昭和45年
年次経済報告
日本経済の新しい次元
昭和45年7月17日
経済企画庁
第2部 日本経済の新しい次元
長期繁栄のなかで,経済成長と国際収支黒字の両立をつづけてきた日本経済は,新たな意欲をもつて積極的に国際経済化を進めるべき時期にある。
昭和35年以降わが国はかなり急速に貿易と為替の自由化を推進してきたが,この最近1ヵ年の間にも残存輸入制限品目数を120から98に縮小し,海外渡航制限額を500ドルから1,000ドルへと大幅に綬和し,その他資本交流の面でも自由化努力を進めている。
しかしながら,欧米へのキャッチアップの過程で近年のわが国の輸出競争力が充実したことに比べると,日本経済の国際化の展開がとかく非整合的になりがちなことが,少なくとも現時点においては,国際収支黒字をかなり大幅化させる面をもつてきたようである。日本のようなダイナミックな経済において,対外活動の総合的バランスを常に保つことは容易なことではなく,また速い成長のなかで低生産部門が多く残つていることを想いあわせれば,欧米に比べても国際化への困難が多いのは,事実である。それにしても,世界の中で一国の国際収支黒字が大幅化することは,他の国の国際収支赤字をそれだけ大幅化させ,国際流動性の配分の面から世界の経済と貿易の発展の制約要因ともなる。また輸出商品の海外進出が著しい場合には,国際経済の円滑な発展のためにも自国の輸入の自由化等の国際化の促進が一段と必要であろう。
一方,すでに労働力不足基調に移行し,国際収支の厚みをましつつあるわが国経済にとつても,不足な労働力を使つて割高な物をも生産するという産業構造をいつまでも維持しようとすると,物価上昇を促進し経済効率化と国民生活の安定を障害することにもなる。われわれはかつての労働力過剰,外貨不足時代の日本経済の条件がまつたく一変している点に注目しなければならない。
これらの面から,今後わが国が商品面での新たな国際分業や資本交流を主体的に促進し,広く世界的次元に立つた国際資源の有効な活用をはかつていくことが,自国の円滑な発展にとつても得策であり,世界経済の調和ある発展にとつてもきわめて望ましいことであろう。それはわが国になお残つている産業構造上,諸制度上の後進性を打破し,わが国がこれまでの自由化と国際化だけでなく,日本経済を総体として国際経済化させる方向に転換を遂げていくこと,さらには日本経済を積極的に世界経済のなかでとらえつつその発展を促進させていくことに通じている。
本章では,このような観点から現在の日本経済について,国際収支面を中心に検討を加えていこう。