昭和45年
年次経済報告
日本経済の新しい次元
昭和45年7月17日
経済企画庁
昭和44年度は,4年つづきの長期繁栄のなかで,日本経済の新しいあり方が改めて問われた年でありました。本年の経済白書はこれに関連して二つの角度から問題を考察しました。
第1は,長期繁栄のなかで物価安定が大きな課題となつてきたことであります。現在まで景気は息の長い上昇をつづけ,この7月で景気上昇の57ヵ月目を迎えております。この間,企業収益も9期連続の増収増益となり,賃金も44年度には,16.2%の大幅上昇となりました。しかし,他面,44年度には,長期繁栄は国内の需給のひつ迫と海外インフレの進行を背景とした物価の高騰という試練を迎えることとなりました。従来は,国際収支赤字の改善が景気調整策の最大の目標でありましたが,今回は国際収支黒字下で物価安定をはかるため金融引締め措置がとられました。45年度に入つて引締め効果は物価面にもしだいにあらわれはじめていますが,物価の安定をさらに確実なものとしながら,持続的成長をはかつていくことが当面する日本経済の大きな課題であります。
第2は,日本経済が新しい発展の次元をめざして,大きな転換を遂げようとする時期にあることであります。昭和41年以降の持続的繁栄の結果,わが国の経済力は格段に大きくなり,国際的地位も著しく向上しました。いまやわれわれは総生産規模2,000億ドルにもなんなんとする巨大な経済力を手に入れました。この巨大な経済力をいかに有効に活用していくか,そのためにいかに賢明に政策を選択していくか,これこそ70年代初頭のわれわれに与えられた最も重要な基本課題であります。そのためには,日本経済が国際経済社会で立派に通用するように経済構造を改変していくことやインフレなき繁栄に向かつて努力を払いつつ,公害なき社会,豊かな福祉経済社会をめざして前進していくことなどが今後の大きな政策目標でありましよう。
以上のような諸課題の解決はもちろんたやすいことではありませんが,われわれのすぐれた経済力と向上意欲をもつてすれば,量的質的にみで世界できわめてすぐれた経済社会を実現していくことが可能であると存じます。
この白書を通じて国民の方々が,この日本の国土に「進歩と福祉が調和しあつた真に豊かな経済社会,文化社会」を実現するにはどうしたらよいかについて思いをめぐらす手がかりとなりますならば,それはきわめて意義深いことと思うわけであります。
昭和45年7月17日
佐藤 一郎
経済企画庁長官