昭和44年
年次経済報告
豊かさへの挑戦
昭和44年7月15日
経済企画庁
第1部 昭和43年度の景気動向
2. 景気上昇の性格とそれを支えた要因
住宅建設の高まりは,近年における国内需要拡大の大きな要因であつた。
住宅投資の大部分を占める民間住宅投資の成長率は,31~41年間では年平均21%(実質15%)であつたが,42年26.2%(実質16.4%),43年(速報)には31.5%(実質24.1%)と高まつてきた。一方政府住宅投資も42年13.5%(実質5.3%),43年(速報)22.0%(実質16.9%)と増勢を強めている。住宅投資が年々,経済の成長率を上回つて伸びた結果,その国民総生産に占める割合も35年の4.3%から43年には7.2%(40年価格では,67%)へといちじるしく増大した( 第53図 )。
住宅投資の実質的な伸びの内容を,新設戸数の増加による分,新設住宅の規模の拡大による分,床面積当たりの投資額の増加による分などにわけてみると,42年以後戸数の増加による分がいちじるしいという特徴がみられる( 第54表 )。
住宅投資の実質的伸びに占める戸数増の寄与率をみると,30年代中頃の都市における量的な住宅需要の高い圧力のもとで圧倒的に大きかつたが,30年代から質的な向上が目立つた結果,39~41年には36.9%にまで下がつていた。しかし,42,3年には93.6%,84.0%と高まり,住宅投資の力点が再び戸数増加になつている。
このように戸数が著増した反面,30年代末からいちじるしく進んできた住宅の質的な向上のテンポはこのところやや停滞し,ことに43年では新設住宅1戸当たり床面積が小さくなつた。また,住宅建築費と,住宅投資に深い関連がある宅地価格の上昇率も30年代末から40年代はじめにかけてひところより落ち着いていたが,ここへきて再び高まりをみせている( 第55図 )。
以上にみたような諸特徴は,いずれも住宅の新規需要,とくに戸数の需要が旺盛なことを示しているといえよう。
新設戸数の種類別増加率をみると,貸家と分譲住宅の増勢がとくにいちじるしく,なかでも非木造アパートの貸家と非木造アパートの分譲(いわゆるマンションなど)の急増と木造アパートの貸家が再び増勢に転じたことが注目される(第56表)。持家そのものは安定的に伸び,その規模の拡大もいちじるしいが,規模の狭少な貸家などが相対的に高い伸びを示したため,さきにのべたような住宅全体の規模拡大の停滞となつたのである。持家の安定的な高い伸びとその規模の拡大は所得水準の向上と蓄積の増大にともなう居住水準改善意欲のあらわれであるとみられる。また貸家の急激な増加は人口の都市集中や核家族化がもたらす若年層を中心にした小世帯の増加に応じるものとみられ1戸当たり規模拡大テンポは停滞したが,世帯人員が少ないという面もあり,居住水準の向上が遅滞したとは即断できないと思われる。
農家においても住宅投資の伸びはいちじるしい。農家経済調査によれば,43年度の建物購入額(新.増改築)は前年度比30.9%増(42年度20.7%増)と高まつている。農家の住宅建設意欲が高いのは,①改築修理を要する古い家屋が多いこと②生活様式の変化に見合つた新らしい構造が求められていること③近年農家所得がいちじるしく向上したこと④宅地に恵まれていることのほか,後述するような住宅金融に支えられているところが大きい。
このような活発な住宅建設投資は,近年とくにいちじるしい住宅金融制度の整備によるところも大きい。個人向け住宅金融の形態には ①公的機関の住宅融資 ②民間金融機関の住宅融資 ③企業が従業員に対しておこなう住宅融資などがある。産業の資金需要の旺盛なわが国では,個人向けの長期低利の住宅金融は,これまで公的機関によるものが圧倒的に多かつた。民間金融機関が消費者信用の一環として個人向け住宅金融を実施しはじめたのは30年代央であつたが,当初は,貸出しに先立つて相当の積立預金を要件とするなど産業資金源として個人預金の吸収に重点が置かれていた。しかしながら,最近は民間金融機関においても長期的観点から融資対象としての個人層を重視するようになりつつあり,住宅金融の分野における民間金融機関の比重は急速に高まつている。また農家の住宅建設を支える農協の住宅金融の比重も増大している( 第57図 )。このほか,30年代後半から企業の住宅対策が給与住宅から持家促進に重点を移している例が多く,持家援助の一環として住宅融資制度がかなりの役割を果たしてきたとみられる。
このような住宅建設需要の拡大は,住宅関連産業に大きな刺激を与えている。住宅建設は,それ自体3兆円をこえる巨大な需要であるが,多種多様な資材を需要するため,これに関連する産業も各分野にわたり,また,これにより誘発される生産は木材,窯業・土石をはじめ金属・同製品などの業種で大きな比重を占めている( 第58図 )。わが国の住宅建設は,これまで伝統的な一品生産的工法による木造住宅が主流を占めていたが,都市における宅地問題や,木造建築物価の高騰は,新建材・新工法などの技術革新の進展と相まつて,住宅の共同利用,超高層化や大量生産化を迫つている。また,これまで相互の関連なしに扱われていた居住環境の諸要素を一つのシステムとして捉え,技術集約的な総合商品として住宅および居住環境を作り出そうとする芽生えもあり,このような動きに着目した大企業や企業集団の住宅建設への進出が最近目立ちはじめた。