以上の大規模経営体は近年漸増傾向にあるもののわずか0.07%(169経営体)にすぎない。大規模経営体は構成比率としてはきわめて低いが,経営の中心である遠洋,沖合漁業の近年における著しい発展を反映して,44年には海面漁業総生産額中30%のシエアを占めている。

b 年々増大する水産物の輸入

高度化,多様化する需要と,国内産中・高級魚の供給の伸びなやみによる需給ギャップを反映して水産物の輸入は年々増加している。45年は前年に比べ22.1%の伸びを示し,318百万ドルとなつた( 第7-12表 )が,これは,わが国の輸入総額に占める割合では1.7%にあたる。

水産物輸入の上位5品目をあげると,えび,かつお・まぐろ,いか・たこ,魚粉,さけ・ますの卵の順となる。とくに,えびについては食生活の洋風化,外食比率の高まり等による需要の増大から,年々輸入が増加しており,45年には,57千トン,137百万ドルに達し,水産物輸入金額のうち47%を占め,輸入先国も51カ国(属領を含む)に及んでいる。かつお・まぐろも旺盛な需要に起因する堅調な国内価格を反映して,近年,輸入が増大しており,数量では51千トン(前年比41.7%増),金額で25百万ドル(同82.8%増)の大幅な増加となつた。

第7-12表 水産物輸入の推移

飼料用魚粉は44年に引続き45年も量的には減少し,95千トンにとどまつた。これは国内産のさばおよびすけとうだらの飼料用魚粉が増産されたことによる影響が大きい。

つぎに,主要輸入先国別に輸入実績をみると,韓国,中国(大陸),アメリカ,中国(台湾),メキシコ,オーストラリア,タイ,インド,ペルー,香港の順であり,この10カ国で水産物輸入金額の66%に達している。

c 上昇を続ける水産物価格

水産物の生産地価格は,44年(前年比17.2%の上昇)に引続いて45年も12.4%の上昇となつた( 第7-13表 )。品目別にみると,かつお・まぐろ類では生産の減少と旺盛な需要を反映して,前年比24.6%の大幅な上昇を示した。あじ,するめいかも生産減少により,それぞれ54.7%,21.7%と大幅に上昇したものの,さばは前年と同水準であり,さんまは生産の増加と,魚体が比較的小型であつたため,28.7%下落したこと等などにより,多獲性魚全体の前年比上昇率は15.0%と44年の54.7%に比べて値上がり率は鈍化した。

第7-13表 水産物価格指数

かまぼこ等ねり製品の主要原料であるすけとうだらの価格は,生産が45年に増加したにもかかわらず,すり身品質の向上等による需要の増大のため,前年を若干上回る結果となつた。

さけ・ますの価格は,冷凍品の在庫による圧迫等もあつて,前年にくらべ10.4%下落した。

つぎに,45年の生鮮魚介類の消費者価格指数(全国)は,野菜,果物に次いで前年比20.6%の大幅な上昇であり(前掲 第7-13表 ),塩干魚介類も11.1%と高い上昇を示している。しかし,海草類はのりの豊作による価格低下により5.7%前年を下回つた。

生鮮魚介類の消費者価格を品目別にみると,さけ,さんまの下落を除いてはいずれも上昇したが,とくに,中・高級魚であるまぐろ,たい,たこ,生産の減少したあじ,するめいかや,家庭用に向けられる大型さばの価格上昇が大きく,これらの6品目で生鮮魚介類全体の価格上昇に対する寄与率は84.5%であつた。

生鮮魚介類の価格上昇は,基本的には需要の増大とその多様化に供給が十分対応しえないことによる面が大きく,たとえば,6大都市中央卸売市場の入荷量の推移( 第7-14表 )をみても,加工品にくらべ,生鮮・冷凍魚介類の伸びは停滑傾向にあり,近年の外食等業務用需要の増大を考慮するならば,一般家庭向けの供給が伸び悩んでいることがうかがわれる。

第7-14表 6大都市中央卸売市場入荷量

今後,水産物に対する需要に応じるためには,沿岸漁場の海洋環境を保全し,漁業生産基盤の整備と魚族資源の培養をはかるとともに,新漁場の開発により,需要の強い魚介類の供給増大に努め,あわせて国民食生活の高度化,多様化に即応した水産物流通の合理化がいつそう望まれる。


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