昭和42年
年次経済報告
能率と福祉の向上
経済企画庁
第2部 経済社会の能率と福祉
むすび
日本経済は,輪出の増大と景気対策が呼び水となつて,昭和40年秋ごろを底に不況から立直り,41年なかばになると,民間投資や個人消費の増勢が回復し,景気は自律的な上昇過程ヘ移つた。
民間設備投資は,需給ギヤツプの解消や企業収益の好転などを背景として,再び増勢をつよめつつある。それは国際競争力の強化,労働生産性の上昇,供給能力の拡充によつて日本経済の能率をさらに高めようとするあらわれである。しかし,その反面,このような経済情勢を背景として,過去にみられたような投資のゆきすぎが行なわれたり,労働需給の逼迫ともあいまつての賃金の急上昇がもたらされることになると,それが物価上昇の一因ともなりかねない。
一方,景気が上昇するなかで,輸出余力の減退や海外景気の停滞が重なつて輸出の伸びが鈍化し,貿易収支の黒字幅が縮小している。今後,国内の供給能力の拡大や海外景気の好転など輸出の前途を明かるくする面も期待されるが,国際収支の先行きについては慎重に見守る必要がある。
以上のような事情に鑑み,国際収支,物価,雇用などの動向に留意し,財政と金融政策の調和をはかりつつ,その適切かつ弾力的な運営によつて景気の行きすぎをさけ,現段階を持続的成長の第一歩とすることが昭和42年における日本経済の重要な課題となつている。
このような当面する課頭を解決しながら,より長期的には,以下の点に配慮しつつ経済社会の均衡ある発展を図らなければならない。
第1は,経済全体の能率をいつそう高めることである。わが国経済は,いまや米ソについで,英独仏と肩を並べて1,000億ドル経済の規模に達したが,1人当りの所得水準でみるとなお低く,生産性を引上げる余地が多分に残されている。今後は,わが国のもつ潜在能力を十分に開発・活用し,能率を高める必要がある。
そのためには,1つは,健全な競争を促進して技術進歩をすすめることである。これまでの技術革新は多分に先進国への技術依存という面も含まれていたが,技術水準がかなり先進国水準に追い付いてきた今日では,独自の技術開発を進め,資本と労働のいつそうの能率向上を図ることが望まれる。
また2つには,関税一括引き下げ,資本自由化など一連の国際化に適応することによつてその利益を進んで享受し,あわせて国際的協力の実をあげうるよう積極的に日本経済の近代化を進めることである。
3つとしては,先行き増加率の減少が予想される労働力について,その流動化を促進するとともに質的向上を図り,労働生産性をいつそう高めることである。
第2は,以上のようにして高められた経済の能率向上の成果が,窮極において国民の福祉の増大に結びつくものでなければならない。
まず,物価の安定を図る必要がある。そのためには各分野での生産性をあげ,競争条件を整備しながら,その成果が有効かつ公平に配分されるように考慮し,とくに,消費者物価の上昇が家計や貯蓄に悪影響を与えている点に鑑み,極力その上昇を小幅にとどめるべきである。
また,近年人口や産業の都市集中などから,地価上昇や公害現象の多発化が問題になつている。これらの問題は,経済の発展に伴い,経済活動の社会的影響力が強まるにつれてふえていこうが,経済的合理性と社会的公正の両面から計画性をもつて適切に処理されるべきである。
さらに,経済の能率化を進め,その成果が国民の福祉増大につながるためには,資源配分機能としての財政金融政策のもつ役割が大きい。とくに,遅れた部門の生産性上昇を誘導したり,国民の欲望の変化に対応してふえている社会的消費需要を充足させたりする役割は大きい。これは国民の協力によつてはじめて円滑に実施されるのはもちろんであるが,財政金融自体の能率化が必要であることもいうまでもない。
日本経済はいまや新しい時代を迎えつつあり,その目標は能率の高い経済の実現を通じて福祉社会を建設することである。