昭和46年
年次経済報告
内外均衡達成への道
昭和46年7月30日
経済企画庁
昭和41年度以降,建設活動は民間設備投資の盛行,社会資本充実のための公共投資の増大を背景に活発な動きをつづけている。45年度の建設受注,着工は金融引締めの影響もあつて年度後半にはその増加率はかなり鈍化を示したが,年度間を通じては建設活動は比較的活発な動きを示した。建設業の売上げも前年に引続いて増大し,企業収益も高水準を維持した。こうしたなかで.建設業の労働力不足は深刻の度を強め,技能労働者を中心とする建設労働力の確保と資質の向上,建設技術の高度化と施工のシステム化による生産性の向上をどのように促進するかが,国土建設の成果を高めると同時に建設業を今後さらに発展させる条件としてますます大きくクローズアップされてきた。以下45年度を中心とする建設業の動向と当面の課題についてみてみよう。
まず,45年度の建設活動を受注面からみてみると,建設工事受注総額(第1次43社分)は前年度比19.9%の増加を示した( 第6-1表 )。これは44年度の増加率33.3%を下回つたが,40年度以降では44年度につぐ高い増加率であつた。発注者別の受注は,民間部門が44年度の43.6%増から45年度には16.6%増と増勢は大幅に鈍化したが,これは鉄鋼,機械などを中心とする製造業からの受注が前年度比2.2%の減少となつたことが影響した。こうして製造業の伸び悩みに対して非製造業からの受注は30.5%増,また非民間部門では官公庁部門からの受注は24.4%増と40年度以降最も高い増加率を示したことが目立つた。建築,土木という工事種類別には両者とも45年度の増加率は44年度よりかなり鈍化を示した。建築は製造業関連の工場・倉庫・発電所が44年度と比べ若干減少したものの,事務所・店舖・興業娯楽場や住宅などが44年度を上回る増加率を示した。また土木は鉄道,水力発電などの建設が手控えられたことが影響し,前年度を下回る伸びとなつた。
以上のように45年度の建設受注は製造業の増勢鈍化,それとは対照的に非製造業および官公庁部門の好調持続という動きを示したが,こうした傾向は建築工事の着工にもみられる。すなわち,建築着工工事費予定額は44年度の28.7%増から45年度には20.2%増へと低下するなかで,法人,個人の増勢鈍化に対して,都道府県,市区町村など公共部門の着工は44年度の26.1%増から45年度には43.1%増と,さらに増勢を強めたことが目立つた( 第6-2表 )。着工の用途別のうちわけも,鉱工業用,居住・産業併用の伸び悩みに対して,商業,サービス業,公益事業など第三次産業関係が44年度に引続いて高い伸びを示した。
他方,建築着工を構造別にみると,木造は43年度以降増勢が弱まり45年度は,前年度比13.4%の増加にとどまつた。これに対して非木造は,都市の高層化と不燃化傾向を反映して,高い増勢をつづけ,とくに鉄骨鉄筋コンクリート造は前年度比41.4%の大幅増加となつた。
このように建設受注および建築着工は44年度に高い伸びを示したあと,45年度の増加率は製造業を中心に鈍化した。その背景である建設投資の動向を建設省推計でみると,45年度の建設投資総額(実績見込み)は,前年度比20.3%増の15兆664億円にのぼつている。工事主別には政府建設および民間住宅投資が前年度に引続き比較的高い伸びを示したが,民間産業建設投資は44年度の増加率にはおよばなかつた。工事種類別には建築工事が前年度比21.6%増と,土木工事の17.9%増を上回つた。
それでは以上のような45年度の建設活動が過去の37年,40年の景気後退局面と比較してどのような特色をもつていたかをつぎにみよう。
45年度の建設受注総額(季節調整値)は,前期比で45年4~6月期7.9%増,7~9月期3.0%増,10~12月期3.2%減とかなり急速に鈍化しついで46年1~3月期には14.4%増となつている。ただ46年1~3月期に受注はかなり持ち直したかにみえるが,これは3月が景気後退下の期末月という特殊要因が働いたためであり,4月には前月比で27.1%減と大幅な減少を示しており,増勢基調に転じたとは必すしもいえない。
この建設受注および建築着工の推移を過去の景気後退期と対比すると 第6-3図 および 第6-4図 にみるように,今回の特徴は第1に,37年,40年にはいずれも景気の山の約4カ月前ごろから受注の停滞現象がみられたが,45年においては受注鈍化はそれより遅れてあらわれ,しかも受注横ばいの期間はこれまでの後退期に比較して短かかつた。第2は発注者別には,37年,40年とほぼ同様に45年も官公庁からの受注がふえ,逆に民間からの受注が減少を示しているが,民間受注のピーク時からの落込み度合は,37年,40年に比較して小さかつた。この最も大きな要因は製造業からの受注減とは対照的に商業・サービス業・金融保険業など非製造業からの受注が増加を示したことである。
