昭和45年

年次経済報告

日本経済の新しい次元

昭和45年7月17日

経済企画庁


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第2部 日本経済の新しい次元

序章 日本経済の現勢

2. フローとストックの隔たり

以上で概観したのはフロー,すなわち年々の経済活動でとられた日本の経済規模の大きさであるが,ストックすなわち資産の蓄積という面では,欧米先進国との間になお少なからぬ隔たりを残している。多くの国において国富調査資料を欠いている現在,ストックに関する厳密な国際比較は困難であるが,1955年前後の各国のストック推計とその後の国民所得統計をもとにして,おおまかな試算をしてみると 第79表 のとおりである。

国民総生産規模において西ドイツをしのいでいる日本も,ストック全体については,西ドイツの約9割の水準にとどまつている。国民1人当たりストックや国民総生産に対するストックは西ドイツ,イギリスよりかなり低位にある。ストックの内訳をみると1人当たり社会資本ストックは西ドイツ,イギリスの約2分の1でとりわけ住宅については,いまだなお両国の4割弱にすぎない。

これら社会の物的ストック水準が欧米先進国より低いばかりでなく,個人の金融資産保有水準も,個人所得に比べ相対的になおかなりの低さを示している。昭和43年の日本の1人当たりの金融資産保有高はアメリカの約6分の1にとどまつており,同年の1人当たり国民所得がアメリカの約3分の1であつたのと比較してみても,フローとストックの距離は大きい( 第80表 )。

総じてわが国経済がフロー面では著しい規模拡大をとげているにもかかわらず,ストック面の蓄積が相対的にかなり立遅れているのは,わが国の工業化の歴史が欧米よりも浅いことにも原因している。それだけに速い成長を目ざしつつ年々の成長の成果をつぎの発展のための生産力,国際競争力の拡充にふり向け,住宅など生活関連資本の拡充余力が相対的に少なくならざるをえなかつた面もある。しかしながら生活関連資本ストックの立遅れや,個人金融資産ストックの相対的なおくれがあることが,日本経済のフローの規模が大きくなつたわりにはなお国民生活に未充実感をいだかせる一因ともなつている。フローでみた経済規模が国際的にみても相当の大きさに達しつつある現在,日本経済はストックの蓄積,とりわけ福祉充実に役立つ国民的富の蓄積をはかることをより重視すべきであろう。


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