昭和45年
年次経済報告
日本経済の新しい次元
昭和45年7月17日
経済企画庁
第1部 昭和44年度の景気動向
第3章 景気調整策の新しい課題
44年の春以降拡大のテンポを速めたわが国経済は,夏頃からしだいに過熱の徴候をみせはじめた。
まず,鉱工業生産が3月以降一段と強い増勢を示す一方,企業の設備投資計画にも増額修正の動きが目だつようになつた。こうした経済拡大のテンポの加速化のなかで,需給関係は一段と引き締まりの度を加え,卸売物価の騰勢もしだいに強まつていつた( 第56図 )。
経済実体面での拡大加速化の徴候に加え,金融面でもいくつかの懸念すべき現象があらわれるようになつた。それはまず,日銀券の増勢が高まつたことである。日銀券の平均発行高は前年同月比で7月17.8%,8月18.6%増と増加テンポを速めた。日銀券の動きは,家計消費支出額に示される消費動向や,鉱工業出荷額指数に示される生産活動等によつて説明されるが( 第57図 ),44年初め以降家計消費の増大に加え,出荷の増大と卸売物価の上昇による出荷額指数の増加によつて,日銀券の増加テンポが高まつたことがわかる。
一方,預金通貨も4月から16%台の伸びを示したあと7月18.0%,8月21.3%増(いずれも残高の前年同月比)と急伸した。
以上のような通貨供給の増大を供給経路別にみると,43年末から国際収支の大幅黒字にともなう対外資産の増加による通貨供給が大きくなつているが,43年末以降の増加のかなりの部分は民間向け信用の増大によるものであつた( 第58図 )。民間向け信用の増大は,主として貸出によるものである。44年春以降金融引締めの開始まで,都市銀行をはじめ,各金融機関とも貸出の増加テンポを速め(後掲 第62図 ),通貨供給の増加をもたらすこととなつた。通貨供給の急増は経済活動全般の高まりを反映したものであつたが,それはとくに企業の手元流動性や設備投資計画に影響を与えていつそう投資意欲を強め,先行きの経済拡大のテンポをさらに加速する懸念があつた。
こうした情勢から,日本銀行は景気の過熱を防ぐことを目的として44年9月1日公定歩合を0.41%引き上げ,つづいて9月5日には預金準備率の引上げを行ない,同時に都市銀行等に対する資金ポジション指導も強化することとした。