第3は,建築着工の推移も建設受注とほぼ同様な特徴を示しているが,37年,40年と比較して若干異なつているのは,居住専用住宅が45年にはかなり減少したことである。これには37年,40年当時に比べて個人住宅ローンの普及が進み,また不動産業者によるマンション建設が活発化したものの,それらが金融引締めにより着工が手控えられたことが影響したとみられる。
以上のように45年度の建設受注および建築着工の伸び率は44年度より低下したが,建設業自体の売上高はこれまでの旺盛な受注の工事完成により44年に引続いて順調な拡大を示した。大蔵省「法人企業統計季報(資本金200万円以上の法人)」によれば,建設業の売上高は,44年の10兆4,409億円から45年には13兆2,747億円にふえ,売上げ増加率は44年の25.3%増から45年には27.1%増へと高まつた。総資本収益率も44年の5.7%から45年には6.0%へと上昇し,40年以降最も高い水準を設録した。これは同じ調査による製造業の総資本収益率が鉄鋼,電気機械などの主力業種の不振によつて44年の6.9%から45年には6.3%へと低下を示したのとは対照的であつた( 第6-5表 )。建設業の45年の収益率の高まりは,総資本回転率が売上げの増加もあつて44年と同じ高率(1.55回/年)を維持したこと,売上高純利益率(税引前)が44年の3.7%から45年には3.9%へとさらに上昇したためであつた。売上高純利益率の上昇には,間接費である一般管理・販売費比率が上昇(対売上高比率44年9.7%→45年9.9%)を示したが,これとは逆に①人件費比率が賃金の大幅な上昇にもかかわらず,売上高の順調な拡大によつてその負担は相対的に下がつたこと(同11.6%→11.4%),また②業容の拡大と機械化から近年活発であつた設備投資により,ふえだした減価償却費や,金融費用が,いずれも売上げの拡大でコスト負担要因としてほぼ44年なみにとどまつたことなどが影響した。このほか③それまで値上がりをつづけてきた銅材,木材などの建設資材価格が,景気後退による需給の変化で値下がりしたことが建設業にとつて幸いした。
主要資材価格の動向を卸売物価指数(日銀調べ)でみると,40年から45年の過去5カ年間に,砂,砂利などの土石類が46.8%,製材38.9%,セメント・同製品18.8%,普通鋼鋼材10.6%とそれぞれ値上がりを示している。しかし,最近の動きをみると, 第6-6図 に示すように土石類,セメント・同製品は引続きジリ高傾向を続けているものの普通鋼鋼材は45年に入つて低下傾向をたどりはじめ,45年2月のピーク時から46年4月までに11.4%下がり,また製材も46年4月には前年同月比で4.7%低下している。40年の産業進関表を使つて45年の建設資材価格の変化が建設業に与えた影響を試算してみると,鋼材(0.71%),木材・同製品(0.49%),窯業製品(0.29%),非鉄金属(0.27%)などのほか機械等を含めて約2%が材料費での上昇要因として働いている。これに対して45年の建設価格の上昇率(建設省調べ)は,建築工事費,土木工事費ともそれぞれ約6%の上昇を示している。こうした材料費の値上がりを上回る建設工事費の上昇と前述の人件費比率,減価償却費比率,金融費用比率の低下などによつて建設業の売上高原価比率は44年より低下し45年の純利益の上昇要因として働いた。
以上のように45年の建設業は受注の増勢鈍化を示したものの企業の収益率は高水準を維持したが,こうしたなかで登録建設業者数が再度高い増加を示したことと,他方では倒産企業も増加したことが45年の特徴であつた。登録業者数は40年以降年率約10%のテンポでふえつづけてきたが45年度末には44年度末に比べて18.2%ふえ,業者総数は19万に達した。建築および土木工事の一式施工を請負う総合工事業者数は減少を示したが,逆に専門工事業者数は著増した( 第6-7図 )。専門業者の増加は,建設業法改正による登録制から許可制への移行や根強い建設活動と大手業者の外注依存度の上昇がその主因とみられる。そのなかで不安定な経営によつて倒産する専門業者もみられた。銀行取引停止処分者件数(全国銀行協会連合会調べ,資本金100万円以上の法人)でみると,40年以降総件数のうち建設業は約20%を占めているが,最近の建設業の取引停止処分者件数は,44年には前年比20.8%減の2,209件,つづいて45年には14.9%増の2,538件へと増加した。
最高時には1日1万人という建設労働者を集めた万国博関連施設の建設が45年3月に終わり,またおりからの金融引締め政策が重なつて,建設労働者の需給は45年春にはやや緩和感がみられたが,基調的にはその不足はますます深刻化,方向をたどつている。いま長期的に景気変動と雇用者数の動きを対比してみると, 第6-8図 に示すように,製造業雇用者数は引締め期には伸び悩んでいるが建設業雇用者数はそれよりやや遅れて引締め緩和後に停滞現象を示している。このような遅れは好況期に確保した受注を引締め期に漸次消化してきたという建設業の持つ特色と,景気後退期に官公庁からの受注確保につとめ,建設活動の維持をはかるという建設業者の動きが雇用面にも反映されたものといえよう。ここ数年の建設業雇用者数は製造業とは逆に43,44年に伸び悩み,ついで45年には前年比5.5%の増加を示したが,39~41年の年間6~7%という増加率に比べて低い。このように43年以降の建設業雇用者数が建設受注の増勢持続にもかかわらず停滞傾向を示しているのは,技能労働力を中心とした建設労働者の確保が円滑に進んでいないことを示している。たとえば最近の技能労働力の不足状況は 第6-9表 にみるように,45年に全産業で180万人不足し平均不足率は20%に達しているが,このうち建設業の不足数は33万人,不足率は32%にのぼり,製造業の19%,運輸通信業の12%をはるかに上回つている。また職種別の不足率は,構造物鉄工が51%と最も高く,これに製かん工(47%)がついているが,建設関係では配筋工(43%),熔接工(36%),建築大工(35%),建設機械運転手(32%)などの不足が著しい。これまで建設業ではその労働力を農業からの流入と,農家からの出かせぎに依存する度合が大きかつた。農林省「農家就業動向調査」によれば, 第6-10表 にみるように,年間80万人にのぼる農家世帯員の他産業への流出のうちの10%の約8万人が毎年建設業に就職し,また年間20万人をこえる出かせぎ労働者のうち50%以上が建設業に就労していることはこのことを裏書きしているといえよう。農業からの出かせぎ労働者数は,米の減反などもあつて最近再び増加傾向をみせ,45年にはその総数は29万人に増加し,このうち建設業への就労者は40~43年当時(年間12~13万人)の約3割増の16万4,000人にものぼつている。建設活動が季節性があり,現場の移動性という特性から,こうした短期労働力に依存することは不可避であるが,労働力定着への努力と,近代的雇用形態への脱皮,さらには長期的な視点にたつた労働力確保のための対策がいまこそ強く望まれる。
建設工事の機械化は30年代はじめのダムやビルなどの活発な建設活動のなかで漸次進行しはじめた。その後30年代後半から40年代にかけてのビルの高層化,高速道路,地下鉄など大規模工事の抬頭で,工期の短縮化と工事の効率化の要請が加わり,さらに最近では労働力不足が深刻化するにつれて施工の機械化は一段と進行している。
近年の建設工事の機械化にあつては,各種堀さく積込機械,コンクリートミキサーおよびトラックミキサーなどのコンクリート機械,ビルブーム,地下鉄建設の進行によるくい打機,くい抜機などの基礎工事用機械,道路建設用のグレーダ,ロードローラーなどの整地機械などが積極的に取り入れられている。こうした機械化は一方では大型ブルドーザ,大型パワーショベル,大型クレーンの例にみるように大規模工事に対処するための大型化というかたちをとつて進み,他方では,省力化を主目的とする小型化,自動化という形をとつて進行している。建設の機械化の状況を土木建設機械の生産でみると, 第6-11図 に示すようにその生産上昇は著しい。生産金額は35年の208億円から,40年には485億円に増加のあと,さらに45年には2,043億円に達しこの5年間の増加率は4倍にのぼつている。
またこのような建設工事施工の機械化と同時に電算機使用による自動設計システムの導入,積算業務の合理化やプレハブ工法の促進,住宅設備のユニット化などが進展している。
以上のように45年度の建設活動は製造業等に比較して総じて順調に拡大したといえる。しかしながら技能労働者の不足が目立つており,年々上昇する賃金を生産性の向上,すなわち機械化,システム化,の促進によつて,どのように吸収するかが当面の課題である。